大人はいつも祈っている

 以下が、先生の言葉。



「あなたは、どんな大人になりたいですか?」

 そう尋ねて、真正面から堂々と自分の将来を語れる子に、出会えることはなかなかありません。まだ決まっていないのか、気恥ずかしさが先行して告げられずにいるのか。それとも、過去に夢を否定されたことが尾を引いているのか。理由はそれぞれあるのだと思います。そこからさらに、将来に対する具体的な「あなたなりの考え」を聴かせてほしいとなると、尚更です。


 この質問は、就きたい仕事や尊敬する人を挙げる類のものではありません。あなた自身がどんな大人で在れば、あなたは自分の人生に納得できるのか。そういう問いです。難しい質問だと言えます。大人ですら、この問いに答えを出せずにいる人が大勢いる問いなんです。

 ですが、私たち大人は、あなたがまだ子どものうちから、これを真剣に考えてほしいと思っています。大人は、あなたが在りたいと願う将来にいつか辿り着く日が来ることを、祈っているのです。何をしたくて、何を達成するために、どのような手段が必要なのか。叶えたい目的と、叶えるための手段がすっきりと整った一連の流れがあってはじめて、手段が自分自身のステップアップに繋がります。だからこそ、子どものうちから真剣に自分なりの考えを描き、何度も試行錯誤を重ねて一歩ずつさきへと進んでいってください。


 大人たちは学校教育の名の下に、子が成長していく道筋を幾本か予め定めています。ある程度の自由度を担保しつつ、可能な限り多くの子たちが比較的良い将来へ導かれるよう、そのためのシステムを整えるのは大人の役目だからです。ですが、それはあくまで「なるべく多くの子たち」のためであり、「あなただけのために」しつらえたものではありません。定められた道筋に沿うことが、あなたの幸福満点な人生に繋がるとは、必ずしも断言できないのです。

 ただ、これだけは覚えておいてほしい。

 かつての大人たちがつけたその道筋には、それを歩む子どもたちが、せめて「できるだけ良い道を歩みますように」という、彼らの祈りが込められていたはずです。

 しかし、それは「確約」ではなく、あくまでも「祈り」でしかありません。むしろ、「これを使ってあなたの願いを叶えてほしい」という、ある意味であなたの選択に託すとも言えるような、他人任せな一面を持ち合わせている祈りです。


 大切なのは、自分が好きなことや在りたいと願う将来の姿を、ひとつでもふたつでも明確に描き出し、実現に向いた道筋を認識し、叶えるための手段を思いつけることです。

 中には、「いつまで夢を見ているの」と言う心無い大人もいるかもしれません。ですが、すぐに実らずとも腐らず情熱的に取り組んでいれば、将来あなたの味方になってくれる大人も現れるはずです。

 ですから、あなたはあなたのやりたいことを、あなたが行きつくであろう将来の在り方を、真剣に探しなさい。それが、あなたのさきを示す星のようなものになってくれます。

 あなたの選んだ道筋が、あなたの幸福に向かうことを、ひとりの大人として心から祈っています。

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