Gain 18:Sand Stems
祭りが終わって、人々はお腹いっぱい、酩酊して各々が家に帰っていった。
その静けさに少しの寂しさを感じながら
「なあ、もうこの街にもそこそこ滞在したし、そろそろマジで行動しねえ?」
突然口火を切ったのはツカサである。
あの無精なツカサが旅に出るのを提案するとは信じられない、と言ったふうで二人は驚いてしまう。
「ツカサが冒険を促している!?」
「
「マジで魔族の貴族とかいうやつら相手にするつもりなの?
危ないことせずに音楽だけやっていけばいいじゃないの。」
「だって倒さねえとCDプレイヤー手に入らねえ!」
「うわ、こいつ、そうだったわ!今は
「まあ、僕はどっちでも良いんだ~、冒険をしなくても毎日のほほんとして過ごせるし、魔族の貴族を追うとなっても血の雨が降って毎日が刺激的になるし。」
「私はめんどくさいわ~。でもまあ、音楽を広げるという目的のためには旅を続けて、色々な場所で演奏することが重要というのもわかるわ。」
「じゃあ、旅を続けるってことで良いな!」
そこへレン・タンが全員分の飲み物を持って現れる。
「お、何だ、何の話をしているんだ?」
「ああ、僕たちそろそろ旅を再会しなきゃねって言う話をしてたんだ。」
「え、そうなのか?ずっとここにいても良いんだぞ?
おまえらはアタシの命の恩人だし、私は独り身だけれどお金もあるし。
三人を養っていくくらいわけないぞ。」
「いやぁ、俺達には使命があるんだよ。この世界で音楽を広めて、天下を取る。
ついでに
「本当にお世話になったわ、レン・タン。ありがとう。」
突然の話にレン・タンは悲しそうにしたが、やがて納得したように頷いた。
「そうだな、おまえらすごく強かったもんな。
それに何より音楽ってやつだ。確かにアタシが独り占めするにはもったいないヨ。
多くの人に聴かせてやってくれ。心躍る最高の音楽ってやつをさ。」
自分たちの音楽が人の心を動かしたという事実に感動する。
「へっ、ありがとな、レン・タン。俺たちはこの世界で最高のバンドになるぜ。」
「ところでこの街から向かうとしたら、何処を目指していくのが良いのかしら。」
「ああ、それなら北に暫く行ったところ、砂漠が途切れた先にイゼベルって街があるヨ。舞台芸術が盛んな街だから、大道芸が得意なあんたたちも歓迎されるんじゃないかな。」
「お、いいじゃねえか。ライブハウスに似た施設も見つけられるかもな。」
「ただ、最近のイゼベルは魔王軍に下ったという噂もあるから気を付けるんだヨ。」
「まあ、それならそれで僕たちの目的に適うから良いんだけれどね~。」
「ところで砂漠はどうするの?食料や水を分けることはできるけれど、移動は?」
「ああ、それなら、あの自動演奏装置を使うわ。
あれなら移動も早いし体力も使わない。いざとなれば戦闘もできるしね。」
「あはは、そいつぁいいね!」
* * *
翌日、レン・タンから旅のための様々な物資や地図を貰い、街の人々に見送られながら
街の住民が彼らに向かってバツが悪そうに言う。
「あんたらにはその、迷惑かけちまったな、俺たちの街の問題でよ。」
「俺たちはこの街に救われたんだぜ、これくらいの骨折りどうってことねえよ。」
「またきっと会えるよね?」
レン・タンが彼らに向かって寂しそうに問いかける。
それに対してユメタローが答える。
「うん、そうだね~、レン・タンの料理もまた食べたいし、きっと会いに来るよ。」
三人は自動演奏装置の背中に乗り込む。
「それじゃあみんな、またね!
自動演奏装置、出発!目指すは舞台芸術の街イゼベルよ!」
すると自動演奏装置は演奏を開始し、移動を開始する。
ツカサは興が乗ってカンリンを勢いよく吹く。
古代の兵器はものすごい勢いで砂漠を駆けて行き、あっという間に見えなくなった。
「ありがとう、
あなたたちの音楽ってやつ、素敵だったヨ。」
* * *
「砂漠は~、暑いけど~、うんこが即座に乾くから~、悪いことばかりじゃない~」
ツカサは機嫌よく変な歌詞を歌いながらギターを爪弾いている。
ユメタローは昼寝、アヤカは楽器のメンテナンスをしていた。
自動演奏装置の旅は非常に快適だった。
素早い移動に比して、上等なスプリングによって揺れは少なく、なんと背中から送風まで出てきて涼しいのだ。恐るべき古代兵器。
「ここまで快適だと砂漠の風景も綺麗ね~、とか思っちゃうわ。」
「喉カラカラで歩いてたときは最悪な景色だと思ってたけどな……。」
なだらかな砂丘、くっきりとしたコントラストの影、砂が風で波打つ様子。
確かに命の危険がない限り、この風景は彼らの目に美しく映った。
そうこうしているうちに植物が増えてくる、まだ荒涼とはしているものの、風景が変わってくると気分も変わってくる。
二人はちょっといい気分になって演奏を続けた。
日が傾く前に街が見えてきた。まばらな緑に少し荒れた土地。
しかし建物は整然として清潔で道路も舗装されており、生活水準の高さが伺える。
街の近くまで来て三人は自動演奏装置から降りる。
「こいつ、街中に連れていけるのかな。」
「ビーッ!テリトリー外ヘ出テオリマス、60秒ゴニテリトリーヘ帰還シマス。」
「あれ、こいつもしかして遠くまで行けないのかな~。」
自動演奏装置は体を揺らすと、鉄琴の一部が落下する。
それは丁度人の身長ほどの大きさで、厚みも10センチメートルほどあった。
「オ別レノ、ぷれぜんと、デス。
アヤカサマ、コレデ、ブキ、コサエテ、クダサイ。」
「確かに私はこの前の戦いで武器をオシャカにしちゃったけれど、覚えていたの?」
「ドウゾ、ココロバカリノ、オワビ、デス。」
「随分賢いAIだね~。すごいな~。」
「ユメタローの魔力を込めた剣の攻撃でも壊れなかった超高硬度の古代の物質。
これを武器にしたら確かに凄いものができそうね!
よし、私の能力でいっちょ作ってみるか~。」
「ハイ、60秒、タチマシタ。ホナ、サイナラ。」
自動演奏装置はそう言うと踵を返して砂漠の方へ駆けて行った。
来たときと同様にものすごい速さで疾駆して、砂上の点になってしまった。
「行っちまったな……。」
「何だか不思議な存在だったね~。」
「でもあの機械に遭遇したことでハッキリしたことがあるわ。
この世界はロストテクノロジーが存在する。
何らかの理由でその技術は断絶され、今に伝えられていない。
そして、この世界にも過去、音楽が存在していて、今では失われている。」
「まあ、俺達に関係あんのか?って言うと良くわかんねえな。
ここの世界の連中が根本的に音楽に対して開かれた感性を持ってるのと関係があるのか?ってくらいか。」
「ま、わからないことを捏ね繰り回してもなんにも出てこないしさ~、取り敢えず街の宿に入ってゆっくりしながら、夜は情報収集と行こうよ~。」
「そうだな、じゃ、行くか!」
こうして
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