転生魔王は地球を防衛するのか?

お化け屋敷

第一話:勇者参上!

 202X年、月の裏に突如青い穴が出現した。月の裏側であるため、もちろん地球からは観測できない。

 穴の中は青黒く空間が波打っていたが、不意にその中から黒い船・・・が飛び出した。

 穴から飛び出した黒い船・・・は、月を避けて地球に向けて進路を取ろうとしたが、突然火を噴いて失速すると、月の重力に捕まりそのまま裏側に墜落してしまった。


 人類があずかり知らぬ月の裏側で起きた墜落事故。それから数ヶ月った時、月面に墜落した船から黒い影が飛び出した。


 黒い影はを広げると、月を周回して地球に向かって飛び立った。


 そしてそれが、宇宙機怪獣・・・・・による地球攻撃の幕開けであった。


 月の裏側から飛び立った黒い影。それ・・はなぜか地球の神話に出てくる魔獣の姿を模していた。

 アメリカ航空宇宙局NASA宇宙航空研究開発機構JAXA欧州宇宙研究機構ESROの科学者は、始めはそれ・・を宇宙生物と主張した。

 しかし、米国軍やロシア軍、NATO軍の交戦映像から、目の部分はクリスタルのような透明装甲に覆われ、体表のあちこちにリベットや蛇腹上の構造が有ることが判明すると、それ・・は生物ではなく機械…つまり兵器であると結論づけられた。


 メディアは最初はUFOや宇宙怪獣と言っていたが、いつの間にかネットではそれ・・を宇宙機怪獣と呼ぶようになるのだった。



 ◇



 初めて地球にやって来た宇宙機怪獣は、米国軍の迎撃を物ともせず、ニューヨークに来襲すると、三十分ほど市街地を破壊して再び宇宙に戻っていった。

 それから週に一度のペースで、宇宙機怪獣は地球に襲来し、各国の都市を破壊するのだった。


 もちろん襲撃を受ける各国の軍隊も指を咥えて見ていたわけではなく、宇宙機怪獣を迎撃した。

 しかし、米国、EU、ロシア、インドなどの大国の軍事力を持ってしても、通常兵器では倒すことはできなかった。


 ミサイルなどの誘導兵器、機関砲や戦車砲の砲弾も斥力場のような謎の力で軌道をそらされ、宇宙機怪獣にほとんど直撃させることができなかった。また直撃させることができても、宇宙機怪獣の装甲を破ることができなかった。


 また宇宙機怪獣に対して、迎撃するだけではなくコミュニケーションを試みていた。各国の科学者は、音声に始まり、既存周波数の電磁波による通信、果ては手話や手旗信号といった手法まで持ち出して、コミュニケーションを試みたが、宇宙機怪獣はそれら全てを無視するだけだった。



 ◇



 そして最初の襲来から何度目かの襲撃で、宇宙機怪獣は初めてアジアの某大国であるC国を襲来した。C国は、自国こそ最強であると示すために持てる戦力の全てをつぎ込んで宇宙機怪獣を迎え撃った。

 しかし、当然のことながら他国と同様に迎撃は失敗し。宇宙機怪獣は無傷のまま都市に降り立つのだった。


 都市の住民は、暴れる宇宙機怪獣から逃げ惑った。しかしC国の軍隊は住民の避難などお構いなしに宇宙機怪獣に攻撃を行った。C国の軍隊による攻撃は宇宙機怪獣以上の破壊を都市にと住民にもたらした。

 そして破壊活動が三十分を過ぎ、宇宙機怪獣が宇宙そらに戻ろうとしたとき、C国の軍隊は戦術核を都市に撃ち込むのだった。


 キノコ雲が上がり多くの人民を巻き込み都市は核の炎に包まれた。


 核兵器による攻撃でさすがの宇宙機怪獣も破壊されたと思われたが、溶解した都市の残骸しかない爆心地に宇宙機怪獣が存在していることを偵察ドローンが発見した。

 さすがに核攻撃を受けて無傷とはいかず、宇宙機怪獣はあちこちから煙を吹き出し破損箇所も見受けられた。

 再度の戦術核の攻撃が行われたとき、宇宙機怪獣は辛うじてその核爆発の顎門あぎとから逃れ、空に飛び立った。


 そして二度目の核の炎により電子産業で反映していた都市は、地図から消えることになるのだった。


 もちろんC国が核を使用したことについて世界中から非難が集中したが、


『我が国の犠牲によって、世界に平和が訪れた』


 C国の最高指導者は、国営放送を通じてそう宣言して世界を唖然あぜんとさせるのだった。


 実際それから三ヶ月経った現在、宇宙機怪獣は地球に襲来せず、人々は平和が訪れたと安堵あんどしてしまっていた。



 ◇◇◇◇◇



 目の前で炎が舞い踊り、永年魔王軍の副官として魔王に使えてくれたミスリル・ゴーレムイリーナが倒れる。

 魔法に耐性があるミスリル製の体であっても、火炎魔法の禁呪であるアトミック・フレアをまとわせた勇者の聖剣の攻撃には耐え切れなかった。


「イリーナ!」


「魔王様、…不甲斐ふがいない…私を…お許しください」


 アトミック・フレアの炎で溶かされながらも、イリーナは魔王に別れの言葉を紡いだ。

 禁呪の炎に焼かれるのもいとわず、手をのばしたが、その手が触れる前にイリーナは溶け崩れ、物言わぬミスリルの塊となってしまった。

 イリーナが倒れた今、魔王を護ってくれる部下は、誰一人いない。魔獣とゴーレムで大陸を支配する直前までいった魔王軍は魔王一人となってしまった。


「…勇者よ、魔王に刃向かった愚か者よ。今その報いを受けるがよい!」


 魔王の怒りが魔力となり体からほとばしると、それは魔法の炎となって勇者に放たれた。

 魔王は体に宿したその膨大な魔力を使って、無詠唱で魔法を使うことができる。激情に任せて勇者に放たれた魔法の炎は、しくもイリーナを焼き尽くしたのと同じアトミック・フレアであった。


「その程度の炎で私は倒せないぞ!」


 ただの魔法使いや剣士であれば、魔王の放った魔法を防げるわけもない。しかし勇者は、手に持った聖剣の一振りでアトミック・フレアの炎をなぎ払った。


「くっ、聖剣で禁呪を切り払うか。異世界の勇者はここまで非常識なのか!」


 私は異世界からやってきたという勇者と、彼が持つ聖剣をにらみつけた。


 姫によって召喚された異世界の勇者は、誰も見たことがない魔法と異世界の聖剣を振るって、魔王の軍団を次々と打ち破ってきた。


「ヘルミネート13世、貴様の悪行も今日限りだ!」


 勇者がビシッと音を立てそうな勢いで私を指さした。


「悪行だと、この世界で奴隷のように扱われるゴーレム達を救う、その我の行為が悪行というのか!」


 再び魔王から魔法が…今度は雷の魔法であったが…ほとばしるが、それも勇者は聖剣で受け止めてしまった。


「確かにこの世界のロボ…ゴーレムの扱いはむごい…」


 この世界でゴーレムがどのように扱われているかを思い出したのか、勇者は寂しげな目をしてうつむいた。


「我はゴーレム達を救うために…いや、ゴーレムをゴミのように扱う、そんな者達を許すわけにはいかぬのだ!」


 魔王は勇者に向かって怒りをぶつけるかのように怒鳴った。

 そう、魔王は間違っていない。魔王が大好きだった…初めての友達だったゴーレムを危険だからといって破壊してしまった、連中を許してはおけないのだ。この世界は間違っているのだ。


魔王お前の言っている事も理解できる。しかし、だからといって人間を滅ぼすのは間違っている。お前と同様にゴーレムを友とする人達も大勢いるのだ。魔王お前はそんな人達すら滅ぼそうというのか!」


 そう言って勇者が背後を振り返ると、仲間である剣士や僧侶、魔法使いがうなずいていた。


「ふっ、そんな偽善者達など信じられるものか! 勇者よ、お前にもわかっているはずだ。この世界ではゴーレムと人は友となれない。人はあくまでゴーレムを使役するだけなのだ!」


 そうだ、魔王にはこの世界の人達が、物言えぬゴーレムにどれだけ酷いことをしてきたのかよく知っているのだ。勇者の甘言に乗るほど甘くはない。


「いや、人はその行いを変えていける。今は難しいかもしれないが、きっといつかはゴーレムと人間は友となれる。そんな未来が来る」


 しかし勇者は、諦めずに魔王を説得してきた。


「今更貴様と禅問答をするつもりはない。勇者よ、お前は魔王ゴーレム達軍団の敵なのだ!」


 ここで私は、手に持った杖を大きく振りかざして叫ぶ…のだ。


「出よ、最終兵器●▽※…」



 ◇



「いでよ、最終兵器●▽※…」


 良美は右手をかざして椅子から立ち上がった。そして右手を振り下ろそうとして、目の前には勇者ではなく、しょぼくれたオジサン・・・・が立っていることに気づいた。


「あれ?」


 良美は首をかしげて目の前のオジサン・・・・をじっと見つめた。


「それで、櫻井良美さくらいよしみ君、その最終兵器とは何だね?」


 しょぼくれたオジサン・・・・は、良美そう言った。しょぼくれたオジサン・・・・は、もちろん勇者ではない。彼は良美が通う高校の先生である。


 そこでようやく良美は、自分が魔王などではなく普通の女子高生であり、そして今現在この時間は現代社会の授業中であることに気づくのだった。


「…えっと、最終兵器とは…」


 良美は手を振り上げたまま、固まってしまった。背後にいるクラスメートは、立ち尽くす良美を見てクスクスと笑っていた。

 身長が145センチという小学生並みに小柄な良美は、先生を見上げて冷や汗を垂らすしかなかった。


「最終兵器とは…何だね?」


 しょぼくれたオジサン・・・・こと、現代社会の原田先生は、台詞の続きを言うように良美を促した。


「…えーっと、やっぱり核兵器でしょうか?」


「ふむ。確かに核兵器は最終兵器と言っても良いとは思うが、それはこの授業で必要なものかね?」


 五十代独身の、そろそろ頭の上が寂しくなってきている原田先生は、威圧するようにじろりと睨んできた。


「…いえ、必要ではありません」


 良美は原田先生の眼光にひるみ、小さな体を更に縮こまらせた。


「まあつい最近核兵器それを使ってしまった国があるが、現代社会の授業に最終兵器核兵器なんてものは必要ない。だが、別な最終兵器は必要だと私は思っている…」


「べ、別な最終兵器ですか?」


 原田先生の不穏な言い回しに、良美はゴクリと唾を飲み込んだ。


「高校生にもなって最終兵器こんなものを使うとは思わなかったが…廊下で立ってなさい」


 先生は、静かにそう言うと廊下を指さした。


「…はい」


 良美は、肩を落としてとぼとぼとと教室を出て行くしかなかった。



 ◇



 お昼休み、良美は廊下での『立ちんぼ』という高校生にあるまじき罰則からようやく開放された。


「仏の原田先生をあそこまで怒らせるとは、私にはまね・・できないわ~」


「そうだな。俺もあんなできないわ。しかし俺はそんな良美にシビれる!あこがれるゥ~ぜ! 」


「ううぅ、なおくん、シビれなくてよいし、あこがれないでよ~」


 お昼休み、良美は女友達の松原留美まつはらるみと幼なじみの物部作もののべなおにからかわれていた。


 物部作は良美と家が隣同士の幼なじみで、保育園からのつきあいである。

 作は身長二メートル、体重110キロという巨漢で、良美と並ぶと大人と保育園児のように見えてしまうほどの体格差がある。学生服ならまだしも、私服で街を並んで歩くと作が誘拐犯として通報されたこともあるぐらいだ。


 作はラグビー部に入っており、その恵まれた体格からフォワードとして活躍していた。一年から花園に出場して活躍しており、既に幾つかの大学から声がかかっている。

 ラグビーというと厳つい男達の汗臭いスポーツというイメージがあるが、作はきれい好きであり、巨漢に似合わぬ整った顔つきと穏やかな性格から、女子生徒に人気があった。


 留美は、高校に入ってすぐに仲よくなった良美の女友達である。身長170cm、ショートカットのボーイッシュな美少女である。明るく気さくな性格であり、面倒見も良いため、一年の女子生徒にお姉様として人気がある。

 勉強もスポーツも得意で、現在はバスケ部のエースとして活躍中である。


 そんな二人に対して、良美は長い黒髪をおかっぱに切りそろえ、背が低く童顔であることから小学生と間違われることが日常茶飯事である。運動も得意ではなく性格も内向的であり、友達を作るのも苦手であった。

 恐らく作がいなければ、ぼっちであっただろうと良美は思っていた。

 しかし実のところ良美は、保護欲をそそる目の大きい美少女であり、クラスメートの女子や男子からも妹のように思える同級生として、暖かい目で見守られている事を良美だけが知らなかった。


「よしよし…。原田先生は優しいから内申には響かないでしょ」


 留美はそう言って、良美の頭を撫でるのだった。二人の身長差からまるで年下の妹を慰めるお姉さんという構図にしか見えない光景であり、それはこのクラスでは日常的な光景であった。


「仏の授業は内職してる奴が多いけど、先生も分かってて普通に見逃してくれてるからな。あんなこと寝言しなきゃたとえ最前列で居眠りしててもスルーしてくれてただろうに…」


 作は留美に撫でられている良美をしばらく生暖かい目で見ていたが、ふと思い出したかのように急に真顔になった。


「それで、よっちゃん・・・・・はまたあの夢・・・を見たのか?」


 高校生になっても作は、良美を子供の頃と同じように「よっちゃん」と呼ぶ。そう呼ばれるのは良美にとって嬉しくもあり、周囲のクラスメートに聞かれるのは恥ずかしいものであった。


「…うん、なおくん、またあの夢を見たの」


 良美は作の問いかけにこくんと頷いた。

 良美は小さい頃から時々異世界の魔王・・・・・・として勇者・・に倒される悪夢をみていた。もちろん幼なじみの作にはそのことを包み隠さず話している。


 作も最初は「気にするな」と言っていたのだが、中学・高校と学年が進むにつれ、その夢を頻繁に見るようになってから、ひどく・・・心配するようになっていた。


「夢って、二人が前に話していたあの・・魔王になって倒される悪夢?」


「うん、るみちゃんにも話したよね」


「授業中に叫び出すほどの悪夢ね~」


 留美は、良美が見る悪夢・・について二人から話を聞いていた。只、留美は悪夢にうなされると言う体験が無いため、今日までそんなにも気にしていなかった。


 そして留美は授業中の良美の寝言を思い出して、


「そりゃ作が良美を心配するのも分かるわ」


 と一人椅子の背もたれに寄りかかり、上を向いてうんうんと頷いた。


「まあ、所詮夢じゃん。気にしなきゃ良いんじゃないかな~」


 そして頷くのをやめてパック牛乳をストローでズズッと飲み干すと、にっこり笑ってそう言うのだった。


 留美はポジティブ思考の女子高生である。「悪夢など気にするな」と良美に言うのだった。


「でも…」


「…留美の言う通りかな。やっぱり、よっちゃんは気にしすぎなんだよ。それに、授業中に夢を見るとか、また夜更かししたんだろ? 昨日もWeb小説でも読んでいて、夜更かししてたんじゃないの?」


「ウッ…。だって、昨晩は面白そうな話が幾つも更新されてたんだよ~」


 良美は、自分の夢が魔王と勇者というファンタジー小説にありがちな展開と気づいた。そして、高校生となってスマフォを入手してから自分と同じような夢を見る人や同じような話がないかと、Web小説投稿サイトを覗くようになった。そしてものの見事にその手の創作物にはまってしまったのだった。


「Web小説で異世界転生モノだっけ…。あたしはそんなの読まないからな~」


 留美は、スマフォは連絡手段だと割り切って使っておりSNSもたしなむ程度であった。当然Web小説など読むことはない。


「よっちゃん、寝不足になるほどはまって授業中に居眠りするのは駄目だな。夜更かしするぐらいなら授業中に読めば良いじゃん」


 作の方は、良美の寝不足に駄目だしをするが、その後に言った内容は呆れるものだった。


「ええっ、なおくん、それは余計に駄目じゃないの? 見つかったらスマフォ没収だよ」


「まあ、仏なら大丈夫じゃないかな。内職どころか早弁している奴もいるぐらいだし」


 原田先生の授業中に次の授業の予習などと言った内職をしている生徒は多かった。


「俺なんて、これ・・組み立ててたしな」


 そう言って作が机の中から取り出したのは、白と黒を基調としたパトライトが肩についたロボットのイラストが描かれたプラモデルの箱であった。


「なおくん、授業中にそんなモノプラモデル作ってたの?」


 良美は、作が取り出したプラモデルの箱を見て目を丸くする。


「…勇者ブレイブガインって、懐かしいわね。そのアニメ、あたしが小学生ぐらいに兄貴が見ていた覚えがあるわ。でも作はどうしてそんな古いアニメのプラモデルを作ってるのよ?」


 留美は、プラモデルのイラストを懐かしむよう見た後、呆れたような目を作に向けた。


「いや、ついこの前BANZAIが復刻版って銘打って発売したんだよ。俺も昔はこのアニメにはまっていたから、懐かしさのあまり思わずポチってしまったんだ」


 作が箱の蓋を開けると、中には勇者ブレイブガインが素組みされた状態で入っていた。


 ちなみに素組みとは、プラモデルパーツを切り出して組み立てた状態のことである。最近のプラモデルはパーツ毎に彩色されており、接着剤も不要で組み上げることが可能なのだ。


「なおくん、本当に人形とかプラモデル好きだよね~」


「最近は部活が忙しくて、なかなか作れないからな~」


 良美は、作がその大きな体に似合わず手先が器用である事をよく知っており、小学生の頃にはガン○ラのジオラマ写真が雑誌に載るレベルの腕前であることを知っていた。


 実は良美もプラモデルに興味があったのだが、彼女は致命的に不器用であった。作に教えを請いながら何度か作ったのだが、どこかで致命的な失敗をしてしまうのだった。その手際の悪さは、作に言わせれば「呪いレベル」であった。

 そのため、良美は作が作った物を鑑賞するだけとなった。そして今も作の手にある勇者ブレイブガインをキラキラとした目で見ていた。


「私はそんなモノプラモデルに興味は無いけど、いくら何でも仏の授業中に作る事はないんじゃないかな。あと食事中なんだから、そんなモノ早くしまってよ」


 一方留美の方は、普通の女子でありその手の物プラモデルには全く興味が無かったので、「片付けろ」とばかりにシッシと手を振るのだった。


「そんなモノとか言うなよ」


 作はそう言って勇者ブレイブガインを大事そうに箱にしまった。自分も触ってみたかった良美は、プラモデルが箱にしまわれるのを残念そうな目で追いかけていた。


 そして三人は、中断していた昼食を再開しようとしたのだが、校舎を揺るがす衝撃によってそれは再び中断されることになるのだった。



 ◇



 場面は、良美達がのんきにお弁当を食べていた時から数時間遡る。


 月周回衛星をチェックしていた米国航空宇宙局NASAのオペレータは、衛星からの通信が途絶したことに気付いた。


「ディレクター、月周回衛星からの通信が途絶しました。これはもしかして…」


 オペレーターは叫び出したくなる気持ちを抑えて、司令席にいるミッション・ディレクターに報告を行った。


「途絶? 衛星のアンテナの故障ではないのか? 途絶前のデータを見直してくれ」


 最悪の事態を思い描きながらもミッション・ディレクターは、オペレーターに再度確認を求めた。


「いえ、データを見る限り故障の兆候は無く、アンテナは正常に稼働していました。そして衛星との通信途絶前に送られてきた画像が…これです」


 オペレーターは、衛星から送られてきた最後の画像をミッション・ディレクターの端末に転送する。


「こ、これは、おい、スクランブル発生だ! 直ぐにアラートを上げろ。これより現時刻をもって軌道上のオペレーションはSMBシフトに移行する」


 ミッション・ディレクターは、ディスプレイに映し出された映像を見るなり立ち上がって緊急事態を宣言した。それを聞いた、オペレーター達は大騒ぎとなり、それぞれのミッション・スタッフに連絡を取り始めた。

 なお、SMBはSpace Machine Beastの頭文字であり、SMBシフトとは宇宙機怪獣襲来に備えた監視体勢を取るという意味である。


「ついに来やがったか。データは既に言っていると思うが、一応ペンタゴンに連絡を入れるか」


 大騒ぎとなった管制室で、ミッション・ディレクターはペンタゴンに連絡を入れるのだった。



 ◇



 ホワイトハウスの執務室、米国大統領カルータは、国防長官のヘスパーから国防に関する報告を受けていた。


「大統領、中国は宇宙からの侵略者を撃退したと主張しておりますが、それは明らかに嘘であります」


「ふむ、それでは再び奴らは地球にやって来るというのかね?」


「ペンタゴンの分析では…その確率は98%以上です」


「…また奴らによって米国の都市が破壊されるのか。この前の襲撃によってデトロイトは大打撃をうけた。せっかく上向いていた米国経済が横ばいどころか下降線になっているのだ。ここでまた米国に彼奴らがやって来てみろ、リーマンショック並みの酷い状況に逆戻りだぞ!」


 大統領は、苦虫を噛みつぶしたような顔で机をどんと叩いた。


「大統領のお怒りはもっともです。しかし御安心ください、現在彼奴らに対抗するための新兵器が開発中です。これが完成すれば、あの侵略者を米国軍の力で撃退できるでしょう」


 国防長官はそう言って、大統領に資料を差し出した。その資料には、宇宙機怪獣に対抗する新兵器の開発プランが記載されていた。


「ふむ、私は軍事技術にはそれほど詳しくないが、君が太鼓判を押すのだ、詳しく見せてもらおう」


 大統領は、資料を受け取るとざっと目を通し始めた。


 しばし書類を読んで頷いていた大統領だが、次第にその手がぶるぶると震えだし顔が真っ赤になっていった。


「こ、国防長官。この兵器が完成すれば、本当に敵を撃退できるのかね? 本当に、ほんとう・・・・にそう思っているのかね?」


「ペンタゴンは、そう主張しております」


「…ペンタゴンは、たった一つの兵器に原子力空母2隻分の予算をかけろと言うのかね。私には、この資料がジョークにしか思えないぞ!」


 大統領は、国防長官に資料を叩きつけるように返した。国防長官は、資料を受け取り損ね床に資料が散らばった。


「ですが大統領、現用の兵器ではあれには通用しません。そして我が国では、某C国のように国内で核兵器を使うことは、世論が許さないでしょう。となれば、このような兵器も必要となると…」


「幾ら軍事音痴の私でも、そんな馬鹿げたモノに金を突っ込む積もりは…」


 大統領が国防長官に反論しようとしたところで、デスクの上の端末が『ピピピッ』とアラーム音を響かせて着信を知らせた。端末に表示された表示は、最高レベルの緊急事態での着信であることを示していた。


