Gain 4:A Sucked Orange
牛頭の魔物が振り上げた両手のナタを振り下ろすと、地面が深くえぐれ、ゴブリンの死体が粉微塵に吹き飛んだ。
飛び散るゴブリンの骨がユメタローの頬をかすり、浅い切り傷を残す。
「ちょ、こいつめちゃくちゃ馬鹿力だよ!こんなの食らったらひとたまりもない!」
「怖気づいちゃったの?ユメタロー。」
アヤカはそう言うとひらりと体を翻して、牛頭の魔物が飛ばす死体を避ける。
ツカサは再び楽器の荷物持ちの役割を率先して行い、二人とは距離を取るのだった。
アヤカの挑発にユメタローは自らの頬を両手で叩くと、気合を入れ直した。
「言うじゃない、アヤカ!ようし、やってやる!」
ユメタローは正面に両手を構えると精神を集中させる。
手のひらに魔力がまばゆい光となって集まる。
「喰らえ!光の一撃!!
集束した魔力が激しい光弾となって発射される。
牛頭の魔物はそれをギリギリのところで右手のナタで弾く。
ナタは吹き飛んだが、光弾も軌道を逸れ、洞窟の壁に深い穴を空けた。
「がんばれ~!格好いいぞユメタロー!かわいいぞアヤカ~!」
「ツカサ、うるさい。」
「ツカサ、頭から血を流しててキモい。」
牛頭の魔物は素早く踏み込むとアヤカの頭上に左手のナタを振り下ろす。
アヤカは素早く反応し、回し蹴りの要領でナタの側面を蹴り弾く。
その勢いのままナタを踏みつけ、剣を払い牛頭の魔物の左手を切り落とした。
「グオオオッ!!」
「え、アヤカ、マジでヤベえ、何でそんな動きできんだよ?」
牛頭の魔物は倒れているゴブリンの死体を拾って武器のように振り回す。
ユメタローとアヤカはそれを見て背を向けて逃げ出した。
「なんであなたまで逃げてるの!ユメタロー!」
「いや、危ないでしょあれ!めちゃくちゃ怒ってるし!」
「あいつの射程外から魔法で
「それもそうだな!よ~し、殺っちゃうぞ~!」
そう言って振り向くと、もの凄いスピードで追って来ていた牛頭の魔物が眼前に迫っている。ゴブリンをミンチにするような恐ろしい筋力。
そんな牛頭の魔物の魔物の一撃を喰らえば人間など水風船のように破裂するだろう。
攻撃が目前に迫る。
魔法を使う暇などない、しかしもはや逃げる時間もない。
為す術などないのだ、万事休す。
仲間の絶体絶命の状況を前に、ツカサは絶望の余り叫ぶ。
「うわああああ!!!やめろー!!!!」
すると牛頭の魔物は攻撃を止めた。
ついでにユメタローとアヤカも逃げるのを止めた。
二人と一匹はお互いに目を合わせて制止している。
「は?」
「え?」
何が起きたかわからない
「え、何で逃げるの止めたん?」
「いや、止めろって言うから、なんか体が反応して。」
「牛頭の魔物も動き止まったわね。」
「え、これってもしかして、ツカサの能力じゃない?
あの人が耳を傾けてくれるっていうやつ。」
「うおお!?……?
役に立つのかこれ?」
「今役に立ってる。」
「でも僕たちにも効いてるから攻撃に移れない。
なんか命令して。」
「よし、魔法で粉砕しろ!!!」
その瞬間ユメタローは今まで以上の魔力の高まりを感じる。
「行くぞ!雷よ!
手に雷の槍を出現させ、それを牛頭の魔物に投げつける。
激しい雷が牛頭の魔物に刺さり、周囲を巻き込む強烈な電撃を発生させる。
その威力は周囲のゴブリンの死体を瞬間で炭化させてしまうほどだった。
直撃を受けた牛頭の魔物は断末魔の叫び声をあげると、一歩、二歩とユメタローに近づくが、やがて仰向けに倒れ、動かなくなった。
「や、やった!!!牛頭のデーモンを倒したぞ!!!やっぱり雷が効くんだな!」
「危なかったね。流石に僕ももう駄目かと思ったよ。」
「ヒヤヒヤさせないでよね。でも全員無事で良かった。」
アヤカは魔物の死体に近づくと血抜きも兼ねて念の為に首を切り落とす。
すると荷物持ちのツカサが洞窟の奥から何かを引っ張ってくる。
「おい、奥の方に台車あったからこれに乗せて街に運ぼうぜ。」
「こんなデカい死体を持ち込まれるのとか、宿屋的にはめちゃくちゃ迷惑そう。」
「この頭、剥製にできる?めちゃ被りてえんだけど。」
三人は牛頭の魔物の死体を台車に乗せると洞窟を後にした。
そして戦利品(魔物の死体)を伴って嬉しそうに街へと戻って行くのだった。
* * *
「な、なんだあれは!?」
「牛頭の魔物……の死体?」
「あ、あの化け物を倒した、だと!?」
「魔物の蔓延るあの洞窟を攻略したっていうのか!?」
ざわつく街人たち、多くの冒険者や兵士を屠り、この街に攻め込んでいた諸悪の根源たる魔物、牛頭の魔物の死体をこの若者たち三人が引いているのである。
人々は驚きの余り仕事の手が止まり、視線を
やがて人々が彼らを囲み、声をあげる。
「う、ウオオオオッ!!!!」
「
彼らを称える歓声が沸き起こり、
「あんたらのおかげで我々の街に活気が戻った!」
「そしてあんたたちのおかげで魔物に怯える日々も終わった!」
「お前たちは英雄だ!英雄
降り注ぐ感謝と称賛の嵐。
「あなたたちが敵を討ってくれたお陰で息子も浮かばれます。」
「きゃー!ユメタローさーん!素敵~!」
「アヤカさん!俺を弟子にしてください!」
彼らの元には魔物の襲撃で家族を亡くしたものが殺到し、涙ながらに感謝の言葉を述べる。若い女性は花束を持って讃え、剣を
「うおお!何か凄いことになったな!」
「私たち楽器の素材を探しに行っただけなんだけどな。」
「シッ、崇めてくれてるんだから気持ちよく受け取ろうよ!」
「
「
宿屋に着くと、魔物の死体を見て店主が露骨に嫌そうな顔をしたが、街の英雄となった彼らに強く出ることはできず、嫌々ながらも部屋への持ち込みを許可した。
* * *
その日は街を挙げての祭りとなった。
多くの出店が建ち、大道芸が芸を見せ、街はどこも楽しげな雰囲気に包まれる。
街頭演説家は街の平和と
そして
一晩中続く
独特のスパイスの効いた食事に舌鼓を打つ。
次々に注がれる酒の飲み口は芳醇で濃厚だった。
生前では得られなかった称賛をたくさん浴びて嬉しさのあまり彼らは涙を流した。
「異世界、最高~!!」
「よく考えたらよぉ、元の世界とかクソみたいなとこだったよな。
俺たちの真の魅力に気付かないアホどもしかいなかったんだ!」
「あ~、この串焼きクミンが効いてて美味しい。」
「なあ、あんたら、この前の大道芸見せてくれよ。」
「あれはな、大道芸じゃないぜ、ライブっていうんだ。
そしてあの沢山の音は音楽っていうんだぜ。」
「音楽か、いい響きだ。」
「聴かせてくれよ!音楽ってやつを!」
三人はお互いに目を合わせて嬉しさの余りニヤリとする。
「
ツカサの胡弓とヴォーカル、ユメタローのパーカッション、アヤカのベース。
それらが空気を振動させると、人々は共に叫び歌い踊った。
こうして彼らを讃える夜は熱狂の中、更けていくのだった。
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