Gain 9:Recitarcantando
「うおー、水、臭え~!」
「まあ、臭うけど素敵な街じゃない。家々の白い壁が水面の光を受けて綺麗。」
「死体とか浮いてないかな~。」
「ガンジス川じゃないんだから。」
「じゃ、みなさん、お元気で!またいつでもサインホの村に遊びに来てくれよな!」
「そのときはまた音楽を聴かせてね!」
「ああ!トムとコラもありがとな!元気で!」
トムとコラは
残った彼らは街を練り歩き、屋台で食べ物を買い食いしたり、市場で楽器になりそうな素材を探したりした。木に石に金属、特に本来の用途が何なのかはわからないが、太さの異なる金属弦を入手出来たのは僥倖だった。
「いい街だなぁ。人も陽気だし、どの店も元気で感じがいい。」
「ヒュースコアみたいに魔物に襲われている街ばかりじゃないんだね。
ここはみんな安全そうだ。」
「兵隊がしっかりしているようね、馬車の窓から見ていたけれど、沢山の兵隊が町の入口を警護していたわ。」
街の建物はどれも低く、空がよく見えて、それがこの街を広く見せた。
話によると大きな寺院があり、それよりも高い建物は建ててはいけないのだそうだ。
「さて、宿を探して荷物を置くか。……あれ?」
ツカサは腰に下げた鞄の中を一生懸命に探している。
それを見た一同は嫌な予感がした。
「金が、ねえ……、スられたかも。」
「この馬鹿!役立たず!」
「あーあ、やっぱりツカサにお金を持たせたのは失敗だったね。」
「いや、俺だけのせいじゃねえだろ!スリに怒りを向けろよ!」
「……どうする?やる?」
「やるしかねえだろ。ゲリラライブ!」
* * *
人々の多く行き交う中央広場、噴水の音がさわさわと鳴る中で、
「
ツカサがそう呟くと、ユメタローがジャンベを一打、抜けの良い音が広場に響き渡る。通りかかる人々が何だ何だと注目をするとアヤカがすかさず、ベースを弓で引き始める。ツカサはカンリンを長く引き伸ばすように吹く。
「何だ?大道芸か?」
ユメタローはジャンベやパーカッションをブラシで擦る。
アヤカは時々思い出したように弦を弾く。
ツカサはカンリンを静かに吹いている。
静寂!
そう、彼らが描くのは静寂の輪郭である!
「わけわかんねーな。何だこれ?」
「いや、待て!これは……!森だ……!」
「ああ、そうだ、俺達はまるで、森の中にいるようだ……!」
するとツカサがすかさず奇声を挙げる。
「ア゛ッ!ア゛ア゛ッ!キィ~~~~~、ア゛ッ!」
「と、鳥だ!」
「いや、虫の羽音だ!」
「私には鹿の鳴き声のように聞こえるわ!」
やがて演奏は徐々に熱を帯びてゆき、その音数を増やしていく。
森の木々が激しく揺れ、転がる石が地面を叩く、動物が騒ぎ出す!
「ィッ!エ~~~ッ、ア゛イッ!モ゛ッ!」
噴水の音はまるで川のせせらぎである!
これが
人々は吹きすさぶ音楽の風に身を任せる!
誰もがその身に森の空気を味わう!
やがてユメタローの金属パーカッションを撫でる音で楽曲は閉じられる。
「うおおお!何だ今のは!風景が見えたぞ!」
「俺も俺も!白昼夢のようだった!」
「あんたら幻術使いか?不思議な体験だった!」
「ありがとう!俺たちは
「音楽、ヒュースコアで話題になったあの音楽か!」
広間の人たちは彼らのライブに満足し、誰もが手を叩いていた。
* * *
元の世界では絶対にこんなに上手いこと行かなかったが、この世界ではそんなことはなく、彼らのパフォーマンスはいつも受け入れられた。
これにはツカサの能力の影響もあるだろうが、根本的にこの世界の住人の感性が非常に敏感であるということもあるのかもしれない。
「しかし、正直な話、僕たちの音楽って万人受けしないはずなのに不思議だよね。」
「それくらい俺たちの魅力が爆発しているってことだろ!」
「それにしたってさ、人ってもっとポップスみたいなのじゃないとわからないと思ってたんだけどな。いや、僕らの音楽が受け入れられて嬉しいんだけど。」
「あら、知らない?
最近の研究で人はハーモニーに対して快感、不快のどちらを感じるのかって、先天的によるものではなく、育った環境に依存するってことが判っているのよ。
つまりね、例えば西洋音楽を聴く習慣のない辺境部族とかがいたとして、彼らは協和音も不協和音も等しく快く感じるということ。」
「つまり、音楽を聴いたことのないこの世界の人には、初めて聴く音楽である僕たちの音が心地よく聴こえている、ということなの?」
「そういうことね。」
「まっさらで純真だからこそ、俺達の音楽をここまで感度高く聴いてくれるのか!
すげえな異世界!最高だぜ!」
三人はそんな会話をしながら宿に入る。
ライブをやった後の一日ぶりのベッドは最高だった。
* * *
オズワルドとリディアは
「やつら、やっぱり既にこの街に到着していやがったか。
俺の生まれ故郷で奴らと対峙することになるとはな。」
「オズワルドさんはこの街の出身だったんですか?」
「ああ、貧民街のな。
盗みをしないとその日一日も生きていけないような環境だったよ。」
「……大変な思いをされて生きて来たんですね。」
「さあな。俺はこの人生以外知らんから大変かどうかなんてわからねえよ。」
二人は街中を歩き回って
だが、噂は確かにあるが、昨日の広場でパフォーマンスをした事以外、何処に泊まっているとか、何処に向かっているだとかの話は聞けなかった。
リディアは疲れ果ててしまい、それを察したオズワルドは休憩を提案する。
リディアは断ったが、足手まといになるから体力を回復させろと言われると、言い返すことも出来ず、二人は喫茶店のテラス席で果実酒を飲みながら休むことにした。
「見つかりませんね、
「そうだな。ったく、何処に隠れやがった。
俺の庭で隠れんぼたぁいい度胸だ。」
「それにして素敵な眺めですね。オズワルドさんはこの街、好きですか?」
「ハッ、貧乏人にはつらい街さ。だが嫌いじゃない。
仲間や妹と一緒に過ごした思い出もたくさんあるからな。」
そう言うとオズワルドは思い出を手繰るような遠い目で水を眺める。
すると彼らの耳に不思議な音が聴こえてくる。
街の雑踏では生まれないような音。
二人は目を合わせる。
「音楽だ!」
すぐさま店を飛び出すと、音の鳴る方へ走って行く。
果たして、その先には
彼らは前日のライブで得た金を、宿を出て数分で早くも再びスられたのである。
「見つけたぜ!
「やっと追いつきました!ツカサさま!」
二人は
リディアはツカサに抱きつき、オズワルドは腰に
だがその時、急に広場が暗くなった。
上を見上げると翼竜に乗った魔族と、翼を持ったいくつもの魔物が広場へ影を落としていた。
「な、何だありゃあ!」
「ヒッ!ま、魔族よ!!」
街中はパニックになる。
魔族は翼竜の上で腕を組むと
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