「うむ、私だ。いったい何が起きたのだね?」


 国防長官との会話を中断し、大統領は端末を操作して着信をとる。通信が繋がると、端末のモニターには米国空軍の将軍が映し出された。


『大統領、緊急事態です。NASAからの報告がありました。どうやら月面に異常が発生したようです』


 将軍は興奮しているのか、顔が紅潮し早口でまくし立てるように大統領に話しかけてきた。


「落ち着きたまえ。月面の異常とは何かね? 政治でもビジネスでも報告は正確にするものだ!」


 嫌な予感に冷や汗を流しながらも大統領は、冷静な口調で将軍に説明を求めた。


『大統領、アレとはもちろん宇宙機怪獣の事です。あの宇宙悪魔が再び地球に来襲するのです』


「将軍…本当かね?」


『大統領、この件に関して、私が嘘をつく必要があるのでしょうか? もちろん事実です。あと数時間…6時間程で、あの悪魔は再び地球に襲来します!』


「オーマイガッ!」


 最悪の予感が当たってしまった大統領は、天を仰いで叫んだ。


『大統領、全軍の警戒態勢をデフコン1に上げますが、宜しいでしょうか。ええ、前回は我が軍は負けましたが、今回はそうはいきませんよ。ラプターF-22に対空核ミサイルを搭載すべく改造中です。今度こそアレを撃墜して見せますよ』


「おい、貴様今何と言った。核ミサイルだと? まさか核を使うつもりなのか?」


 核ミサイルという言葉を聞いて、大統領は慌てて端末に向き直った。


『米軍が負けるなど、あってはならぬのです。幸いC国が核の有効性を示してくれたのです。我が軍も使用するべきです。そうだ、どうせなら大気圏突入前にICBMをぶつけるべきでしょう…』


 端末では、テンパって目がグルグル状態になった将軍がとんでもない事を叫んでいた。


「(彼は正気を失っている)」


 大統領が国防長官に目をやると、スマフォで何処かと連絡を取っていた彼は肩をすくめて首を横に振った。


「前回の敗戦がショックだったのでしょう。将軍は休ませるべきですな」


「うむ、分かった。その件は君に任せる。取りあえずアレ・・の襲撃地点が判明するまで、軍はデフコン4…警戒態勢を上げるだけにしておこう。今迂闊に軍隊を動かすと相場に悪影響が出る」


 大統領はこの状況になっても相場の方が心配だった。


「了解しました。…それで、この件についてはどうしますか?」


 そう言って国防長官は床に散らばった資料に目をやった。


「…保留だ」


 そう言って、大統領は将軍との通信を切断するのだった。



 ◇



 月面を飛び立った宇宙機怪獣は、重力を無視した軌道をとり六時間ほどで地球大気圏に突入した。NASAは、宇宙機怪獣の突入進路から今回の目的地が日本であると結論づける。


 その報告を聞いた米国大統領は、米国がターゲットとならなかったことに安堵すると同時に、軍事的同盟国である日本に警告を発した。


『シンドー、今から耳寄りな情報を伝えよう…』



 ◇



 米国大統領から宇宙機怪獣来襲の警告を受けた安馬総理は、法律の規定により参議院の緊急集会を行い自衛隊の防衛出動を決議しようとした。

 過去に二回しか行われたことのない参議院の緊急集会を行った総理は、緊張して国会議事堂に向かったのだが…


「野党はおろか与党の政治家すらいないとは…。これが日本の政治家の姿なのか?」


 閑散とした議場をみて唖然としていた。

 議場にいたのは、野党の若手議員と与党の若手議員が数名と両手の数より少なかった。もちろんこのような状態で自衛隊の防衛出動の事前承認など行えない。



 なぜ議員がほとんどいないか、それは米国からの警告から宇宙機怪獣の襲来まで時間ほどしか時間が無かったこともあるが、それ以前に議員が都内から逃げ出していたのだった。


 これまでの宇宙機怪獣の襲撃から、大都市を狙って襲来していることが分かっていた。日本であれば東京は真っ先に狙われる可能性が高い。そのため、宇宙機怪獣が日本に来ると聞いた政治家の大半は、様々な理由を付けて東京から逃げ出していた。



『安馬さん、そこは危険だよ。君も早く逃げた方が良いんじゃないの?』


 ようやく連絡の付いた与党の重鎮は、安馬総理にそう告げて電話を切ってしまった。

 実は安馬総理も逃げ出したかったが、日本人らしい真面目さから内閣総理大臣という立場を捨てることができなかった。つまり小心者だったのだ。


「こうなれば事後承認だが、私の承認だけで防衛出動を命じます。河山くん、自衛隊を出動させてください」


 総理は、内閣閣僚の中でも逃げ出していなかった防衛大臣に自衛隊の出動を命じた。


「総理、米軍が負けた相手です。自衛隊で歯が立つでしょうか?」


 河山防衛大臣は不安そうな顔をしていた。


「自衛隊の皆さんには申し訳ないが、国防のために存在するのが自衛隊です。ここで自衛隊が出動しなければ、恐らく国民は自衛隊の解散を要求するでしょう。出動は絶対しなければ駄目なのです」


 憲法改正で自衛隊を正式な国防軍としたいと言い続けてきた総理にとって、この機会に自衛隊が出動しないという考えは無かった。


「…分かりました。ところで、在日米軍は出動してくれるのでしょうか?」


「要請すれば出動はするかもしれませんが、米国軍は宇宙機怪獣と一度戦って負けています。積極的に戦闘に参加はしない気がします。宇宙機怪獣との戦闘についての情報をもらえないか、大統領にお願いしてみましょう」


 総理は防衛大臣と別れ、米国大統領と連絡を取るために議場を後にするのだった。



 ◇



 大気圏に突入した宇宙機怪獣は、重力を無視して直線的な軌道で日本に向かっていった。


 自衛隊は襲来予定地は、大都市の東京、大阪、名古屋の何処かであると予想して、戦力の集結を行っていた。


「まさか日本海側とは。完全に裏をかかれたな」


 しかし自衛隊のレーダーは、宇宙機怪獣が予想を裏切って日本海側の都市に向かうことを捕らえていた。


「小松と岐阜からスクランブルで上がっているな」


「他の基地からも上がってますが…最初に接敵するのは、小松のF-15とF-35です」


 市ヶ谷の防空司令部のモニターには、宇宙機怪獣と自衛隊機を示すマーカーが映し出されていた。


前衛F-15がエンゲージ、敵機の目視確認に入ります」


 専守防衛が基本の自衛隊機は、必ず敵機を目視することになっている。宇宙機怪獣であることが分かっていてもその原則は守られていた。そのため旧型のF-15が敵機を確認し、いざとなったらステルス機であるF-35が攻撃を仕掛けるというフォーメーションを組んでいた。


『ターゲットを視認。米国軍から情報のあった宇宙機怪獣と確認した』


 F-15のパイロットから、宇宙機怪獣の種類について報告が入る。


「やはり中国が撃退したというのは、嘘だったな」


 司令部で、指揮を執っていた河野空将はパイロットからの報告に頷くと、


「米国軍からの情報通りなら地上に降りるまではこっちが有利だ。後衛F-35に攻撃の指示を出せ」


 攻撃を命じた。


 宇宙機怪獣の攻撃手段は直接攻撃と火炎放射である。空戦であればそれらは命中率も低く、戦闘機の方が有利に戦いを進める事ができる事が分かっていた。


『ターゲット・ロックオン、AMRAAM発射する』


 F-35から発射された四発の対空ミサイルが、宇宙機怪獣に向かっていく様子がモニターに映し出される。刻一刻とミサイルは近寄っていくが、宇宙機怪獣は避けるそぶりすら見せなかった。

 そしてミサイルが命中する寸前、突然ミサイルは進路を変更し爆発してしまった。


「くそっ、やはり命中しないか」


「そっちも情報通りだな」


 米国軍からの情報で、宇宙機怪獣に対空ミサイルを発射しても命中寸前で進路をそらされて、効果のない位置で爆発してしまうことが分かっていた。


 他の基地から上がってきた戦闘機も含め、全機で対空ミサイルを発射したが、宇宙機怪獣を撃墜することはかなわなかった。

 接近しての機銃による攻撃をパイロットは進言してきたが、近寄りすぎると火炎放射により撃墜される恐れがあるため、司令部は許可を出さなかった。


『くそっ、俺はやってやる!』


 しかし小松から上がったF-15のパイロットの一人が、命令を破り宇宙機怪獣に接近していった。


「馬鹿、止めるんだ。命令違反だぞ」


『空戦ならこちらが上なんです。やらせてください』


 F-15は司令部の命令を無視して宇宙機怪獣に接近していった。


 そして火炎放射を避けてF-15は、宇宙怪獣の後方につけた。


『ここなら火炎放射できまい…。ロックオン…ん? あれ・・は…何か背中に乗っているぞ?』


 宇宙機怪獣に近づいたF-15のパイロットは、その背中に何かがへばりついているのを視認する。

 「何だろう?」と確認しようとしたパイロットは、それ・・が突然自分に向かって飛びかかってくるとは思いもしなかった。


『うぁーーーーーっ』


 宇宙機怪獣から飛び降りたソレ・・は、F-15にしがみつくと、そのまま地面に落下していくのだった。



 ◇



 ソレ・・に飛びつかれたF-15は失速し錐揉み状態で地上に落下していった。


『くそっ、こいつめ、離れろ、離れるんだー!』


 パイロットは叫ぶが、ソレ・・はF-15から手を離さなかった。結局F-15とソレ・・は、そのまま地面に墜落して行き、巨大な火柱が上がった。



「墜落地点に確認の機体を一機向かわせろ。残りは引き続き宇宙機怪獣の追跡を続けるんだ!」


 命令無視し攻撃を仕掛けたF-15のマーカーがモニターから消えるのを見て、河野空将は苦虫をかみ潰したような顔で指示を出した。


「現在、墜落したF-15とロッテペアのF-35が向かっています」


 河野空将がモニターを見上げると、一機のF-35がF-15が消えた地点に向かっていた。


「(対宇宙機怪獣戦で初めての戦死者が出てしまったな。これで野党やメディアに総理は叩かれるだろう。しかし、自衛隊機の墜落…もし民間人に犠牲が出ていたら…その場合は自分は辞任するしか無いだろうな)」


 河野空将はそんな事を思いながら、再び宇宙機怪獣の方に注意を戻した。


 一方宇宙機怪獣は、F-15を撃墜したことなど何とも思ってないかのように西に向かって飛行を続けていた。


「このままだと、北陸地方を通り過ぎて日本海に抜けてしまうぞ。奴さん日本海でUターンするつもりか?」


「民間機じゃあるまいし、日本海でUターンするわけがないだろう。もしかして、奴の狙いは日本ではなくC国なのか?」


 今までと異なった宇宙機怪獣の行動に、司令部の人員がざわめき始めた。


「(核を使ったC国を再度襲撃するつもりか? それなら日本の被害は最小限で済むが…)」


ターゲット宇宙機怪獣が上昇を始めました』


 周囲の声から、河野空将も「C国に向かっているのでは?」と疑いだしたところで、宇宙機怪獣を追跡していたF-35のパイロットから通信が入った。


「上昇だと。まさか、このまま何もせずに離脱するのか?」


「何とか追尾しろ。振り切られるな!」


 パイロットに対して司令部は指示を出す。


『追跡しようにも上昇速度が違いすぎて、このままでは振り切られます』


 F-35はアフターバーナーを使用してフルパワーで宇宙機怪獣を追跡するが、それでも追いつくことはできなかった。


 司令室がざわめく中、


『駄目です。完全に振り切られました。それに燃料切れビンゴが近い。これ以上の追跡は不可能です!』


 F-35のパイロットから泣きそうな声で通信が入ると同時に、レーダーの索敵範囲から外れてしまったか、宇宙機怪獣のマーカーがモニターから消失する。


 都市を襲撃しないという前例の無い宇宙機怪獣の行動に、司令部は沈黙してしまった。





『墜落地点上空です』


 静まりかえった司令室に唐突に通信が入った。それはF-15の墜落地点に向かったF-35パイロットからの通信であった。


 それを聞いた河野空将を始め司令部の面々は、我に返った。


「どこに墜落したんだ、それと墜落地点はどうなっている?」


 河野空将は、F-15が墜落した地点を精査するように命じた。司令部のオペレーターは、はF-35の位置情報を確認し北陸のどの地点に墜落したかを調べ始めた。


『F-15が墜落したのは公園のようです。墜落地点の近くに巨大なチューリップを模した建物が見えます』


 墜落地点確認のために低空飛行をしているF-35のパイロットから次々と状況報告が入り、墜落地点がディスプレイの地図に表示された。


「北陸…あそこは富山か。それで、チューリップの建物がある公園とは何処なんだ?」


 河野空将の問いかけに、オペレータの一人が口を開いた。


「恐らく、富山県の砺波市にあるチューリップ公園ではないでしょうか。自分は富山の出身なのでよく知っています。毎年ゴールデンウィークの時期にチューリップがたくさん咲いている場所で…」


