鳥籠を追え
見つめあっていたのはほんの五秒にも満たないだろうか。
オズワルドは桜庭からの返答を待っていたが、ふとなにかを思いだしたのか先ほど自分が蹴り飛ばしたミーシャがいるだろう方向へと振り返る。
「さっきの、あれか」
「サクラバさん!」
ボソリと呟いたオズワルドの声に被せるかのように、バランスをとりながら風に乗ってきたダリルが桜庭の名を呼ぶ。
彼も桜庭の
「無事……ってわけじゃなさそうですけど、生きてて本当によかったです。で、依頼にあったサンディは?」
「サンディなら……あの鳥籠の中だ」
桜庭の視線の先をダリルが追う。
視線の先にいたナタリアは自分たちが注目を浴びたことに対して舌打ちをすると、クロードに預けていた鳥籠を奪い一歩後ずさった。
「クロード、私は先にこれを持って研究所へ向かうわ。後で回収しにきてあげるから、貴方はコイツらを足止めしなさい」
「う、うん! 分かったよご主人様ぁ。僕頑張るからね!」
飛ばされたミーシャのことを少し気にしているのか、クロードは一度彼女のいるだろう方向に視線を向ける。
しかし彼はすぐに気持ちを切りかえると、ぶんぶんと尻尾を振り、犬に似た大きな異形の両手をポンポンと打ち鳴らした。
その場をクロードに任せたナタリアは両腕で鳥籠を抱えなおすと、屋敷の裏手へと向けて走りだした。
ガシャガシャと揺れる鳥籠からは「ビィ! ビィ!」という小鳥となったサンディの悲痛な鳴き声が聞こえたが、その声はどんどんと遠くなっていく。
「あっ!? あの女逃げやがったな!」
「アイツ、サンディをどこかへ連れて逃げるつもりだ。追いかけよう! ダリル、オズ! ……オズ?」
サンディを助けるべく桜庭は二人とともに追いかけようと試みるが、横のオズワルドが反応を示さないことを不審に思って彼の顔を見上げる。
「悪いね、先生。ちょっと僕は用事ができたから先に行っててよ。屋敷の裏手にはシャロンと如月が回っているから、きっと逃げようとしても一筋縄では逃がさないはずさ」
「それは分かったけれど、用事って……」
「なぁに。おいたが過ぎるいじめっ子に、少しばかしお説教をしてくるだけさ。ほら、早くしないと彼女行っちゃうよ?」
オズワルドがニコリと笑みを作る。
しかしその笑顔は、いつも彼が作る完璧なものよりもどこか歪で不思議と違和感を覚えさせた。
「あ、ああ……。分かった。あまり無理なことはするなよ?」
「もちろん」
「……よし、行こうダリル」
「ええ。僕たちだけでも大丈夫ですよ」
オズワルドの返答を聞くと桜庭とダリルは今度こそナタリアを追うために屋敷の入口へと向かう。
だがその入口の先で待ちかまえていたのはナタリアに命じられ二人を待っていたクロードで、彼は両腕を広げると口の端から犬歯をのぞかせて桜庭たちを威嚇した。
「ここから先は通さないよ! 僕はご主人様を逃がすまで、君たちを行かせるわけにはいかないんだ!」
「……へぇ。そりゃあ立派な忠犬じゃないですかぁ。今日は僕もろくに戦えてなくて不完全燃焼なんです。追いかけてこられても面倒ですし、あっちはとりあえずキサラギたちに任せて相手してやりましょう。……サクラバさんは、危なくないように屋敷の陰にでも」
戦闘態勢のクロードを見てダリルが手元に剣を生成する。
「ダリル、クロードは怪力をつかうんだ。俺が見ただけでも、牢屋の
「怪力ねぇ……。サクラバさん、知ってますか? 怪力を使うようなパワー系の奴はたいがい動きがトロいか、大振りで隙だらけだって相場は決まっているんです」
「それはゲームの中だけの話だろう! アイツは多分、足も犬なみにはや――」
「自分勝手に刀振り回すマホウツカイや変に身体の動きを制限してくるようなマジュウじゃないなら大丈夫。今度こそ僕はやってやりますよ!」
「話を聞いてくれ……」
桜庭は自分の知らないところでダリルがなにと戦っていたのかは分からない。しかし、やけに変なやる気を出している彼を見るに……ここに来るまでに駆り立てられるような出来事でもあったのだろう。
現実の世界ではフラグとも呼ばれるような言葉を発するダリルを見て、桜庭は嫌な予感に不安をつのらせたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます