Gain 17:The Elektrik Karousel

 自動演奏装置はその巨体を揺らしながら音楽を奏で続ける。

レン・タンはすっかり怯えてしまい、いつもの快活さが見られない。


「レン・タン、俺たちの後ろにいるんだぞ!

変な気を起こして前に出るなよ!」


「わ、わかった!」


 人身御供の覚悟を決めていたはずの彼女も、この意味不明な姿をした砂神を前にして命が惜しくなったのか、砂神に信仰的な意味で懐疑心を抱いたのか、毒人参ヘムロックの後ろに従い、懸命に生き延びようとしている。


「しかしすげえ音だなぁ、マジで羨ましいぜ。

これ解体して自分たちの楽器にできねえかな。」


「サイズ感がこれだから、持ち運ぶのめちゃくちゃ大変よ。

ツカサが持ってくれるなら加工するけど。」


「いや、やっぱり今のなしで!」


「!みんな、散開して!!」


 恐ろしい突進力で自動演奏装置は体当たりを繰り広げる。

四人はアヤカの呼びかけにより、素早い回避行動で直撃を免れた。

しかしやはりこの装置は人を狙っている。

何かしらの理由があって人を襲うのだ。


「装備のコンセプトはブレブレだけれど、やっぱり兵器なのかなぁ。

僕的には魔法で一気に吹き飛ばしたいところだけれど、洞窟の強度が気になるところ。生き埋めになったら洒落にならないしね。」


「強力な魔法では倒せねえってことか。

こりゃアヤカに頼るしかねえかもな……。」


「じゃあユメタロー、魔法でこの剣の強度を上げて。

あと細かい魔法で援護をお願い。」


「了解~、任せて~。雷鳴剣エンチャントサンダー!」


 アヤカの剣の強度が魔力で補強され、更に雷撃の効果が付与される。

彼女は手首を柔らかく、剣を手になじますようにくるくると回す。


「フレーフレー!アヤカ~!かわいいぞアヤカァ!」


 そしてツカサの能力がアヤカの身体能力を向上させる。


「よっし、ぶっ壊してやるわ。」


 刹那、アヤカはすでに自動演奏装置の懐に入り、強力な横薙ぎを食らわせる。

その攻撃は相手を切断させることはできなかったが、左前足を大きく払い、なんと巨大な鉄の巨体をひっくり返し、吹き飛ばした。

自動演奏装置はすぐさまバランスを取り戻して立ち上がるが、アヤカの攻撃は止まない。上下左右、縦横無尽に斬りかかるアヤカ。


 電撃の効果もあり、自動演奏装置は帯電し、上手く行動できなくなっているようだった。すると、この巨大な兵器からノイズ混じりの声が聞こえて来る。


「アア、イタイ、イタイ。ワタシハタダ、ニンゲンヲ食イタイダケ。」


「こいつ喋れるのかよ!」


「人間を食いたいだなんて、僕と気が合いそう。

わかるな~、その気持ち。興味あるよね~。」


「ユメタローは黙って!」


「ワタシハ、働キタクナイ。デモ、ニンゲン食ウト、頭部ガ、ツマッテ、回転シナクナル。仕事サボレル。ダカラ、ニンゲン、クウ。」


「ニート思考の機械が仕事サボる為に人間を食ったってこと?

マジでサイコパス感あるじゃん、すごいな~。」


「そんなクソみたいな理由のせいで、この街の人たちは生け贄を捧げてたってことかよ!それでレン・タンみたいな子が死んでたってのか!?」


 ツカサは義侠心に駆られてそう叫ぶ。

それほどまでに自分たちを助けてくれたレン・タンに対して強い情を抱いていたのだ。


 自動演奏装置はガランガランと音を鳴らし続ける。


「そんな演奏はなぁ!魂には響かねえんだよ!