「そんな観光案内のような情報は良い。その公園に墜落したとして民間人に被害が出たかどうかが重要だ」


 河野空将はオペレーターの解説に口を挟み、問い返した。


「今は七月の後半ですから、特別なイベントが無ければ人気は少ないはずです。ただ近くには県立高校や住宅地がありますので、そちらに被害が無いか、調査する必要があると考えます。幸いと言ってはおかしいのですが、近くに陸上自衛隊の駐屯地があります。出動を要請してはどうでしょうか?」


 オペレータの返答に、河野空将は頷く。


「陸自に連絡を取れ。直ぐに調査に向かわせるんだ」


 河野空将は陸上自衛隊に出動要請を出すように命令するのだった。



 ◇



 上空で自衛隊が宇宙機怪獣と戦闘を繰り広げているとはつゆ知らず、良美達はお昼を過ごしていた。


「ほら早くしないとお昼休みが終わっちゃうよ。作もそんな物プラモデルしまって早く食べよう」


「わかったよ」


 留美に睨まれた作は、渋々とプラモデルの箱をリュックにしまい、お弁当に向き直った。


「ねえ、なおくん、るみちゃん。何か妙な音がしない?」


 残念そうな目でプラモデルの箱を追っていた良美だったが、何か聞こえると言い出した。


「ん…、確かにキーンと音がするな。この音はジェットエンジンかな?」


 作は耳を傾けてしばらく考えるとそう答えた。


「音なんて気にしないで、早く弁当、食べちゃいましょ。私達遅れてるわよ…」


 留美の言う通り、教室は昼食を終えスマフォを取り出してゲームを始めたりSNSに書き込んだりするクラスメートが出始めていた。


「おう、ちょっと急ごうか」


「うん」


 作と良美が弁当に向き直ったところで、SNSを見ていた生徒の一人が突然騒ぎ出した。


「おい、今SNSで見たけど、宇宙機怪獣が日本に向かってるって」


 そう言われると、スマフォを持っていた生徒が慌てて情報を検索し始めた。


「ホントだ~。北陸に向かっているってさ~」


「マジかよ。…げっ、本当にこっちに来ているらしいぞ」


「えーっ、何で北陸に来るんだよ。東京に行けよ。あっちの方が都会だろ」


 SNSやWebニュースで宇宙機怪獣の情報を見て、教室がざわつき始める。


「これじゃ今日は午後から休校だな。早く帰れる…」


 そんな中、クラスでもお調子者の一人が嬉しそうに叫んだ。


 その時、突然雷のような衝撃音が轟き、校舎は巨大地震に襲われたように大きく揺れた。良美達やクラスメート達は、上下に揺れで教室の床に叩きつけられる事になった。



 ◇



 教室の中で、最初に立ち上がったのは作であった。ラグビー部である作は、体をぶつけあって地面に激突するという状況になれていた。先ほどもとっさに受け身をとり、ダメージを最小限に抑えていた。


「酷い目に遭ったぜ。おい、みんな大丈夫か?」


 作があたりを見回すと、クラスメートのほとんどが床に倒れてうめいている状態だった。


「あーびっくりした。乙女の体が青あざだらけになっちゃったよ。一体何が起きたのよ」


 隣で床に倒れていた留美が、体をさすりながら床に座り込んだ。留美は青あざができたとか言っているが、とっさに腕と足で衝撃を和らげていたのか目立った怪我は無かった。さすがバスケ部のエースという所であった。


「よっちゃんは…って。あちゃ~なんて格好だよ」


 作が隣に目をやると、そこには後頭部から床に倒れ、派手にスカートがめくり上がった状態の良美が目に入った。

 猫柄のお子さまパンツを丸だしにして倒れている良美を見て、作はあわててスカートの乱れを直した。ドジっ子の良美のこんな姿は、作にとって見慣れたものなのだが、他のクラスメート…特に男子に見せるつもりはなかった。


「おーい、よっちゃん?」


「…」


 スカートを整えた作は、良美を床に横たえたが、頭を打って気を失っているのか返事がなかった。


「返事がない、ただの屍のようだ…って、こりゃボケてる場合じゃないな」


 良作は、手慣れた様子で良美の呼吸と心拍数をチェックする。ラグビー部では頭を打って失神する人もまれに出るため、作もこういったことに手慣れていた。


「ねえ、良美は大丈夫なの?」


 留美が心配そうな顔で作と良美を覗き込む。


「呼吸も乱れてないし、心拍数も問題ないか…。大丈夫だとは思うけど、念のために病院で検査を受けた方が良いかな。えーとスマフォはどこに行ったかな~」


 作がリュックからスマートフォンを取り出そうとしたところで、突然留美がその手に抱きついてきた。


「作、アレは何?」


 突然留美に抱きつかれ、意外にボリュームのある胸の感触に作は顔を赤らめた。


「ちょっと、留美、手を離してくれ。早く救急車呼ばないと…」


「そんな事より、作、あれを見てよ!」


 留美を手から引きはがそうとする作に対し、留美は強引に作の顔を窓の方向に向けた。


 

 良美達の通う高校の校舎は、鉄筋コンクリート三階立てほぼコの字型の建物である。北に正面玄関と特別教室があり、南側に教室が配置されている。グラウンドは教室の南側に面しており、教室の窓からグラウンドは一望出来る配置となっている。

 良美達二年生の教室は二階にあり、窓からはグラウンドが見下ろせる。昼休みであり、夏の日差しが照りつけるグラウンドには誰もいないはずだった。


「そんな事って、一体何を見ろっていうんだよ。まさかグラウンドに宇宙機怪獣でも落ちてきたっていうのか?」


 そういって作がグラウンドを見ると、


「…って。ありゃ何だ?」


 そこには足を地面にめり込ませた巨人・・が存在していた。


「そんなの私に分かるわけないでしょ!」


「まさか本当に宇宙機怪獣? 宇宙機怪獣ってたしかワイバーンみたいな姿だったはずだったよな?」


「だから、私に聞いても分からないわよ!」


 作のボケた問いかけに対して、留美は怒鳴るように答えた。


 そんな二人の周りでは、ようやく床から起きあがったクラスメート達がパニックに陥っていた。


「痛い、足の骨が折れてるわ。誰か救急車を呼んでよ!」


「おい、早く俺の上から退いてくれ!」


「ひどい地震だったな。地面がひっくり返ったかと思ったぜ」


「おい、窓の外を見ろ。何じゃありゃ、巨人が落ちてきたのか?」


「空から女の子じゃなくて巨人が落ちてくる…こんなパターンは斬新すぎるぜ」


「巨人って、人を食べるんじゃ…」


「そりゃ進○の巨人だ!」


 怒号や悲鳴…じゃない物も混じっていたが、良美達のクラスメートは酷い混乱状態であった。


 作と留美、そして混乱するクラスメート達がそんな状態の中、全高十メートルほどの巨人は、足を地面から引っこ抜くことに四苦八苦していた。


 そしてようやく片足が地面から抜けたところでバランスを崩した巨人は、そのまま校舎に向かって倒れ込んできた。


「マジかよ」


「ええっ?」


 作と留美が呆然と見守る中、校舎は倒れてきた巨人によって大きく破壊されてしまった。



 ◇



『私は一体どうなってるの? なおくん、るみちゃん、どこに行ったの?』


 後頭部を打って気絶している良美は、真っ暗な空間で一人全裸・・でたたずんでいた。まるで永遠に落ちていくような感覚の中、突然空間が光に満たされると、良美は巨大な力が体に満ちるのを感じ取った。


『この力は一体どうなっているの? よく分からないよ。なおくんーーー』


 体の奥底から力がわき出し、どんなことでもできそうな感覚にとらわれ、良美は恐れを感じていた。いつも側にいてくれる作がいない状況も不安に拍車をかけ、良美は、力があふれ出ないように体を丸めてしまった。


『なおくん、るみちゃん、私を助けて…』


 良美がそう呟いたとき、目の前にぼんやりと青色をした光球が現れた。直径十センチほどの光球から、良美はなぜか懐かしいモノを感じとった。


『これは何?』


 良美はそっと手を伸ばすと、その光球を優しく手で包み込んだ。光球はそこで何かを語りかけるように点滅し始めた。


『懐かしい…けど、悲しい感じがする。それにこの感情は…後悔? ねえ、貴方は誰なの?』


 光球から様々な感情を感じ取った良美は、思わず光球に語りかけてしまった。すると光球は良美の胸に飛び込み、そのまま胸の中に吸い込まれていった。


『これは…わたし? ああ、私のことなのね。今、全部思い出した』


 光球は感情と記憶の塊、いや良美の心の欠片だった。良美は今まで自分の心が欠けていたことを知らずに生きていたのだ。今その欠片を手に入れ、良美は自分がどんな存在であったかを思い出したのだった。


『…でも、今更こんな事を思い出しても意味はない。だって私は、今ここで幸せに生きているんだもの…』


 心の欠片は、良美に異世界・・・の知識ととある感情をもたらしたが、それは今地球で、女子高生として生きている良美には不要な物であった。


『どうしたらよいの? ねえ、わかんないよ』


 良美は心の欠片からあふれ出る感情に混乱し、空間の中でくるくると回り続けた。



『…ちゃん。よっちゃん』


 混乱状態の中、突然良美に作の声が聞こえた。


『なおくん?』


『よっちゃん、よっちゃん、…』


 良美が周囲を見回すと、頭上から作の声が聞こえることが分かった。そして、その声が妙に弱々しい事に気付いた。


『なおくん、どうしたの? 何かあったの?』


『よっちゃん、よっちゃん、…』


 良美が呼びかけるが、作は名前を連呼するだけだった。


『何かあったんだ。早くなおくんの所に行かなきゃ』


 良美は作の声のする方に向かって進んだ。急ぎたいという思いに、体にあふれる力が反応したのか、まるでワープでもするかのように空間が後ろに流れいく。


『よっちゃん』


 そして良美は光り輝く空間から飛び出した。



 ◇



「なおくん!」


 良美が目を覚ますと、目の前に作の顔があった。


「よっちゃん、ようやく…目を覚まして…くれた」


 どういうわけか、作は横たわった良美に覆いかぶさるような姿勢を取っていた。


「なおくん、ちょっとこの体勢はまずいんだけど…」


「はは、しょうがないだろ。よっちゃんは気を失っていたんだ。こうするしかなかったんだよ」


 そう言って作は笑ったが、その力ない笑顔に良美は異常を感じ取った。


「ねえ、どうしたの。何かおかしいよ」


 良美はそう言って作の体に手を伸ばした。


 ヌルリ


 良美はそこで作のワイシャツが濡れていることに気付いた。そのワイシャツに触った手は真っ赤に濡れていた。作の体は血まみれだったのだ。


「なおくん!」


「よっちゃんを…助けられて…良かった」


 そう言って作は力が抜けたのか、良美に覆いかぶさるように倒れてしまった。


「なおくん、どうしたの? なおくん!」


 良美は慌てて作の体を持ち上げて・・・・・自分の体を引きずり出した。身長二メートル、体重110キロの作の巨体だが、今の良美は力に満ちあふれており、軽々と持ち上げられる。


