Gain 19:Lotus Collage
イゼベルの街はきらびやかで建物もすらりとしており美しい。
さすが舞台芸術の街と言った風情だ。
ただどうも住人たちは元気がなく、活気が満ちているとは言えない。
ヒュースコアほど荒廃した雰囲気はないが、ぜんたいどうにも元気がない。
アラン・ラムのような市場を行き交う人々の笑顔もなければ、メレディスのように生命力に溢れた快活さも感ぜられない。
「住民がお高く止まってるだけじゃない?」
「まあそれなら良いんだけれど、確か魔王軍に下ったとか噂もあるんでしょう?
もしかしたらそれが原因で街の人の活気がなくなっている可能性もあるわ。」
「でも人が襲われているような様子はねえよな、建物も綺麗だしよ。
ま、そんなこたぁいいから宿に行こうぜ!」
無一文なはずの
だが心配には及ばない!
彼らはメレディスの人たちが行っていた人身御供の罪悪感に付け込み、砂神退治の報酬を要求し、包み金として徴収せしめていたのである!
「たんまり儲かったからな、ちょっと広めの宿に泊まろうぜぇ~。」
三人は最高級ではないが、それなりに良さそうな宿を探しあてた。
「三名様で一晩150モネです。」
「た、高ぇえ~!!」
「ヒュースコアの宿の10倍なんだけど!」
「一応観光地となっておりますので、この街の宿は基本的に割高なんです。
特に舞台芸術を嗜む層は貴族や一部の成り上がり商人なので、自然と高値に設定されていますね。
お客様たちは旅人のようですし、商売抜きでアドバイスするなら、街の外れの方に旅人用の手軽な価格の旅籠がありますので、そちらを推奨しますよ。」
「だが俺はこの宿に泊まる!何故なら今、金を持っているから!」
「こいつに財布握らせるのもうやめない?」
「ねー、ツカサ~、旅人用の宿にしようよ~。」
「俺は思うんだが、こういういいホテルはトイレがある。
俺はもう変な壷にクソや小便をするのが嫌なんだ!」
「まあ確かにウチはトイレをご用意しておりますが……。」
「ホラ見ろ!
俺はな、新宿じゃ高島屋のキレイで広々としたトイレしか使わねえんだよ!
それくらいうんこの快適さは人生の快適さに繋がっているんだ!」
「アヤカ~、この状態になったら次は駄々っ子になってゴリ押して来るだけだよ~、相手にしていても体力の無駄だし、もうここにしない~?」
「金が無駄になるじゃない……。
まあでもこの状態になったら言っても無駄なのはわかるわ。
しょうがないわね!でも最大で二日間だけよ!
あとは旅人用の宿に泊まる、良い!?」
「うわー、やったぜ~!快適なうんこだ~!」
こうして
* * *
街に出ると早速人々が集まる人気の酒場に入った。
中には所狭しと人々が飲み食いしており、少しばかりの活気を感じる。
さすがに酒を飲む場はハメを外したいと思う人々が集っているようだ。
「酒も肴もウマーイ!この芽キャベツのオリーブオイル煮みたいなのもいいわね。」
「なあ、あんた、この街はどうにも活気がねえが、噂は本当なのか?」
ツカサに話しかけられた紳士は酒に酔い、赤い顔をしてコソコソと答える。
「ああ、本当だ。魔族のやつらがこの街を牛耳っている。
今のここの領主は
裕福層が暮らすエリアはもう殆どが魔族の住処となっているよ。」
「マジかよ、それでここの街はなんだ、税とかの締め付けが強くなってるとかか?」
「いいや、そういうわけじゃあないんだ。基本的には前と同じ生活ができてる。」
「あ?じゃあ何でだよ。」
「奴らは劇場でおぞましい出し物をやっている。
それが原因で次は自分たちの番なんじゃないかってみんなが思ってるのさ。
まあ、どんなことが行われているかなんて、俺の口からじゃあ言えないよ。」
「へっ、何だよじゃあその出し物見に行ってみるかな。」
「街で三番目くらいにデカい劇場で行われているよ。
確か明日あたり公演があったはず。でも入場料が凄い高いぞ。
魔族と一部の変態貴族だけが見に行くくらいだ。」
「こう見えて俺たち金持ってんのよ。いくらくらいなんだ?」
「詳しくは知らないが前回は20万モネだったらしい。」
あまりの高額さにツカサは椅子ごとひっくり返った!
そして後頭部をしたたかに打ち、流血するのだった!
頭部から血を流しながら再び座ると改めてびっくりした様子で言った。
「いや、高すぎるだろ!何だよそれ!どういうことだよ!」
「まあ、魔族向けの演目だからなぁ。で、魔族は割引が利いて安く入れるらしい。」
「ってことは魔族のフリをして入るのがいいのか?」
「は?いや、あんた、魔族のフリって全然見た目も違うし……。」
しかし一度アイディアが浮かぶと止まらないツカサは妄言を続ける。
「そうだ、うまいこと魔族のフリをして安く入る、そしてついでにその大舞台で
「なんかツカサ飲み過ぎじゃない?」
「あんまり話を聞いてなかったけれど、嫌な予感だけはするわね。」
「金を節約してこの街の問題を知ることもできる、ライブもできる、あわよくば
こうしてユメタローとアヤカの同意を得る間もないままツカサは計画を立てていくのだった。二人は翌日にその計画を聞かされて、その浅はかさに呆れながらも従うことになる。
* * *
「ということで俺たちはオスタータグ風の色、つまり赤紫に全身を塗ったわけだ。」
「あんた本当に馬鹿なんじゃないの?」
「さすがに騙される魔族いないんじゃないの?
オスタータグを見る限り、あいつらって人間と同等かそれ以上の知性があったよ。」
彼ら三人は全身を赤紫に塗っており、そこにいつもの旅装とは違う、ドメスティックな装いを纏っていた。
その姿は大道芸的と言えば聞こえは良いが、街中で出逢えば完全に変人のたぐいである。魔族ではなく、病気の人間である。
「これで騙されたら魔族は相当馬鹿よ。」
「まー、これでツカサが納得するならやってみるしかないよ~。」
「よし、じゃあ件の劇場に行くぜ!」
三人は昨日の紳士に教えられた場所へと向かう。
人々は完全に彼らを避けて歩いたので、人通りの多い道も非常に歩きやすかった!
程なくして劇場に到着する。豪華絢爛、外壁の彫刻も素晴らしい建築物である。
中に入ると受付に魔族がいる。肌の色は緑色。
色の違いに
が、ツカサがすぐに毅然とした態度で受付へ向かう。
「三名だ。」
受付の魔族はチラリとツカサの顔を見て言う。
「20万マネ。」
「おい、待て待て、同族にそりゃあねえだろ。」
「頭か心の病院に行け。」
そうしてにべもなく追い出されてしまう。
そうこうしている間に正装した魔族や金持ちそうな人間が次々受付を済ませていく。
中には魔物のペットを連れて入る魔族などもおり、非常に優雅な雰囲気だ。
「ねえ、満足した?ツカサ。」
「僕はもう帰って体洗いたいよ~。」
「いや、待てよ、俺、判っちまったかも知れねえ。」
「この感じ、これまだ続くわよユメタロー。」
「ああ~、もう覚悟をキメるしか無いよね~……。」
「ペットだ、俺たちに足りないのは厳かなペットだぜ!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます