Gain 12:Into Battle With The Art Of Noise
もうもうと立ち上がる煙、崩れる城壁の音、混乱する魔物の鳴き声。
そこに切り込むようにツカサは拡張機を使って叫び声をあげる。
「クソ魔物野郎ども!俺たちが
てめえらに音楽を教えにやってきたぜ!!」
ユメタローはマーチングバンドのようにパーカッションセットを腰に付けると、両肩に音声増幅器を取り付ける。背中にはそれらの機材から繋がるケーブルが大量に生えており、その姿はまるで人造人間のようであった。
「ツカサさんの声は聴くものを強化したり、狂化したり、恐化したりします。
それを利用して、私たちの力を増幅し、魔物を弱体化させてください!」
「私たちの演奏が必要ってことね。任せておいて!」
「景気よく
ユメタローの魔力が音声増幅器を起動させる。
ツカサのギター、アヤカのベースが轟音で唸る。
ユメタローの能力『
「アーッ!ゔぁ、ヴァ~~~!」
ツカサの叫び声と、三人のテクニカルなインプロヴィゼーション。
重々しくも激しくも次々に展開する変拍子。
魔物たちは次々と狂いだし、敵味方の見境なく牙を剥く。
リディアは襲い来る魔物を三線による演奏で魔法を紡ぎ出し、撃退する。
オズワルドは変幻自在な短剣と剣の二刀流によるアクロバティックな剣術で次々に死体の山を築いていく。
上に下への血みどろの混沌のさなか、その渦の中心で、ライブをしながら魔物を殺戮して行進するその姿はいっそ異様であった!
まるで紙吹雪のように降り注ぐ血しぶき!肉片!
「気持ちイイ~!!音楽で人を殺したいって僕ずっと思ってたんだよね~!
まあ魔物だけどさ~!最高~!」
「オーディエンスがいないのにこんなに盛り上がるライブをできるなんて思ってもいなかったわ!体が高揚して気分がいいわ~!」
「ボボボッ!!ボバッ!ああああ~!!ウベエエ~~~!」
ドラムロール、吹き飛ぶ壁、調度品、魔物。
「凄まじい……、ツカサさまの能力は想像以上の強さです!」
「いや、これはどっちが悪役かわかりゃしねえぞ!」
魔物たちは恐怖のあまり逃走を試みるが、
だが、その動きは精細を欠き、ただ本能のままに暴れる獣でしかなかった。
戦い慣れしていないリディアは別として、多くの修羅場をくぐり抜けてきた百戦錬磨の使い手であるオズワルドにとっては、そんな相手はもはや火の粉を払うよりも容易く斬り殺せた。
「この先にボスがいやがるな。」
盗賊頭領たるオズワルドの固有スキル、危険察知。
この周辺で一番危険な存在を気配で察知することができる。
普段はそれを避けるために使うスキルであるが、逆に探知能力として利用している。
演奏は爆発するようなカタルシスを迎える最後一音を発すると、音声増幅器から放出される音圧と魔力が塊となって発射される。
それはボスの間の固く閉まる大きな扉を吹き飛ばして破壊した。
「な、何だ!?何が起きた!?」
突然の破壊にオスタータグが警戒をする。
その白煙の向こうにはあの
魔族の男は頭に血管を浮かせて怒りをあらわにする。
「貴様らァ~ッ!よくも我が城で散々乱暴狼藉を働いてくれたなァ!
バラバラにして壁に飾ってくれるわ!!」
そう言うと飛竜に跨り、槍を天に向けて構える。
周囲から魔力が槍を中心にオスタータグに集まってゆく。
それは魔物たちの血や断末魔から生まれた負の魔力である。
魔物たちの無念をその身に受けて、オスタータグの力は増幅されていく。
「殺されていった仲間たちの恨み、憎しみを晴らすために、私は貴様らと戦おう!」
「ウハハッ!来いやボケェ!ケツの穴にパイナップルをブチ込んでやるぜぇ~!」
ツカサはライブ中は気が強くなるので、これでもかと調子に乗っている!
オスタータグが突進する。
リディアが魔法を使い、オズワルドが剣を構える。
だが、次の瞬間、リディアとオズワルドは吹き飛ばされ、壁に激突すると血を吐いて倒れてしまう。
「え?」
以前に戦ったときよりも遥かに強く、恐ろしい力を行使するオスタータグ。
リディアはともかく、あのオズワルドが容易く負けてしまうほどである。
ツカサはサッと冷静になり、これは謝ったほうが懸命だと判断した!