「なおくん…ヒッ」


 うつぶせに横たわった作の体をみて、良美は小さく悲鳴を上げる。作の背中には、大きな鉄筋コンクリートの破片が突き刺さっていた。作の体が血まみれだったのはその破片による傷のためだった。


「これじゃ、なおくんが死んじゃう」


 良美は医学について素人であったが、異世界の知識から作が致命傷を負っていることが理解・・できた。


「どうすれば良いの?」


 いつもの良美であれば、このような状況ではパニックになってしまい何もできなかっただろう。しかし、今の良美には異世界の知識と力があった。どうすれば作を助けられるか、その方法を知識は教えてくれた。


「これを使えば良いのか…」


 良美は空間を操作・・・・・して、漆黒の石片を取り出した。


「本当に取り出せた」


 良美が行ったのは、異世界の自分が使っていた格納空間へのアクセスだった。いまだに夢の中のような記憶だが、物を取り出せることで知識が間違っていないことを良美は実感した。


「私は聖職者じゃないから、なおくんは治せない。だけど心は賢者の石これに封じることが出来る。でもそれじゃ、なおくんは生きているけど死んだも同然だよ…」


 良美は周囲を見回すと、作のリュックを見つけた。リュックの中を探って、作のスマートフォンを見つけた良美は薄らと微笑んだ。その微笑みは、今までの良美を知っている者が見れば、彼女がおかしくなったかと思うほど冷酷な笑みだった。


「これを使えば、なおくんは大丈夫だよね」


 良美はスマートフォンからSIMカードを抜き出すと、そこに漆黒の石片賢者の石を差し込んだ。


「後は儀式を行えば…。なおくんの魂はそろそろ体から抜け出しそうだし、生き血はたっぷりあるね。これなら大丈夫だよね」


 良美は作の体が既に鼓動を止めていることを確認し、その体の上にスマートフォンをそっと置く。そして作の体から流れ出した血を使って、床に巨大な魔法陣を描いた。


「ん、完璧」


 ぶきっちょなはずの良美であったが、魔法陣は魔法で描くため一瞬で構築される。魔法陣の仕上がりに満足し、良美は魔法陣に魔力を流し始めた。


「クッ、久しぶりの魔法だけど…なおくん、絶対に助けるからね。…我ここに彼の者の魂を神々の欠片に封じ込める♪!」


 良美の歌うような呪文と魔力に反応して、魔法陣は激しく光ると、その光は作の体とスマートフォンを包み込んでいった。



 ◇



『あれ、俺…死んだんじゃないのか?』


 宇宙機怪獣によって校舎が潰されたとき、落ちてくる校舎の破片から良美を護って作は致命傷を受けてしまった。あの状態から自分が助かるとは、作は思っていなかった。


『うーん、Web小説じゃあるまいし、まさか女神が現れて、異世界に転生できるとか言い出す…とかないよな~』


 作はきょろきょろと辺りを見回すが、白い壁に囲まれた十畳ほどの部屋で、そこには作以外誰もいなかった。白い壁がぼんやりと光り周囲は見えている。見回しても、部屋には出入り口らしき物は見当たらなかった。


 いや、部屋の一面だけガラス張りの壁であったが、そこに見えるのは真っ暗な空間であった。


『出入り口も無し。唯一外に通じてそうなのがこの窓だけど…』


 作は手でガラスの壁を触ったり、軽く叩いてみたりしたが何の反応も無かった。


『おーい、誰かいませんか』


 思い切ってガラスの壁をドンドンんと叩いて叫んだが、やはり返事は返ってこなかった。


『困ったな。俺は死んじゃったのか生きているのかぐらい知りたいのだが…。誰か状況を説明できる奴、出てこいよ』


 反応が全く無いため、作はふてくされて部屋の中央に胡座をかいて座り込んだ。


『なおくん…』


 そうしてどれだけの時間が過ぎただろう、作は自分を呼ぶ声に気付いた。そしてその声が良美の声であることも理解した。


『よっちゃん! 無事だったのか』


 良美の声がどこから聞こえるのか分からず、作はきょろきょろとしていた。

 そうしていると、ガラスの窓の向こう側が明るくなり、そこに巨大な良美の顔が現れた。


『うぁっ、巨大よっちゃんが現れた!』


 良美の顔を見て、作は驚いて後ろにひっくり返った。


『なおくん、そのリアクションは酷いよ~』


 良美は作のリアクションに不服なのか、頬を膨らませていた。


『突然巨大な顔が現れたらびっくりするだろ。でも、よっちゃんは無事だったんだな』


 体勢を立て直し再び座った作は、良美の無事な様子を感じて安堵のため息をついた。


『うん。私はなおくんが庇ってくれたおかげで傷一つ無いよ。って頭の後ろにたんこぶあるけどね』


 良美は「へへっ」と笑いながら、後頭部をさする。


『とにかく無事で良かった。…それで、一体俺はどうなっているんだ? よっちゃん、俺の今の状態を教えてくれないか?』


 作がそう言うと、


『なおくんの今の状態って…見せちゃった方がわかりやすいかな~。うーん、分かった見せちゃうよ』


 良美はしばし悩んだそぶりを見せたあと、彼女は姿を消した。そして部屋が移動する感覚とともにガラスの壁の向こうに衝撃的な光景が映し出された。



 ◇



 良美はスマートフォンの向きを変えて、液晶画面を作の死体に向けた。これでスマートフォンの中に居る・・・・作には、彼の体が見えるはずだった。


『ちょっ、あれは俺じゃないか。えっ? でも俺は今ここにいるし…。一体全体どうなってるんだよ』


 自分の血まみれの死体を見せられ、スマートフォンから作の混乱した声がもれる。


「なおくんは、死んじゃったんだよ。でも死んだのは体だけで、魂はこのスマートフォンの中で閉じ込めたんだ」


『魂だけって…。どうして、誰がそんな事をしたんだよ!』


「なおくん、それはあたしだよ~」


 良美は再びスマートフォンに向き直り、液晶に表示される作ににっこりと微笑んだ。


『マジかよ…。よっちゃんが俺をここに閉じ込めたのかよ。一体どうやってそんな事ができたんだよ?』


「んーんとね、ほら私って魔王になっていた夢みてたよね。実はあの夢って私の前世の出来事だったんだよ。それでね、さっき頭を打った時にその記憶が戻ったんだ~。それでね、私はいま魔王の知識と魔法が使えるんだよ」


『あの夢が…良美の前世が魔王って。………この状況じゃ信じるしかないのか。じゃあその魔法で俺は生き返ることはできるのか?』


 作はとんでもない状況に叫び出したかったが、辛うじてそれを抑えて良美のカミングアウトを受け入れた。


「なおくん、私は魔王だよ。魔王が死者の蘇生ってできると思う?」


 良美の邪悪さを感じる無邪気な笑みを見て、スマフォの中の作は諦めたような顔で項垂れてしまった。


『つまり無理なのか。…それで俺はこれからどうなるんだ? まさか俺は一生このままなのか?』


「うーん、当分はスマフォの中このままかな~。なおくんのボディと魂のアストラルリンクは完全に切れちゃったからね。今だと高レベルの聖職者じゃないと体に魂を戻せないんだよ。でも、心配しないでね。研究していつかきっと、私がなおくんを生き返らせてあげるからね」


 そう言って凹凸の無い胸をどんと叩いたが、小学生のような良美が胸を叩いても全く安心感はまったくなかった。


『よっちゃんを信頼して良いのか…不安だな』


「ひどーーい。だったらなおくんは一生このままにしちゃうよ。あっ、その方がなおくんを独り占めできて良いかも…」


『うぁーーっ、よっちゃんがヤンデレた』


 良美の暗い笑みをみて、作は頭を抱えた。


「嘘、嘘。冗談だよ、なおくん」


 良美は、慌てて暗い笑みを消して作にそう答えた。


『(本気で言っていたように思えたんだが…)俺はよっちゃんを信頼しているよ』


 ともかく、スマートフォンに閉じ込められた作が頼れるのは、良美だけである。作は良美に全てを任せることにしたのだった。



 ◇



 良美は作の死体を格納空間にしまい込むと、作の入ったスマートフォンを手に周囲を見回した。


「まずこの状況を何とかしなくちゃ駄目だよね」


 良美の横には、頭にたんこぶを作った留美が気絶して倒れていた。恐らく校舎の破片があったのだろうが、単なるたんこぶであり命に別状はない状態であった。

 校舎の方は、宇宙機怪獣の巨人が倒れ込んだことで三階から二階にかけて窓側の壁が崩れていた。三階には三年生のクラスがあるのだが、勉強合宿というイベントで学校にいなかったため、被害は出ていなかった。


「クラスのみんなは…重傷者が十名に、死んでいる人が三名っと。これは急がないと不味い状態だよね」


 良美達のクラスメートは、何とか廊下に逃げ出した人以外は崩れてきた校舎に潰されて死傷者が多数出ていた。


巨人あれは、こっちに来なさそうだね」


 良美が外を見ると、巨人は校舎や生徒に興味が無かったのか、グラウンドを横切って市街地の方に向かって進んでいた。


「じゃあ、急いでみんなを助けましょうか」


 良美は再び格納空間へ手を伸ばすと、今度は透明なクリスタル結晶を三つ取り出した。


「ごめんね、賢者の石は在庫が少ないの。今はこれ結晶で魂だけは保管しておくよ」


 良美が手を振ると、結晶は死亡が確定している二人の男子生徒と女子生徒の死体の上に飛んでいく。


「我は彼の者達の魂を♪牢獄に捕らえん♪ ×3!」


 作の時とは異なった呪文を唱えると、死体からクリスタル結晶に炎の塊が飛び込んだ。


「戻れ!」


 良美が再び手を振ると、クリスタル結晶は良美の手に戻ってきた。戻ってきたクリスタル結晶の中には小さな炎がゆらゆらと揺れていた。


「窮屈だけど、しばらく我慢してね」


 良美は格納空間にクリスタル結晶をしまうと、三人の死体も近寄って格納空間に収納した。


「後は重傷の人達だけど、この世界でヒール・ポーションって効果あるのかな?」


 良美は格納空間から香水の瓶のような物を取り出すと、その中身を重傷者に振りかけた。瓶の中身は異世界の魔法薬で、傷を負った体をたちどころに癒やしてくれるという便利な物だった。

 何故魔王である良美がこんな魔法薬を持っているかというと、魔王良美が、切り傷を治すぐらいの回復魔法しか使えないからであった。

 魔王良美は、膨大な魔力を持ち、攻撃魔法やゴーレムの作成など様々な魔法を使えたのだが、回復魔法は最低レベルの呪文しか使えなかった。そこで、いざという時のためにヒール・ポーションを持っていたのだ。


「完全に回復はしないけど、これで死ぬことは無くなったかな?」


 ポーションを掛けられた重傷者の呼吸が落ち着いたのを見て、良美は安堵のため息をついた。


「良美さん、貴方何をしているの…」


「良美さんが触った人が、消えちゃったよ?」


「えっ、もしかして魔法? 良美チャンってもしかして魔法使いなの?」


 校舎の倒壊から逃れた人や軽傷だったクラスメートが、ここまでに良美が行ってきた事を見て騒ぎ出した。もちろん良美が魔法を使ったこともしっかりと見られていた。


『こりゃ大騒ぎになるな~』


「うーん、私が魔王ってばれるのは不味いかな。事が済むまでみんなには寝てもらおうかな」


『えっ? よっちゃん、何をするつもり?』


「騒ぎにならない様に、みんなを眠らせようかな~っと。うん、この魔法で良いかな。眠りの雲よ♪」


 良美が呪文を唱えると、まるで煙幕のような白い煙が渦を巻いてクラスメートを包み込んだ。するとクラスメート達は次々と倒れて眠ってしまった。


「眠りの雲よ♪ 眠りの雲よ♪ 眠りの雲よ♪」


 良美は続けて魔法を詠唱し、眠りの魔法白い煙が校舎全て包み込むと、学校の中の生徒と先生を全て眠らせてしまった。


『よっちゃん、凄いな~』


「へへっ、だって私は魔王だもの。見ててね、今から校舎も直しちゃうから」


 作の賞賛の声に良美は照れ笑いを浮かべながら、次の呪文を唱えた。


「出でよ、クレイ・ゴーレム! 出でよ、ストーン・ゴーレム」


 呪文の詠唱と共に校舎が巨大な魔法陣に覆われる。すると破壊された校舎の破片が変形を始め、小さな人型のゴーレムに変わっていった。


「さあ君たち、早く下の形に戻って…って、あれれ?」


 良美が作り上げたゴーレム達は命令に従い校舎の形に戻ろうと動き始めた。しかしその動きはぎこちなく、まるで酔っ払いのような動きであった。

 何が悪いのだろうと頭を抱える良美に対し、ゴーレムの動きを観察していた作は、その理由にいち早く気付いていた。


『よっちゃん、ゴーレムの手足のサイズがちぐはぐだよ』


「本当だ! ええっどうして? 魔王がゴーレムの作成で失敗するなんてあり得ないよ~」


 ゴーレム作成に失敗した魔王良美は、空に向かって絶叫するのだった。


 魔法で作成されたゴーレム達は、良美の命令を実行するために一生懸命がんばって働こうとしていた。しかしゴーレム達は、左右の足の長さが極端に異なっていたり、体に比べて腕が大きすぎてバランスが悪かったり、さらには手と足がチグハグについていると言った具合であった。正直辛うじて動けるというレベルの造形であった。顔だけは小さく可愛いため、歪な体が余計にゴーレム達の悲惨さを強調していた。


『魔法で作ったのに失敗するとか、やっぱりよっちゃんの不器用さは、呪いレベルだったのか。あれだけ俺が親切丁寧に教えても○ンプラの一つも作れなかったのは、教え方が悪かった訳じゃなかったんだ!』


 スマートフォンの中で作は「うんうん」とうなずいていた。彼の脳裏には、良美にプラモデル作りを教えたときの様々な苦労が思い出となって横切っていた。


「そんな~。不器用だからってあんな形になるのはおかしいよ。私、夢の中じゃ凄いゴーレムを沢山作ってたんだよ~」


 良美はスマートフォンを顔の前に持ち上げて、作に力説するが、彼に言わせれば結果が全てであった。


『手と足のパーツを間違って取り付けたり、接着しなくて良いと言っているのに、わざと間接に接着剤をつけたりするのは、不器用というレベルじゃないと思ってたんだ。やっぱりよっちゃんは人型の物を作れないという呪い・・にかかっているんだよ』


「そんな、魔王の記憶を受け継いだのにどうして。こんな立派なスキルまで持っているのにどうしてゴーレムが作れないのよ!」


 魔王の知識と記憶を受け継いだとき、良美はまるでゲームのように自分のステータスが見えるようになっていた。


 名前:櫻井良美

 種族:人間

 クラス:魔王

 レベル:99

 HP :100/100

 MP :7650/1025


 ステータス:

  力  350

  敏捷 200

  器用 87

  魔力 999


 状態:正常


 スキル:

  ゴーレムマスター 99

  火魔法      99

  水魔法      52

  土魔法      99

  風魔法      45

  闇魔法      99

  精霊魔法     50

  生命魔法      5

  :


 ちなみにステータスの値は、普通の成人男性で100とした値である。魔王の知識と記憶から、異世界と地球ではそれほど人間の能力に差が無いと分かっている。

 つまりステータスを見る限り、良美は若干低めであるが、人並みの器用度である。そして状態は正常となっており、良美は呪いにはかかっていなかった。


「うがーっ、呪いなんてどこにも書いてないわよ~!」


『うぁっ、よっちゃん、スマフォを振らないでくれよ』


 ヒステリーを起こした良美は、スマートフォンをぶんぶんと振り回した。そんなことをされれば、スマートフォンの作は、部屋の中で転げ回ることになる。外に出られない作には、悲鳴を上げる事しかできなかった。



 ◇



『それでどうするの?』


 しばらく地団駄を踏んで暴れていた良美が落ち着くと、作は今後の方針を尋ねた。


「もう、こうなったら…なおくんに頑張ってもらうしかないわ」


 校舎を修理しようとがんばっている、歪なゴーレム達を見ながら良美はそう呟いた。


『俺? スマフォの中の俺にどうしろって?』


「今なおくんと私の間には、アストラルリンク…魂同士で繋がっているの。だからなおくんは、許可すれば私のスキルを使えるの。…つまり、なおくんが私の代わりにゴーレムを作れば良いのよ」


『へえ、おれとよっちゃんは、繋がってるんだ』


「なおくんの魂を封じ込めたのは、賢者の石だからね。あれ・・は魔王が自分の分身に近いゴーレムを作る為の物なの。魔王がその魔力と魂を消費して作り出した、魔王の欠片とも言うべき物なのよ!」


 良美は、賢者の石の作り方について熱弁を振るうが、


『魔王の欠片とか、とんでもない物に俺は封じられてるんだな。…うん、分かったよ。俺がゴーレムを作れば良いんだな』


 作の方は、事もなげな感じで状況を受け入れていた。


「…なおくん、ちょっとドライすぎない?」


『いや、そう言われてもこの状態じゃ受け入れるしかないからな。とにかくゴーレムを作るから、スキルの使い方を教えてくれないか?』


「うう、何か納得いかないけど、早く校舎を直さないとみんな起きちゃうからね。なおくん、いまからアストラルリンクを使ってスキルの使い方を教えるから、画面に額をくっつけてね」


『画面って、このガラスの窓に額をくっつければ良いのかな?』


 作の準備が整ったのをみて、良美はスマートフォンの画面に自分の額をくっつけた。


『ちょっと、よっちゃん!?』


 突然良美がアップになった事で、作はドキドキしてしまった。


「なおくん、心を落ち着けて」


『うっ、分かったよ』


 作が懸命に心を落ち着けると、頭の中に良美の知識と記憶が流れ込んできた。それは作と良美の子供時代の思い出だったり、魔王の時の記憶だったりした。


『これは良美の…魔王の記憶?』


「ごめん、ちょっと余計な情報まで漏れちゃった。ちょっと待ってね」


『…ああ、これがゴーレムマスターの使用法か』


 しばらくすると作の中にゴーレムマスターというスキルの使い方が流れ込んできて、作の魂に刻みつけられた。


「これでなおくんもゴーレムマスターのスキルを使えるよね。ああ、魔力は私の使ってね」


『おう、なんか使える気がするぞ。…うん、ちょっと試してみるわ』


 作は覚えたばかりのゴーレムマスターのスキルを使うため、魔力を良美から吸収し始めた。


「なおくん、ファイト!」


 良美の声援に送られて、作はゴーレムマスターのスキルを発動させた。スキルが発動すると、校舎を包み込むように魔法陣が発生する。


『うーん、ゴーレムを作るって意外と難しい。作りたいゴーレムの姿を、きちんと立体としてイメージしないと駄目なのか』


 作は、ゴーレムと言うことで泥人形のような物を漠然とイメージしていた。しかしそれは二次元のイメージであり、立体として成り立っていなかった。そのため、スキルが発動したにも関わらずゴーレムは完成しなかった。


「そう、イメージが大切なんだよ!」


 作がイメージを試行錯誤している横で良美がアドバイスしてくれるが、立体物として物をイメージするのは難しい作業である。頭の中でイメージを破綻無く回転させる事ができるレベルの想像力が必要だった。


『(いきなり立体のイメージを思い浮かべるとか、難しすぎる。せめて何か手本があればいいんだけど) …そうだ、よっちゃん! 俺のリュックからプラモデルの箱を出してくれないか』


 何かお手本が有ればと思った作は、リュックの中にあるプラモデルを思い出した。


「えっ、プラモデルの箱? これをどうするの?」


 良美は、作に言われるままにリュックからプラモデルの箱を取り出した。


『ありがとう。なかなかイメージするのが難しいからさ、プラモデルを参考にしてゴーレムを作ろうかと思ったんだ。そう、1/1プラモデルってイメージならできると思う』


 作は、良美に箱を開けさせると、午前中に作っていたプラモデルのパーツを思い浮かべた。


「なおくん? ゴーレム人型じゃなくて、部品がついたランナーが出来上がってきたんだけど。それに、このパーツって大きすぎない?」


 良美が作ったゴーレム達は、大きくても身長一メートルほどであった。そのゴーレム達が次々と合体・変形してできあがったのは、人型のゴーレム完成品ではなく、一辺が二十メートルほどもあるプラモデルのランナーだった。


『そりゃ原寸大でイメージしたからね。それじゃ今から組み立てるよ』


 作はゴーレムマスターのスキルを使い、ランナーからパーツを次々と切り出していった。そして切り出されたパーツは、目にも留まらぬ早さで組み上がっていった。


「は、早いよ。パーツの切り離しと組上げが一瞬でできちゃったよ」


『さっき授業中に組み立ててたからね、どうやれば良いか分かってるんだ』


 良美の驚く声に作は自慢げそう返答するが、授業中にプラモデルを作るとか、人に自慢できることではない。よい子は絶対にまねしないでほしい。


 そして良美がプラモデルの箱を取り出してから一分と経たないうちに、全高十メートルほどのゴーレム人型が組み上がっていた。校舎の破片を素材にしているため、全身白っぽい灰色だけだが、その姿はプラモデルの箱のイラストと通りの、ブレイブガインであった。


『やったー、1/1のブレイブガインが完成したぞ!』


「なおくん、それでこの1/1ブレイブガインでどうやって校舎を直すの?」


 作は1/1のブレイブガインが完成したことに感動していたが、良美は呆れたような声で問いかけた。


 そう、良美が全長一メートルほどの小さなゴーレムをたくさん作ったのは、ゴーレム同士が移動・合体して校舎の復元を行うつもりだったからである。

 しかし作は巨大な一体のゴーレムを作ってしまった。それにパーツを切り出したランナーの残りは、そのままとなっており、校舎の材料はそれだけ減っているのだ。つまり、校舎の修復は不可能であった。


『そういえば校舎を直すんだっけ? 1/1のブレイブガインを作る事ばかり考えて、暴走しちゃったな。これじゃ校舎を直せないよな…。あはは、バカなことしたな』


 失敗したことに気付いた作は、スマートフォンの中でorzの姿で落ち込んでしまった。


「なおくんは、しょうがないな~」


 作は、いつも良美のフォローをしてくれるしっかり者であるが、時々うっかりなミスをしてしまうことがあった。今回は1/1プラモデルが作れるという、作にとって夢のような状況であったことが原因であった。

 いつもとは逆に、スマートフォンの作の頭を指良美が撫でて慰めていた。


「とにかくこのままじゃ校舎が修復できないから、もう一度小さく作り直しましょう。なおくんなら簡単に……あれ? もしかして宇宙機怪獣がこっちに戻ってきてる? もしかして、また学校が襲われるの?」


 1/1のブレイブガインを見上げていた良美は、そこで市街地に向かっていった宇宙機怪獣が、学校に向かってくることに気づいてしまった。

 市街地を破壊しながら進む宇宙機怪獣の足下では、踏みつぶされた何かが爆発し、破壊された家屋が燃えていた。そして市街地には消防車とパトカーのサイレンが鳴り響いていた。


