Gain 20:毒人参' Transports

 毒人参ヘムロック一行は街で、いい感じの魔物が出現する場所を聞き出すために、情報収集を行っていた。


「え、きゃあ、何ですか、近寄らないで!」


「う、うわ、赤紫ッ!気持ち悪ッ!いや、ウワハハ、来んなよ!!」


「ママ~、変態だよ~!」


 街の人は毒人参ヘムロックの奇怪な全身メイクを見て誰もが逃げ去る!

それもそのはず!

ユメタローは今や全裸になっていた!

意味不明であるが、着ていた衣服を全部脱いだのである!


「うわあっ!病気の色のちんこだッ!!!」


「何であいつあんなに胸を張って堂々と歩けるんだ!?」


 ユメタローは根本的に恥の概念を持っていないので、こういうことをたまにする!

彼の目的はもはや情報収集ではなくて、街の人が驚き騒ぐ姿を見たいだけなのだ!

それ故に自らのイチモツがまろび出るに任せ、歩けば右に左に揺れるふぐりをこれ見よがしに晒している!

しかもそのキャットウォークたるやプロも顔負けの優雅さである!


「いや、情報収集できないからやめろや……。ちんこ隠せや……。」


「えー、せっかく盛り上がってたのに……、しょうがないなぁ。」


 そう言うとユメタローは魔力を股間に集中させ発光させた!


「うわ、眩しい!あの光の中心、恐らく何か見えてはいけないものがあるけれど、光が強すぎて直視できないわ!」


「なんという魔力量!不思議と神々しさを感じてしまう!」


 輝きの中に消えたイチモツであったが、その姿はいっそ奇異!

しかし街の人の反応はただ全裸であったときよりもポジティブな様子である!

今だとばかりにアヤカはひとりの紳士を捉えて質問をする。


「この辺りでいい感じに威厳のある魔物が出る場所ってない?」


「あ、あんたらは昨日の酒場の……、何やってるんだ一体。」


「それは私たちにもわからないわ!!」


「……い、威厳のある魔物なら、ここから西へ少し行ったところにある遺跡に、恐ろしい魔物がいると聞いたことがある。テリトリー外へは出ないので、今は放置されているが、この辺りでは一番危険な魔物であるとの話だ。」


「よし、それだな!早速行ってみようぜ!」


 情報を得た毒人参ヘムロックは早速街を出て行った。

奇警きけいな一団が去るのを街の人々は眺めていた。

やがてその輝きは小さくなり、見えなくなったのであった。


* * *


 街で馬を借りて移動すること一時間ほどで目的の遺跡へ到着した。


「結構街の近くにあるのに討伐隊が編成されないのは、きっと今イゼベルを治めているのが魔族だからよね。普通に考えたら危険だもの。」


「だろうね~。

あと領主が人間のころも、危険度が高いから後回しにされていた可能性もあるね。」


 周りを見渡すと閑散としており、魔物の気配がないように思われる。

遺跡はなにかの祭祀場さいしじょうの跡だろうか、しかし壁も階段も崩れ荒れ果てており、元の姿を想像するのは難しく、ユメタローは未だ全裸でウロウロしていた。


「オイオイオイ、魔物、いねえじゃん?早くしねえと公演が始まっちまうよ!」


「今は確か前座の劇団が短い演目をやってるところよね。確かに急がないと。」


 すると気配もなく遺跡の残骸の裏から次々に魔物が現れる。

一本角が額から生えた狼たち、雷を纏って静かに毒人参ヘムロックを囲む。


「おっとこれは、優雅さと威厳を感じる良い見た目だぜ。」


 そう言うとツカサは背負っていたギターを構える。

そしてアヤカはツカサの剣を借り、ユメタローはジャンベを構える。


「数を減らして最後の一匹を混沌ダス・ヒヤオースで使役するで良いわよね!」


「おう頼んだ!!」


 ユメタローはジャンベを叩く、それに呼応するかのようにツカサのギターが泣く。

一角狼は角に雷を集めて放つ。

周囲の地面が雷撃の激しさにえぐれる。凄まじい威力だ。

アヤカは跳躍し、それを剣で受けると、空中にてそのまま相手に雷を返した。

彼女はフロム・ソフトウェアのゲームのファンであった!

ユメタローの股間の輝きが増し、それが光線となり魔物を薙ぎ払う!

