Gain 16:Machinations

 メレディスの夜は寒く、三人は手を擦り合わせながら姿勢を低く街中を進む。

街人の流れを見るにレン・タンは既に所定の場所に連れて行かれてしまったようだ。

人々は家に戻って行き、眠りにつくのだろう。

そんな中、街の外に少し進んだところに篝火が焚かれている。

見張りが数人おり、見るからに怪しい。


「なあ、あれ。レン・タンがいるんじゃねえか?」


「可能性はあるわね。篝火の先が洞窟っていうのがまた怪しい。」


「よし、見張りは僕に任せて。」


 そう言うとユメタローはツカツカと見張りの方に向かって歩き、

それに気付いた彼らは少し警戒した様子でユメタローを見た。

全員がユメタローを見ると、彼は指をパチンと鳴らす。

するとどうだろう、見張りたちはたちまち眠ってしまった。


「オッケー。今のうちに行こう。」


「オイオイ、なんだよ、チートかよ。魔法って便利だな、オイ!」


 ツカサとアヤカは物陰から出てきてユメタローと合流する。


 洞窟の中には明かりが続いており、道も真っ直ぐな一本道であった。

生け贄を捧げる場所としては些か質素で、飾り気はなかった。

洞窟の奥まで行くと、やっといくつかの装飾が飾られた少し広い空間に出た。


「あ!レン・タンがいたぜ!」


 果たしてそこには小さな牢型の箱に閉じ込められたレン・タンがおり、今しも蟻地獄の如き砂の渦に飲み込まれそうになっている。


「あ、あんたたちどうしてここに!?」


「ヒーローの登場だよ~!」


「あら、ヤバいじゃない。このままだと飲み込まれちゃう。」


「急いで引っ張り上げようぜ!!」


 三人は縄を牢に引っ掛けて、一生懸命に引っ張った。

しかし、蟻地獄に吸い込まれる力は非常に強く、引き上げることができない。

それどころか毒人参ヘムロックたちも足元が徐々に埋まってきている。


「げえ~、マズいマズい!俺たちも引き込まれてるぞ!」


「足上がんないよ~、脱出できないんじゃないの!?」


「何やってるんだよおまえら!

犠牲になるのはアタシだけでいいんだ!

飲み込まれる前に早く逃げるんだヨ!」


「いや~、見捨てられねえっつうか、もう時既に遅しみてえな感じでよぉ。

やっべえ、動けねえ~!引きずり込まれる~!」


 彼らが足を獲られてバランスを崩した瞬間、砂の勢いはいや増して、レン・タンを捉えた箱と毒人参ヘムロックは仲良く砂の中に埋まってゆく。


「「う、うわ~!」」


 彼らは成す術もなく、砂の渦に飲み込まれてしまった。


* * *


 目を覚ますと大きな空洞のような空間が広がっている。

頭上から砂がさらさらとこぼれ落ちて来ており、体が少し埋まっていた。

周囲を見ると、火などの明かりはないが、壁に張り付いている苔やキノコのようなものが発光しており、とても明るい。

その光景は実に幻想的で、ツカサは暫く見惚れていた。


「ん、んん……、あれ、私、生きてる?」


「ペッペッ!砂が口の中に入っちゃったよ~。」


 アヤカとユメタローもどうやら無事なようである。

三人は立ち上がってお互いの顔を見合わせてホッと胸をなでおろす。


 そして、眼前にはレン・タンの入った箱がある。

アヤカは素早く抜刀すると、檻を斬り裂き彼女を引きずり出した。

レン・タン自身は気を失っているが、命には別状はなさそうだ。


「とりあえずは一安心ね。あとはここからどうやって脱出するかだけど……。」


 その時、地鳴りが聞こえ、地面が微かに揺れ始める。

三人は何事かと思い、アヤカは武器を手に身構える。

ツカサは頭部を手で覆ってビビりながら周囲を見渡す。

ユメタローはレン・タンを置いて逃げる方法を考えていた!