『まずいな。学校のみんなは、良美が魔法で眠らせてしまったから逃げ出せないぞ。このままじゃ学校と心中だ。くそっ、自衛隊は何ををしているんだよ』


「空に飛行機が飛んでるけど、宇宙機怪獣が市街地にいるから、攻撃できないみたい」


 良美は空見上げ、自衛隊機F-35が飛び去るのを見送った。


『あれは小松のF-35だな。対空装備だから、地上には攻撃できない。それより砺波の陸自はまだ来てないのか?』


 スマートフォンを空に向けて空自の戦闘機の状態を確認した作は、ため息をついた。

 ちなみに、砺波の駐屯地に駐留している陸自の部隊は、施設中隊であり、直接戦闘に携わる部隊では無い。だから宇宙機怪獣と戦闘せず、警察と協力して市民の避難誘導を行っていたのだ。


「うーん、私の魔法で攻撃すれば倒せると思うんだけど、魔王が本気で魔法を使ったら、たぶんこの辺りはクレーターになっちゃうな。あれ、そう言えば攻撃魔法って使えるのか分からないや。念のために試してみようっと。えぃっ♪」


 良美は火魔法のスキルを使い、ファイア・アローの魔法を無詠唱で発動させた。すると、本来一メートルほどの大きさの炎の矢が出現する魔法なのに、十五センチほどのダーツサイズの火の矢しか出現しなかった。そして炎の矢は小学生の投げるボール並みの速度でヘロヘロと飛ぶと、校舎の壁に小さな焦げ跡を作った。


「…攻撃魔法は使えるみたいだけと、威力が全くないよ。それに魔力効率が悪すぎだよ。これじゃ本気で攻撃魔法使っても倒せないよ!」


 魔法を使った後ステータスを確認した良美は、魔力効率の悪さに気付いて愕然としてしまった。

 本来ファイア・アローは魔力を1しか使わない魔法だが、今回は100も使用されていた。つまり魔王がいた異世界に比べて地球では、おおよそ百倍の魔力が必要ということであった。


「おかしいな、ゴーレムマスターのスキルはそんなに魔力を使わなかったのに…。攻撃魔法が使えないとなると、大問題だよ」


 いざとなったら攻撃魔法で宇宙機怪獣を倒そうと思っていた良美は、その目論見が外れて困ってしまった。


「どうしよう。攻撃魔法が使えなきゃ世界征服・・・・なんてできない。これは問題だよ」


 当てにしていた攻撃魔法が使えないというピンチに、良美はあたふたとしていた。


『(世界征服って、よっちゃんは何を考えてるんだ!)』


 何げに良美魔王が世界征服を企んでいた事に作は驚いてた。ただ、そんな状況でも宇宙機怪獣は刻一刻と学校に向かってくる。


『とにかく、今使えそうなのは1/1ブレイブガインあれしかない。学校の修理は後回して、あいつにやらせるしかないよ。米軍を撃退した宇宙機怪獣に勝てるとは思わないけど、囮にして学校から離れるように誘導するぐらいはやれるだろ?』


 作が良美にそう問いかけると、


「校舎の材料が元だからね。殴られたりしたら一撃で壊されちゃうよ。でも、囮ぐらいなら何とかなるかな」


 良美は、作の声を聞いて落ち着きを取り戻し、少し考え込んだ後にやれそうだと頷いた。


『とにかくグラウンドから動かして宇宙機怪獣あいつの注意をひこう。ブレイブガイン、動くんだ! ……って、こいつ動かないぞ?』


 作は、動くように命令を叫んだが、ブレイブガインは動かなかった。


『歩け、走れ、ジャンプしろ。…とにかく動くんだ!』


 作は、命令の仕方が悪かったのかと色々と命令するが、ブレイブガインはピクリともしなかった。


『どうして動かないんだよ。もしかして失敗作なのか?』


「もしかして、なおくんとブレイブガインあれの間で、リンクが繋がって無いのかも。ゴーレムマスターのスキルを使った時、なおくんは1/1プラモデルを作りたいって思ってたよね。プラモデルって自分じゃ動かないでしょ。だからブレイブガインあれは、なおくんの命令を聞いて動くというリンクが繋がらなかったんだよ。作る時に、ゴーレムって、命令を聞いて動く様にイメージして作らなきゃ駄目なんだよ。これって、ゴーレムを初めて作った初心者にはよくある話なんだよね~」


 悩む作に、良美がしたり顔で解説をしてくれる。


『そうなのか? よっちゃん、そんな話は作る時に言ってくれよ。じゃあ、もう一度命令を聞くように作り直せば…って、もうそんな余裕はない!』


 ブレイブガインを動かそうと四苦八苦しているうちに、宇宙機怪獣はグラウンドに入り込んでいた。つまり、敵はブレイブガイン目と鼻の先に居るのだ。作り直している余裕は無い。


「もうこうなったら、直接操作するしかないよ」


『直接?』


「うん、ゴーレムの体に触って命令を送るんだよ。とにかく飛ぶよ」


 良美はそう言って、教室からブレイブガインの肩に飛び乗った。


『よっちゃんが飛んだ!?』


 運動が苦手な良美が、校舎の二階からブレイブガインの肩に飛び乗るという離れ業をこなしたことに、作は驚いた。良美がこんな事ができたのは、魔王となった時に常人の数倍の筋力と敏捷を得たからであった。今の良美はアクションスターも顔負けのアクロバットも可能であった。


「おっとっと」


 しかし、器用度が常人並みのため、飛び乗った肩から滑り落ちそうになった良美は、あわててブレイブガインの顔をつかんでバランスを取った。


『よっちゃん、危ない。前を見て!』


 作の叫びに良美が目を向けると、そこには棍棒・・を振り下ろそうとする宇宙機怪獣の姿があった。


「避けて!」


 良美が命じると、ブレイブガインは軽やかな足取りで棍棒を避けた。電柱の数倍の太さである棍棒は、グラウンドに突き刺さり小さなクレーターを作った。


「ひぇ~。ゴーレムに乗って戦うとか怖いよ~。正太郎君とか大作君は凄かったんだね~」


 魔王としての知識と記憶があるため、良美はゴーレムで戦える。しかし、だからといって、ブレイブガインの体に乗って大きな宇宙機怪獣と戦うのは、怖い体験である。


『こんな戦い方じゃ危険過ぎる。よっちゃん、ブレイブガインこれを操るのに、他の方法は無いの?』


ブレイブガインこれを作り替えるまでは、こうするしか無いの。大丈夫、今の私は魔王なんだから。横に飛んで!…って、キャァーーー」


 作と話ながらも、良美は宇宙機怪獣が今度は横にスイングした棍棒を横っ飛びに避けた。ブレイブガインは命令に従いジャンプしたのだが、着地の際に良美は足を滑らせブレイブガインから落ちてしまった。


『よっちゃん!!』


 良美の手から振り落とされたスマートフォンが叫ぶ。 良美の手から落ちたスマートフォンは、ブレイブガインの胴体にぶつかりはじき飛ばされるかに見えた。

 しかし、スマートフォンは、そのままブレイブガインの胴体に吸い込まれていった。




「お尻から落ちてなきゃ大けがだったよ…」


「いや、お尻から落ちても大けがしちゃうよ。手で受け止めるのが間に合って良かったよ」


「あれ、なおくん? スマフォのボリュームを上げたの? 声が大きいよ。それに随分上の方から声がするんだけど」


 そう言って上を見上げた良美は、作の声で喋るブレイブガインと目が合うのだった。


「なお…くんなの?」


「うん。どうやらブレイブガインと一体化してみたいだ。まるでブレイブガインが自分の体のように動かせるよ」


 ブレイブガインの肩から落下する良美を受け止めたのは、ブレイブガインと一体化した作だった。予想外の出来事に良美は、目を丸くして驚いていた。

 そして作は、ブレイブガインの体が思い通りに動かせることを良美に見せようと、右手と左手の指を器用に動かしていた。


「(この状況って、なおくんとゴーレムの間にリンクが繋がったのかな?) そう言えば、スマフォなおくんはどこに居るの?」


 良美は取り落としてしまったスマートフォン見当たらなかったため、作に居場所を尋ねると。


「スマフォは、ブレイブガインの中に入ってる。おっと、そんな事を言っている場合じゃなかった!」


「なおくん、それは無理だよ、逃げて!」


 良美と話しているからといって、宇宙機怪獣が待ってくれる道理もなかった。

 良美を受け止めた状態で、グラウンドに座っていたブレイブガインには、宇宙機怪獣が振り下ろした棍棒を避けることは不可能だった。


「よっちゃんは、俺が護る!」


 振り下ろされる棍棒を避けられないと理解したブレイブガインは、被害を最小限にとどめようと左手で棍棒を受け止めた。しかし、校舎の瓦礫から作られたブレイブガインの体はもろく、棍棒は受け止められないはずだった。


 ガッとグラウンドに金属と金属が衝突した音が響く。


「…えっえっ? なおくん、受け止めちゃったの? それに体の色が変わってるよ」


 良美の予想を覆して、ブレイブガインは棍棒を軽々と受け止めていた。そして灰色一色だったブレイブガインの体が急速に着色されていった。


 脚から胴体、そして腕が白と黒のツートンカラーに着色され、肩に付けられた赤いパトライトが点滅を始めた。胸の青い排気口から、棍棒を受け止めた衝撃を逃がすかのようにガスが吹き出した。

 そして最後に頭部が変化する。形だけで何の機能も無かった目は黄色いクリスタル状の物質に変化して、意思を感じる輝きを灯した。


「体に力がみなぎってくるぞ。とぉっ!」


 左手で受け止めていた棍棒を宇宙機怪獣に向けて押し返すと、ブレイブガインは、右手と左手をクロスさせて、アニメで勇者ブレイブガインが取っていたポーズを決めるのだった。

 そう今この瞬間、1/1のプラモデルだったブレイブガインは勇者ブレイブガインとして生まれ変わったのだ。


「きゅぅ。目が回るよ」


 ブレイブガインが調子に乗ってポーズを決める中、右手にしがみついていた良美は、手の動きに振り回され目を回していた。


「おっと、このままじゃ危なくて戦えないぞ」


 良美の状態に気付いたブレイブガインは、グラウンドの隅に移動すると、


「よっちゃんは、とりあえずここに隠れてて」


 良美をバックネットの裏に降ろした。


「なおくん無理しないでね? うう、目が回るよ~バタンキュー」


 目がグルグル状態の良美は、そのままグラウンドに倒れ込んでしまった。


「ああ、無理はしないよ。それに何故か宇宙機怪獣あいつに負ける気はしないんだ」


 そう言ってニヒルな笑いを浮かべブレイブガインは、宇宙機怪獣をにらんだ。対して宇宙機怪獣は、突然ブレイブガインの様子が変わってしまった事を訝しんでいるのか、こちらもブレイブガインを睨み付けていた。


「(ワイバーン型じゃない人型の宇宙機怪獣。つまり初めてやって来る宇宙機怪獣だよな。だけど棍棒を受け止めた時の感じだと、力も大したことはない。武器も棍棒だけで飛び道具もなさそうだ。これならブレイブガインでも勝てるぞ)」


 今まで各国を襲撃していた宇宙機怪獣の姿は、架空のモンスターであるワイバーンにソックリであった。しかし今ブレイブガインの前にいるのは、脚より手が長く、毛の無いゴリラと言った容貌の巨人であった。

 ゴリラに似ていると言っても生物ではなく宇宙機怪獣である。素材不明の緑色の金属で体は作られており、腕と脚は蛇腹状パーツで構成され、胴体にはリベット状の突起が多数ついていた。頭部も目の部分が黒いバイザーで覆われている。