「すんません!冗談っス!
いや、今日は挨拶に来ただけなんで、そろそろ帰ろうかと思います!」
その言葉にオスタータグはピタリと動きを止めたが、それもつかの間、ツカサの能力を振り払うように槍を薙ぐと、ツカサの額は浅く傷付き、血が流れた。
「今の私にそのような術は通用せん。
敵を前に怖気づくとは恥を知るが良い。」
魔族の男は高貴で毅然とした態度を示す。
「私には何十、百何十という魔物の無念を胸にここに立っているのだ。
貴様らを殺し尽くすまで私は止まらぬぞ!!」
「あわわわ!ヤバい!ヤバい!」
「落ち着きなさいよ、ツカサ。覚悟をキメるしかないわ。」
「僕とアヤカで戦う。ツカサは、歌ってくれよ、僕たちの為に。」
「で、でもよぉ、あの強さだぜ。お前らだって勝てるかどうか……。」
ツカサが怯えた顔でそう言うと、二人は彼に振り返りニヤリと不敵に笑う。
「あなたの歌と、私たちの能力ならやれるわよ。」
「なんだかんだ、信用してるんだよ、リーダー。」
ユメタローとアヤカは楽器を下ろし、前に出る。
ツカサは俯いていたがやがて両の頬を思いっきり叩くと、眉間に皺を寄せて眉を怒らせてオスタータグを睨み付ける。
「畜生、やってやる、やってやるぜ。
爆音のレクイエムだ、オスタータグ、テメのな!」
ツカサのギターが激しく鳴く。
音声増幅器はまだ魔力が込められている。もう少しの間は機能を果たすだろう。
彼の演奏は複雑なリズムの高音パートと、和音のアクセント、そしてノイズと、のたうつ蛇のように変化していく。
狂気の如く発せられるスキャット。
命を賭けた背水のライブパフォーマンス。
「いい演奏ね、ツカサ。やればできるじゃない。」
飛竜は高く飛ぶと、オスタータグの魔力により屋根が吹き飛ぶ。
そして槍の先から
「させないよ!
光の壁がオスタータグの強力な魔法を弾く。
しかし間髪入れずに魔族の男は飛竜の加速による突進を仕掛けてきていた。
アヤカは素早く前に出ると、逆手に持った剣で飛竜の眼球を深く突き刺す。
痛みにより軌道を反らせて空中に逃げる飛竜に取り付き、深々と刺さるその剣をひねると、そのまま体重を乗せて飛竜の顔半分を切り落とした。
落下する飛竜から離脱するアヤカとオスタータグ。
二人は着地の受け身を取ると同時に互いに距離を詰めて打ち合う。
ユメタローも急いで彼らに駆け寄り、アヤカの剣に魔力を込める。
オスタータグの魔力の籠もった槍を凌げるのは、ユメタローの無尽蔵の魔力が込められたその剣だけである。普通の剣で打ち合えば、早々に武器破壊をされていたであろう。
「テメェをぶっ殺して~!ケツをギター立てにしてやるぜぇ~!!!」
ツカサは即興の歌を歌い、その能力の力でアヤカとユメタローは強化される。
喧嘩もしたし、苦渋を味わってきたが、お互いを信じてずっと一緒にやってきたのだ。彼らはセッションに於いて、互いが何の音を求め、どういう着地点を想像しているのかわかる。
そう互いの思いや呼吸一つすらも理解している。
それは戦闘に於いても同じである。
これは、
「バカな!バカな!!この私が追い詰められているだと!?
仲間の力と無念を胸に、覚悟を決めたこの私が!?」
素早く鋭いアヤカの攻撃、その僅かな隙を縫うように放たれるユメタローの魔法。
ユメタローの詠唱を守るかのようなアヤカの立ち位置、それを支えるツカサの声。
全てが噛み合い、まるで一つの生命体のように機能している。
女神の見立ては正しかったのだ!
三人で最強の無双的能力を発揮している!
それが異世界の転生者たる
「うおおおおっ!?おのれっ!!」
アヤカとユメタローの攻撃によりオスタータグが大きくよろける。
そこに興奮したツカサが投げたギターが飛んでくる。
アヤカはそれを回し蹴りで受けると、その勢いのままオスタータグの胸に深々と突き刺した。
「こ、こんな、バカな……。」
噴水のように血を吹き出し、オスタータグは魔力を失い膝から崩れ落ちた。
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