Gain 13:Amazonia Dreaming
ネックの奥まで深々と刺さったギターは、オスタータグの背中からヘッドを覗かせていた。そこから大量の血が吹き出し、魔族の男の心臓が貫かれたのだとわかる。
「ぐっ、くっ……。これが私の最後か。
これほどまでの力を有しているとは、お前たちは我ら魔王軍にとって憂慮すべき対象となった。これからは行く先々で我が同胞の魔族や魔物が貴様らの命を狙うだろう。」
ツカサはゆっくりと歩きながらオスタータグに近づいて行く。
「俺たちはよ、ずっと鳴かず飛ばずでさ。何度も辞めようとか、解散しようとか言う話になっても、結局誰もそんなこと納得せずに続けてきたんだ。」
オスタータグはツカサを睨み付けるが槍を持ち上げる力も残っていない。
「俺たちは一度も立ち止まってねえ。
一度も負けを認めたことはねえ。
だから俺たちは無敗なんだ。」
ツカサはギターのボディを掴み、片足をオスタータグの胸に乗せる。
「受けて立つぜェ~!クソ魔王軍!
無敗の
そして勢いよくギターを引き抜くとくるりと回して肩からかけた。
オスタータグは断末魔の叫び声をあげて灰となりかき消えた。
するとオスタータグの死体の跡から一筋の光が輝く。
光は瞬く間に広がり、ゲートを作り出した。
その先にいるのはあの女神オクタヴィである。
「あなたは!……誰だっけ?」
「確かタコみたいな名前の女神っしょ!」
「Octo Octaかしら?」
「そんなハウスのプロデューサーみたいな名前ではありません。
私は女神オクタヴィです。
お久しぶりですね、ユメタロー、アヤカ、アツシ。」
「ツカサです。」
「あなた達の活躍で一時的に天界とこの世界の隔たりが弱まりました。
おかげでこうしてあなた達と会話ができる機会が作れました。
先ずは魔王幹部たる
「
女神は深く頷くと静かに説明を始めた。
「魔王が世界各地に配した魔族の中の魔族たち。
魔族の貴族とも呼べる者たちです。
彼らが各地の魔物を統べることで、魔王は世界中を支配していたのです。」
「オスタータグはその内の一体だったってことか!」
「その通り。この地域の都市はアラン・ラムを残して全て陥落状態にありましたが、あなた達の活躍により、魔物は統率を欠き、散り散りになります。
そうなれば人の手に負えますから、近いうちに平和を取り戻せるでしょう。」
「えー、凄いじゃん僕たち。ヒーローじゃない?」
「そうですね、あなた方は救世主としての役割を果たしています。
最初は音楽ばかりで平和を取り戻す気など見当たらなかったので、正直無理だと思っていましたし、ワリとマジで諦めて次の転生者探しとかをしていたのですが。」
「報酬が欲しいわ。」
「はい?」
「こんな強いやつを今後も相手にしないといけないとかめちゃくちゃダルいし、報酬を貰って士気を高めたいわ。」
「……報酬ですか。確かに、まあ、言ってることは判らなくもないですね。」
「報酬欲しい欲しい欲しいよぉ!そしたら俺頑張るからぁ~!」
「……Amaz○nでいいですか?」
「は?」
「
「……。」
「……。」
「コホン、え~、今のは冗談です。」
「え!?Amaz○nで買い物とかアツくね?」
「ちょっとツカサ黙りなさい!」
「いやいや、Amaz○nだぞ!ワリとマジで何でも手に入るぞ!
「……では、その
「おう!それがいい!マジで欲しかったんだアレ!」
「ちょっと待ちなよツカサ!よく考えて答えなって!」
「いや、俺が今一番欲しいのってこれだし!」
「脳みそ腐ってるんじゃないの!?」
「ではその願いを叶えましょう。」
するとゲートからAmaz○nの箱が出てくる。
丁寧に梱包された中身は果たして
子供のようにはしゃいているツカサをアヤカとユメタローは白い目で見ている!
「これで報酬はあげましたよ。ちゃんと頑張るんですよ。」
「ちょっと待って!無効よ!無効!
ツカサがクソバカなだけで私たちは納得いってないわ!」
アヤカが急いで訴えるが、ゲートの光は弱まりその繋がりを保てなくなっている。
「残念ですが今日はここまでのようです。
どうかみなさん、お気を付けて。
また次に会える日を楽しみにしていますよ。」
「ちょ、ちょっと待って……!」
しかしゲートは静かに消えて行き、そこには廃墟となった広間があるだけだった。
「おいツカサ。いっぺん死ね。」
「な、なんだよ!皆だって
「そういう問題じゃないよ!他にもこの世界で生きていくための道具とか、新しい能力とか色々要求できたでしょ!」
「え、また俺、何かしちゃいました?
あ、CD聴こうと思ったけど機材なくね?
次回CDプレイヤー買ってもらうでいい?」
「こ、こいつ……。」
「あー、もういいわ!脳みそがクソカスのツカサは置いといて、とりあえずリディアちゃんとオズワルドを起こしましょう。」
三人は倒れているリディアとオズワルドに駆け寄り傷薬を使う。
程なくして二人は目を覚まし周囲を見渡した。
「くっ!?あの魔族の男はどうなった!?」
「あいつなら斃したよ~。もう大丈夫。」
「みなさんだけで!?凄い!本当に凄いです!」
「俺のソロライブ、マジで見せたかったぜ~。」
「しかし、やつの強さ、思い出したぜ、あれは飛竜卿のオスタータグだ。
よくあんな奴に勝てたな。信じられん。」
「
リディアとオズワルドは心底驚いたように
王国の精鋭でも太刀打ちできない魔王軍最強の幹部七人。
そのうちのひとりをこの大道芸人達が斃したのだから驚倒せざるを得ない。
「クソ、只者じゃねえってことだな。」
いずれ獲らなくてはならない首を前にオズワルドは緊張した面持ちになる。
その時、大きな爆発音が響き、城が崩れ始める。
この城は森の断崖絶壁の上に立てられたもので、先程の激しい戦闘で崖が崩れ始めているのだ。
「急いでここから脱出しましょう!」
リディアはそう言って立ち上がる。
しかし、その瞬間、三人のいる足場が崩れる。
「ツカサさま!!」
リディアはツカサを助けようと走り出すが、オズワルドに止められる。
「馬鹿野郎が!お前まで死ぬ気か!?」
「うわああああっ!!」
深い谷底に落下していく
ツカサは
「ツカサさま!ツカサさまァ~!!!!」
やがて
リディアはその場に突っ伏してとめどなく両目から涙を流す。
オズワルドは舌打ちをしてリディアを抱きかかえると馬を繋いでいる場所まで急いで向かう。
古城が崩れていく、生き残った魔物たちも逃げるように飛び立つ。
オズワルドはリディアを抱えたまま馬を走らせて、街へと向かった。
リディアは両手で顔を覆い泣き続けていた。
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