「(この姿、何処かで見たな。…ああ、思い出した。魔人ロボZXZに出てきたクミチョウロボットにそっくりなんだ)」


 作は、人型の宇宙機怪獣巨人の姿が、昔のアニメに出てきたロボットに似ていることに気付くのだった。


「クミチョウロボって、パイロットの威勢は良いけど噛ませ犬って扱いで、いつも簡単に負けてたんだよな~。だから俺は、人型の宇宙機怪獣クミチョウロボに負ける気がしないのか」


 ブレイブガインと一体化した作は、その力に酔いしれていた。ブレイブガインは、人型の宇宙機怪獣をクミチョウロボと呼ぶことに決めると、にやりと笑った。


「主役メカと脇役メカの違いを見せてやるぜ」


 ブレイブガインは、某格闘ゲームのまねをして、ちょいちょいと手招きをしてクミチョウロボを挑発した。


「グォ? グ…グガァァァ!」


 最初クミチョウロボは、ブレイブガインが何をしているのか理解できず、首を傾げていた。しかし手招きそれが挑発行為だと気づくと、怒りをあらわにしてうなり声を上げて襲いかかってきた。


「ははっ、あいつ怒ってるよ。宇宙機怪獣って、ロボットのくせに感情あるんだな」


 ブレイブガインはクミチョウロボが振り回す棍棒を軽やかに、まるでアニメの勇者ロボのように紙一重で回避した。


「すごい、まるで人間のような素早い華麗な動きだよ。ゴーレムなのに、どうしてあんなに軽やかに動けるの」


 バックネット裏から戦いを見ていた良美は、ブレイブガインの動きを見て驚きの声を上げていた。

 良美魔王が驚くのも当然で、全高十メートルもあるゴーレムはとても重く、その重量が架せとなり機敏な動作ができないのが当然だった。そのため巨大なゴーレムは攻城戦などに使い、人間との戦いに使用するゴーレムは、精々で五メートルぐらいの大きさにするのが普通であった。しかしブレイブガインは、その常識を破って人間と同じような軽やかな動作をしていた。


「うーん、なおくん賢者の石がゴーレムの核となっているみたいだし、それが影響しているのかな~」


 良美は、賢者の石をゴーレムの核としたことが原因と判断したが、ブレイブガインの動きが人間のように軽やかなのは、それだけが理由ではなかった。


 良美魔王が、ゴーレムマスターのスキルで土や石からゴーレムを作る場合、体の大半はぎっしりとが詰まった状態で作っていた。それが魔王のいた異世界では普通であり、常識であった。

 だが、作はそんな異世界の常識は知らずプラモデルを参考にして、ブレイブガインを1/1プラモデルとして作成した。つまりブレイブガインの中身は詰まっておらず、プラモデルのようにスカスカの状態であった。実際ブレイブガインの重量は、同じサイズのゴーレムと比較すると半分以下であった。重量が軽い、それが軽快な動きにつながっていた。


 そして人間らしい動きが可能な理由だが、それは最近のプラモデルで採用された球体関節にあった。

 異世界のゴーレムは、駆動するための動力を持たず魔力によって腕や足を変形させて動かしていた。つまり、関節などが無くとも動けた。しかし関節が無く素材その物を変形させるため、反応速度が遅くなるという欠点があったのだ。魔王もその点を改良しようと色々工夫を凝らしたが、人間の骨格ぐらいしか参考にできない状況では、そこまで自由度の高い関節を作る事はできなかった。

 その点、作が参考にしたのは最近の技術で作られたプラモデルである。プラモデルに様々なポーズを取らせることを可能とし、変形まで可能とした球体関節の技術は、ブレイブガインに人間と同じような、いやそれ以上の動きができる能力を与えたのだった。


 そんな高性能な体に人間の魂が宿った賢者の石が核として組み込まれたのだ、ブレイブガインは異世界のゴーレムとは比べものにならない運動性能を持ってしまったのだ。


「そろそろ、こちらも反撃させてもらうかな」


 クミチョウロボの攻撃をしばらく回避し続けたブレイブガインは、腰に手を伸ばすと、ヒップホルスターから『ニュー南部カノン』を取り出した。ニュー南部カノンは、口径50ミリ口のリボルバー式の大型拳銃で、アニメではブレイブガインの必殺武器の一つであった。


「これで終わりだぜ。ニュー南部カノン、発射」


 ブレイブガインが、ニュー南部カノンの引き金を引き絞ると、轟音と共に必殺の弾丸が発射される…はずだった。しかしニュー南部カノンは、「カチッ」と音を立ててシリンダーが回るだけだった。


「なんですとー!」


 慌ててブレイブガインは何度も引き金を引くが、ニュー南部カノンから弾は発射されなかった。


「どうして弾が出ないんだ。…って弾が入ってない!?」


 クミチョウロボが振り下ろした棍棒をごろごろと横に転がって避けたブレイブガインは、ニュー南部カノンのシリンダーをスライドさせると弾が装填されていない事に驚いた。


「たっくん、○ンダム・○ルドファイターじゃないんだから、プラモデルの銃から実弾が出るわけないでしょ」


「そりゃそうかーーーっ!」


 良美の突っ込みにブレイブガインは、頭を抱えて絶叫してしまった。ブレイブガインを組み上げたとき、ニュー南部カノンが動くように作った覚えがあるが、実弾まで入れてはいなかったことを作は思い出した。


 ニュー南部カノンを構えてフリーズして隙を作ったブレイブガインに対し、クミチョウロボは全速で駆け寄ってきて棍棒を振り下ろした。


「たっくん、危ない!」


「しまった、油断した! ええぃ、また受け止めてやる」


 回避が遅れたブレイブガインは、クミチョウロボの棍棒を再び左手で受け止めた。


「なんですとーーっ!」


 ブレイブガインは、完璧に棍棒を受け止めたはずだった。しかし受け止めた瞬間、左手は肩から外れてしまった。


 実は、プラモデルの動きの自由度を高めた球体関節には大きな欠点があった。それは負荷をかけすぎると外れてしまうという欠点であった。そして、最初に棍棒を受け止めたとき、球体関節には若干の歪みが生じていた。それに作が気付いていれば、ゴーレムマスターのスキルで治せたのだろうが、彼は気付かず、逆に調子に乗って動き回っていた。その動きの負荷も影響し、棍棒を受けた衝撃によって、肩は球体関節部分ですっぽりと抜け落ちてしまったのだった。


「ちょっと、タンマ」


 右手のニュー南部カノンをクミチョウロボに投げつけて、ブレイブガインは左手を持って逃げ出した。


「グホッ、グホッ」


 投げつけられたニュー南部カノンに怯むことなく、へっぴり腰で逃げ惑うブレイブガインをクミチョウロボは追いかけ回し始めるのだった。


「球体関節の弱点を忘れてるとか、俺はモデラー失格だ!」


 クミチョウロボから逃げ回りながら、ブレイブガインは、左肩をはめ直した。しかし一度抜けた関節部の調子は悪く、左手は動きが鈍く精密な動作は難しくなってしまった。


「しかし、飛び道具が使えないとなると格闘を挑むしかない。俺にそれができるのか?」


 ブレイブガインはひとしきり悩んだが、


「俺がいまできるのは…タックルこれしかない!」


 ラグビー部に所属している作にできる選択…それはタックルだった。接近戦を決意したブレイブガインは、追いかけてくるクミチョウロボに振り返ると、肩をおとし中腰で向かっていた。

 向かってくるブレイブガインに対して、当然クミチョウロボは、攻撃をしてくる。しかし、クミチョウロボの棍棒が振り下ろされるタイミングは単調であり、ブレイブガインは既にその間合いを掴んでいた。


「タックルと言っても、正面からぶつかったら体重差で負ける。確実に引き倒すには、後ろからだ」


 間合いを計り、紙一重で棍棒を回避したブレイブガインは、そのスピードを生かしてクミチョウロボの背後に回り込んだ。そして、クミチョウロボの足下をすくうようにタックルを仕掛けた。


「ウゴーーッ」


 背後に回り込まれブレイブガインを見失ったクミチョウロボは、突然足下を救われて地面に倒れ込んだ。二大の巨大ロボットが倒れ込んだ衝撃で、土煙が舞い上がり周囲は一瞬何も見えなくなっていた。


 そして土煙が収まった後には、うつぶせに地面に引き倒されたクミチョウロボと、背後からのし掛かりマウントポジションを取ったブレイブガインの姿があった。


「悪いが、このまま殴らせてもらうぜ」


 暴れるクミチョウロボを脚で押さえつけて、ブレイブガインは両手を組んで頭部を殴りつけた。


 ガッ、ガッ、ガキッ


 高校のグラウンドに金属と金属がぶつかり合う音が響き渡る。核爆発にも耐える宇宙金属製のミチョウロボを殴りつけても、ブレイブガインの拳は砕けなかった。本来校舎の瓦礫コンクリートから作られたブレイブガインの拳は、金属にぶつければあっという間に砕けてしまう強度しかないはずだった。しかし賢者の石がコアとなった時、ブレイブガインの体は魔力で原子変換され強靱な魔法金属に組成が変化していた。


「こんな野蛮な戦い方は格好悪いぞ。それに暴れるなよ!」


 宇宙金属と魔法金属、どちらの強度が優れているかだが、今回は引き分けであった。つまり、ブレイブガインの拳は砕けず、そして何度殴ってもダメージが入った様には見えなかった。頭を殴られながらもクミチョウロボは、起き上がろうと暴れていた。


「クミチョウロボのくせに、頑丈すぎる。恐らく、このまま殴っていてもクミチョウロボこいつは倒せないな。何かクミチョウロボにダメージを与えられる武器が必要だ」


 ブレイブガインがあたりを見回すと、目の前にクミチョウロボが持っていた棍棒が落ちていた。ブレイブガインが手に持ってみると、ずっしりと重さを感じるが、扱えないほどの重さではなかった。


棍棒これならクミチョウロボを倒せる…はず。しかし棍棒を振り回すとか…勇者ロボらしくない。ゴーレムマスターのスキルで変形させられないかな?」


 妙なこだわりで、作はゴーレムマスターのスキルを発動させた。すると棍棒を握っている部分に魔法陣が現れた。


「(ブレイブガインは、合体・・するサポートメカに剣が着いていた。だからブレイブガインのプラモデルには、剣のパーツが無かった。合体した後の剣を使った必殺技、頭にしっかり刻まれているぜ!)」


 何機かのサポートメカと合体し、ブレイブガインはグレート・ブレイブガインとなる。グレート・ブレイブガインが繰り出す剣の必殺技で毎週敵は倒されていた。子供の頃に見た剣の形を作は覚えており、それをイメージしてゴーレムマスターのスキルを使った。

 魔法陣が移動すると、棍棒が徐々に剣の形に変わっていく。そして完成した剣は、ブレイブガインの全高に匹敵する長さを持っていた。黒光りするその剣は、勇者ロボが持つには禍々しいデザインであった。

 ブレイブガインは、巨大な剣を両手で持ちあげ、クミチョウロボから離れた。


「(作るのには成功したが、これをブレイブガインは上手く振るえるのか?)」


 引きずっていた剣をブレイブガインは全力で持ち上げた。肩が剣の重さで外れそうになるが、刀身を肩から胴体にずらして乗せることで、何とか剣を構えることができた。


 一方、ブレイブガインから解放されたクミチョウロボは、のろのろと起き上がろうとしていた。剣を振るうには今がチャンスであった。ブレイブガインは飛び上がると、技の名乗りと共にクミチョウロボに剣を振り下ろす。


「いくぜ、必殺雷光唐竹割り」


 ズガガガガッガガガガッ


 ブレイブガインが振るった斬撃は、クミチョウロボの頭頂部から股下まで真っ二つに切り裂いていた。


「フィニッシュだぜ!」


 ブレイブガインが剣を担いで決めポーズを取ると、その背後でクミチョウロボが左右に分かれて倒れるのだった。


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