ギターッ!!!」


 ツカサは感情に任せてギターを激しく弾く。

それに合わせてユメタローもパーカッションを叩く。

自動演奏装置の演奏を取り込んだような二人のグルーヴが洞窟を駆け巡る。


 アヤカは武器を構えて再び自動演奏装置に立ち向かう。

激しくぶつかり合う鉄と鉄、そのたびに洞窟内を照らす火花。


「相手が生身の魔物ならもう倒せているだろうに、さすがに金属のボディは硬いわね!」


「決定打に欠ける感じか!?」


「言語を喋れるくらいの機械なんだから、どっかショートさせたら動きは止まるんじゃない?」


「それよ!それで行くわ!」


 アヤカは自動演奏装置の攻撃をトリッキーな身のこなしで躱すと、巨体の背中に乗った。そして背中の関節部分に剣を深く刺し込んだ。


「今よ、ユメタロー!やっちゃって!!」


 アヤカはそう叫ぶと素早く自動演奏装置から離れる。


「まっかせて~!電撃大王キングスライトニングボルト!!」


 ユメタローのドラムセットから放たれる超高電圧の雷撃が、アヤカの突き刺した剣を避雷針にて自動演奏装置の内部を駆け巡る。


 自動演奏装置は大きな破裂音を響かせると、全身から煙を吐きながら停止した。


「やった!?」


 巨大兵器はもうもうと煙を出し、微動だにする気配がない。

装置の演奏は既に止み、ただ洞窟はシンと静まり返っている。

それがかえって耳に痛かった。


「あ、あんたたち、本当に凄いんだな……、ツカサは遊んでただけに見えたけど。」


「俺も別に遊んでたわけじゃねえよ!」


「はあ、何とかなったわね~。なんか雰囲気的に古代の兵器ってところでしょうけれど、自立型ロボットなんて完全にロストテクノロジーよね。」


「このメカの感じからすると、昔はこの世界にも音楽が存在していたっぽいね。

それがいつの時代からか断絶があり、テクノロジーとともに文化も失われた。

みたいな。」


「この世界の連中は忘れちまっているだけで、きっと音楽そのものを愛する性質は持っているんじゃねえか。だからちゃんと俺らの音楽で盛り上がってくれるのかも。」


「音楽っていうのは、さっきツカサたちがやってたみたいなやつ?

その変な道具で音を出していたでしょう?

私、こういう音初めてで、何かこう、体がウズウズして心が踊ったんだ。」


 するとツカサはニッと笑って答える。


「ああ、それが音楽だぜ!最高だろ!」


 その時、自動演奏装置が急にその巨体を揺さぶりだした。


「うわ!まだ動くの!?」


「くっ、マズい!剣がまだ背中に刺さったままだわ!」


「ガガガガ、ピーッ、しすてむノ初期化ガ完了シマシタ。

命令ヲ待ッテイマス。命令ヲ待ッテイマス。命令ヲ待ッテイマス。」


「しょ、初期化?命令を待ってるって、俺らで命令して良いのかな。」


「ちょっとツカサ命令してみなよ~。」


「え、じゃ、じゃあお手!」


 すると巨大兵器は少し思考時間を経てから右手をツカサの手にそっと乗せる。


「チンチン!」


 自動演奏装置は自分の股を両手で掻くような動きをした。


「うおお!すげえ!命令聞いたぞ!」


「ねえ、これに乗って外に出ない?こいつなら道を知ってそうだし、そうでなくとも掘削機で地面を掘って外に出られるかも知れないわ。」


「そうしようそうしよう!」


「え、え、え~!?」


 毒人参ヘムロックの破天荒ぶりにさすがのレン・タンも驚く。

四人は自動演奏装置の背中に乗ると、ツカサが命令した。


「地上まで連れて行ってくれ!」


「了解シマシタ。」


 そう言うと自動演奏装置は四人を乗せてノシノシと歩き出した。


* * *


 外は既に日が昇り、メレディスの街では飲めや食えの宴が始まっていた。

人々は今年一年の豊穣とオアシスの恵みに感謝してワイワイ騒いでいる。


 そこに大音量の音楽が響き渡る!

木琴や弦、パーカッションが鳴り、そこにベースやギター、ドラムの音が加わる!


 毒人参ヘムロックwith自動演奏装置である!


 街の人々はあんぐりと口を空けてそれを見る。

そして徐々にその音楽に体を揺らし始める。


「な、なんだこりゃあ、体が勝手に動いて踊っちまう!」


「それにあんたらはレン・タンと一緒に砂に飲まれたはずでは?」


 するとレン・タンが自動演奏装置の背中からひょっこりと顔を出す。


「アタシもいるヨ!」


 それを見て人々がざわめく。


「おお、お前は!ってことは砂神さまから逃げてきたのか!?」


「お前らのいう砂神ってのはこいつのことだぜ!」


 ツカサは巨大兵器を指差して言う。


「お前らはこんなヘンテコな兵器を喜ばせるために人身御供なんて下らねえことをやっていたんだよ!だが、今年からもう生け贄を出す必要はねえ!

こいつはもう人を食わないし、それによってオアシスが枯れることもねえ!」


「おお、何ということだ。では我々が今までしてきたことは……。」


「ハッキリ言って無意味なことね。しっかり反省しなさいよね~。」


 彼らは自分たちのしてきたことを後悔しながら、泣きながら踊った!

街の人は自らを恥じ、反省しているが、音楽に釣られて踊ってしまう!

楽しいのか悲しいのかわからない妙な雰囲気が街中を包んでいた。


「助けてくれてありがとう、ツカサ、ユメタロー、アヤカ!」


 レン・タンはそう言うとユメタローの頬にキスをする。


「なんだよ!俺じゃねえのかよ~!」


 レン・タンと毒人参ヘムロックの笑い声が砂漠の街に響く。

そして祭りはそのまま夜まで続いた。人々の笑顔と後悔を乗せて砂吹雪が舞う。

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