Gain 11:Mirakle
「ケツ痒っ。」
オズワルドは彼らの寝込みを襲うのではと思われたが、リディアに釘を刺されて大人しくしている。
彼はリディアに妹を重ねていたので、彼女に対してあまり強くは出られなかった。
「で、共闘ってことになったけどさ~、正直どうするの?
兵隊に任せた方が良くない?」
ユメタローがドラムスティックをくるくると回しながら率直に言う。
「この街は守りは堅いが平和ボケしてやがるからな、討伐隊の編成は対応が遅れるだろう。その間にまた魔物に体勢を整えられて攻め込まれる可能性が高い。」
「私たちで行くべきです、
「えー、無理だろ!あのボスも強そうだったし、攻め込むってなると相手は大群だろ?俺たちだけじゃ数でやられちまうよ。ってかケツ痒ィ~。」
ツカサはそう言うと一心不乱に尻を掻いている。
「宿代。」
「……。」
「宿代出してるんで。手伝ってください。」
なんと無一文の
宿代の話になると今の
痛いところを突かれて彼らはリディアから一斉に視線をそらす!
「痛ッ。」
ツカサは勢いよく視線をそらせた反動で、掻いていた手の力加減を誤り、尻を傷つけた。そして尻を押さえながら哀れっぽく言うのだった。
「俺、尻を怪我してるし、徴兵免除になりませんか。
ユメタローとアヤカの方が強いし……。」
そう言うと怪我をした尻を剥き出しにしてみんなに見せて哀れみを誘おうとした。
「キャアッ!」
「クソ汚えケツ見せてくんじゃねえ!殺すぞ!!」
リディアは顔を赤くして手で顔を覆うと指の隙間からチラチラ見ている。
一方オズワルドと他二人は本気で嫌そうな顔をしていた。
「まあ、判ったわ。リディアちゃんの提案に付き合うわよ~。
でも危険になったら私たちは逃げるわよ。いいわね?」
「え、引き受けるの!?」
「あなたたちね~、女の子がこんなに期待をもってお願いしてくれてる上に宿代まで奢ってくれてるのに、ビビってやりたくないとかダサすぎでしょ!
音楽やってる人間が伊達を気取らないでどーすんのよ~!」
「あの、私、奢りじゃなくて、貸しって……。」
「くっ、俺としたことが、カッコ悪ィのは死よりも恥ずべきなのに!すまねえリディアちゃん、せっかく奢ってもらったのに情けねえところ見せちまったぜ!」
「ツカサ、お尻しまいなよ~、汚いし、せっかく奢ってくれたリディアちゃんに失礼だよ。」
「あの、私……。」
こうして汚い大人三人はその雑な勢いで宿代をリディアの奢りに仕立て上げたのであった!
「で、作戦はどうするんだ?」
「行って皆殺しにする。できなかったら逃げるで。」
「そ、そんなのは作戦とは言えません!」
「僕らバカだからさ~、作戦とか難しいの無理なんだよね~。
とりあえず力押しで行こうよ。僕の魔法、結構強いんだよ。」
こうしてリディアとオズワルドは
* * *
「アスタリスクは尻の穴ではない。」
「誰に言ってるのツカサ?」
翌朝、ツカサは鏡に自分の尻を映し、昨日の傷の具合を見ていた。
「そう言えば昔楽屋でツカサが尻出しながら屁をひったら本物がまろびでてしまって、店の人にめちゃくちゃ怒られて出演取り消されたことがあったの思い出したわ。」
「あれは最悪だったね~、僕らも一緒に片付けさせられて……。」
「そんなこと言うがな、アヤカ!
お前だって客にゲロ吐いてクレーム入れられたせいで出禁になったじゃねえか!」
「私、一定の需要はあると思ったんだけど。」
「みなさん、昔からご一緒なんですね。」
リディアが部屋に入ってきて
「まあ、腐れ縁ね。このバンドを結成してから五年だけれど、知り合ったのはもっと前からだし。」
「俺とユメタローは中学校からの友達で、アヤカはバイト先の本屋で知り合ったんだ。本屋ってのは変なやつが多いんだぜ、マジで仕事ができねえのに原語でコーランを暗唱できるやつとかいたなぁ。」
「あんたも相当仕事できなかったでしょ!棚卸しは毎回絶対に間違うし。」
彼らの話を聞いてリディアは首を傾げる。
「中学校?コーラン?ってなんですか?」
「あ、この世界にはねえのか。俺らの世界にはそういうのがあってよ~。」
「ツカサさまたちの世界……?」
「あれ、これ言ったらマズかったやつ?」
「さあ……、でも僕らが転生者なんて信じられないでしょ。」
リディアは目を大きく見開いて驚いている。
「て、転生者……。」
リディアはまるで恐れるように三人をゆっくりと順番に見る。
その様子を心配そうに見つめる
するとリディアが口を開いた。
「す、すごいです!伝説では女神さまに選ばれた者だけが転生できると!」
「お、おう!まあな!俺達は女神に選ばれたんだ!」
「ツカサさまが特別なお力をお持ちなのは判っていましたけれど、女神に選ばれし者だったなんて、なんて素晴らしいんでしょう!」
「任せろ!魔族の男なんざ俺たちがボゴボゴにしてやるぜ!
わっははははは!」
調子に乗って高笑いするツカサ。
そこにオズワルドが入ってくる。
「おい、リディア。出発の準備は終わったのか?さっさと用意をしろ。」
「あ、そうでした。それではみなさん、後ほど!」
リディアはご機嫌に部屋を出ていくが、オズワルドは残って三人を見ている。
「おい、転生者だと?」
「そうだが?俺、また何かしちゃいました?」
「……悪いことは言わん。相手があの世間知らずの小娘ならともかくな、余り下らんことを吹聴しないことだ。」
「それってどういうことかしら。」
「ふん、俺の知ったことじゃあないがな。」
そう言うとオズワルドは部屋から出ていってしまった。
「なんかオズワルドってツンデレっぽいわよね。」
「ね~、なんかかわいいよね~。」
こうして魔族の男討伐に向けて準備も整い、あとは出発するだけとなった。
* * *
オズワルドが街の対策本部から盗んできた情報によると、この辺りの魔物たちはアラン・ラムから北へ暫く行った山奥の城を拠点にしているらしいことが判った。
「奴らの根城には半日もしないうちに到着する。覚悟はできてるんだろうな。」
ユメタローは鼻をほじりながら答える。
「あの魔族の男、かっこいいよね。剥製にして飾りたいな~。」
「馬が揺れて、ケツの傷が痛いんだけど……。」
「剥製と言えば
話にならないと見て取って、オズワルドは何も言う気が失せた。
途中数回の休憩を挟んで一行は目的地へと到着した。
「見つからずに侵入するのは骨だな。」
「どうせ戦闘は避けられないなら最短距離を行ければ良いよね?」
ユメタローはそう言うと両手に激しい魔力を集中させる。
空気が振動し、木々がざわめきをあげる。
その光景にオズワルドとリディアは夢を見ているのではと目を疑った。
「し、信じられません!なんという魔力の量……!」
「行くよ!
激しい光の渦から巨大な光線が放たれる。
その超破壊的な魔法は直線上の木々を焼き尽くし、城の壁面に大きな穴を穿つ。
更にはその衝撃波で周辺にいた魔物もミンチとなって吹き飛んだ。
辺りは火に包まれ、魔物たちの混乱した声が響く。
それを切り裂くようにツカサが声をあげるのだった。
「カチコミじゃあ!オラァアア~~~ンッ!!!」
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