興奮したツカサは地面に転がり、遺跡の破片で体中から流血している!


「ヴォーッ!エ゛アッ~ッ!!!」


 全身を赤紫に塗った集団が、剣を振るい、転がり流血し、股間からビームを放つ。

その絵面に魔物も困惑し、群れのチームワークも精彩を欠く。


 やがて激しい戦いは終わりを迎える。

毒人参ヘムロックは一角狼の群れを撃退し、最後の一匹を使役するのに成功した。


 ツカサは血まみれになり、肩で息をしながら言う。


「はぁ、はぁ、ついにやったか。これで、劇場に、入れるはず……。」


「あー、そう言えばそういう目的だったわね……。」


「よし、じゃあ、街に戻ろうか。」


 三人は楽器や武器を片付けて馬を止めてある場所に向かう。

だが狼のキャンという鳴き声が聞こえたかと思うと、一角狼が体をひしゃげて遺跡の壁にぶつかる。

背後で息遣いが聞こえる。

静かな呼吸だが、その巨大さ故の恐ろしい音の息遣い。

三人は恐る恐る振り返る。


「こ、こいつは!?」


* * *


 劇場では前座の劇団、魔族の劇団による勧悪懲善かんあくちょうぜんの王道劇が終わった。

彼らは拍手の音で包まれながら退場していく。

身なりの良い魔族はハンカチで鼻をかみ、感動を噛み締めているようであった。


 一般席よりも上の貴賓席では美しい服を纏った美形の魔族が豪華な椅子に腰掛けて、オペラグラスを片手に感嘆の言葉を漏らしていた。


「さすが魔族劇団の中でも新進気鋭と呼ばれるだけある。

荒削りではあるが、観客の感情移入を誘う見事な演技力。素晴らしかった。」


「ミントン卿のお気に召したならば幸いでございます。」


 ミントン卿と呼ばれるこの者、七樹魔聲卿ヴォイス・オブ・ザ・セブン・ウッズのひとり。

その通り名、絢爛卿けんらんきょうミントンである。

豪華絢爛を尊び、快楽主義を地で行くデカダンスな魔族である。

その力は飛竜卿オスタータグを凌ぐとも言われており、ただの数寄者ではない。


「次はいよいよメインの出し物か。非常に楽しみである。

うふふ、この一週間、とても待ち遠しかったよ。」


 ミントンはテーブルに綺麗に引かれた一列の粉を吸引し鼻をムズムズと動かすと、鼻水とよだれを垂らし、快感に身を震わせて失禁をした。

執事が「おやおや」といってそれを処理する。

ミントンは恍惚とした表情で舞台の方を眺める。


 劇場の照明が薄暗くなり、スポットライトが舞台を照らす。

着飾った魔族が登場し、首から鎖付きの首輪を下げた人間が連なって入ってくる。

会場は歓声があがり、指笛や拍手で大いに盛り上がっている。

魔族も変態の人間も一様に興奮している様子だ。


「長らくおまたせしました!

絢爛卿所属の魔族による豪華絢爛な美しき処刑をご覧にいれます!

処刑された人間はあとで劇場付きのシェフが腕によりをかけ調理しますので、そちらもぜひお楽しみください!」


 舞台に並ぶ金や銀、宝石で飾られたきらびやかな拷問器具や処刑器具。

それを前に首輪を付けた人々は恐怖で表情が引き攣っている。


「うんうん、僕は人間は平等であるべきだと思う。

貧富差、血筋の差などなく、等しく死と痛みの恐怖を味わえるべきだ。」


 ミントンは満足そうに舌舐めずりをしながらオペラグラスを覗いている。

まるで人間の恐怖を舌で転がして味わっているようである。


 平民の若い女が魔族に引かれて、拷問椅子の前に連れてこられる。

女性は抵抗したが、魔族は力が強く、やすやすと彼女を椅子に座らせて固定した。

そしてまるで貴族が食事を楽しむような優雅さで拷問器具を手に持つ。


 誰もが抑えきれぬ嗜虐心に駆られ次の瞬間を楽しみに前のめりに眺めている。

舞台の拷問人が今まさに女性の爪を剥がそうとしたその瞬間。

大きな破壊音が入り口で鳴り、奇声が聞こえてきた。


「オ゛ッヴォポポウッ!ヴァッ!」


 ミントンはオペラグラスを下げると不機嫌そうに言う。


「一体何が起こったのだ!?」

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