「もしかして、あのでっかいサンドワームかな?」


「可能性あるわね~。あんな大きいやつ、剣でどうにかできるかしら。」


「また歌って操れば良くね?」


 地鳴りが徐々に大きくなっていく、まるで巨大な何者かが近づいているようだ。

前方の曲がり角の先、何かがいる。

三人は緊張して今にも漏らしてしまいそうだった。


 急にその方角から大きな音で騒音が鳴り始める。

レン・タンがその音にびっくりして目を覚ますと、顔は恐怖の色に染まっていた。


「う、アア……、この音は……。」


「なんだよ、この騒音は!?いや、これは……音楽か!?

でもこの世界には音楽がないんじゃなかったのかよ!?」


 音の主がゆっくりと姿を現す。

それは巨大な掘削機を頭部に持つ四足歩行の機械。

ボディには鉄琴、ピアノのようなもの、いくつかの打楽器、その他様々な音の出るものが片っ端からくっついており、それをガラガラと鳴らしている。


「神様の正体見たりってね。巨大な自動演奏装置ってところかしら。

規模が多きすぎるけれど。」


「うおおお!すげえ!メカニウムのどデケえヴァージョンみてえ!!」


「随分年季が入ってるから古代の兵器って感じなのかなぁ。

兵器って言うには掘削機と楽器ってコンセプトがよくわかんないけれど。」


「あ、ああ、私はもう死ぬんだな……。

砂神さまのお姿を見たからにはもう助からない。」


「よく見なよ!あれはただの機械、意思も神威もないからくりよ!」


「あの兵器、どう見てもオアシスをどうこうできるような機能はなさそうだし、こいつを倒してもオアシスが枯れる心配はなさそうだね~。迷信で良かった~。」


「よっしゃ!じゃあ俺らのライブであいつを判らせちまうか!」


 そう言うとツカサはアコースティックギターを取り出して鳴らし始める。

すると自動演奏装置は音を出すのをやめて停止する。


「ア~~、ああ~、あ~~!」


 彼はレン・タンに対し少しカッコつけており、いつもよりも朗々と歌い上げる。

フィンガーピッキング流れるように紡がれるメロディー。

普段のツカサからは想像できないような流麗さである。


 その銀粉を撒き散らすような演奏は、洞窟の幻想的な雰囲気と相俟ってレン・タンを夢中にさせた。彼女は恐怖を忘れ音楽に耳を傾ける。


 だが再び自動演奏装置が大音量で音を鳴らし始めると、ツカサの演奏はかき消されてしまった。


「うお、こいつ、俺の歌が効いてねえ!?」


「まあ、当たり前っちゃ当たり前だよね~、こいつ生物じゃなくて機械だし。」


「ええ!?今回の俺やくたたずかよ!!」


「荷物でも持ってなさい!」


 自動演奏装置が素早い動きで突進してくる、頭部の掘削機が回転する。

三人はレン・タンを庇うようになんとか回避をするが、自動演奏装置が通った地面は大きく抉られており、恐らく轢かれれば確実に挽き肉にされるであろう。


「めちゃくちゃ危険じゃねえかこいつ!

なんで自動演奏装置に掘削機なんか付けたんだよ!」


「アインシュテュルツェンデ・ノイバウテン的なノリなんじゃないの?

あれも楽器の一部的な。」


 自動演奏装置は左前足で抉った地面から岩を飛ばしてきた。


「うわ、危ない!火炎球ファイアボール!!」


 間一髪、それをユメタローの魔法で破壊する。

爆発の余韻で視界が悪い。


 その隙を突くように自動演奏装置は素早く接近して、右前足で殴りかかる。

アヤカがそれを剣で受け止めるが、質量の差は歴然である。

彼女は踏ん張りきれずに吹き飛ばされ、壁に激突してしまった。


「うっ!!くう、痛ぁっ!」


 アヤカは一瞬、呼吸困難になったが、持ち直して立ち上がる。

が、剣はひしゃげて壊れてしまった。


「くっ、これじゃあもう使えないわね。

ユメタロー、剣貸して!どうせ使ってないでしょ!」


「じゃあ俺の貸すわ。」


「あんたね~、マジで戦う気ないじゃん!

ユメタローは魔法があるから良いけど、あんた剣なかったら何で戦うのよ~!」


「俺には、歌とギターがあるんだぜ!」


「効かなかったじゃない!」


 自動演奏装置は大きな音楽を鳴らしながら彼らの方へ方向転換をする。


「ねえ、それにしてもこれ、もしかしてピンチなんじゃない?」

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