新しい友人
弱々しい蝋燭の灯りだけが頼りな薄暗い空間の中。
桜庭とサンディは慎重に、それであってなるべく早足で前方にある階段目がけて歩を進めていた。
階段のある場所はこの廊下とはちがってランタンによる灯りが点いているのか、まるで暗闇の中にある一筋の光のように桜庭たちを待ちかまえている。
今のところ彼らの後ろにあたる重厚感のある扉の向こうからクロードが追ってくる気配はなく、ひとまずは安心だと言えるだろう。
先頭を歩く桜庭にサンディがつづき、彼は時おり後ろを振り返りながら心配そうに何度も桜庭に不安をぶつける。
「ほ、本当に大丈夫なのか……? あの犬ならあそこの扉捻り潰すくらい簡単だろう」
「さっきも言っただろ。一応扉の前にあった棚で開かないようにはしてきたし、彼はしつけのなってるいい犬だからしばらくは大丈夫……だと思いたい」
「思いたいって、確証はないんじゃないか!」
サンディは桜庭の耳元で大声をだすと、
「ああもう! さっきはお前の作戦に乗ってあんな餌やりみたいなことをやったが、おかげで寿命が縮む思いをしてしまった。そう好き勝手に私の三Sを
「三S……ってなんだ?」
桜庭が後ろのサンディの顔を見やる。
彼はキュッという効果音がつきそうなほどに口を固く結ぶと、渋い顔のままに答えを返した。
「そんなの、『
「サンディは死なないマホウツカイなんだから、最後のは気にしなくていいんじゃないか?」
「う、うるさいうるさい! 私にだって色々と事情はあるんだよ。……それよりもお前、名前はなんていうんだ」
「名前?」
唐突な質問に桜庭が聞き返すと、サンディはコクリとうなづいた。
「お前ばかりが私のことをサンディサンディって、一方的に個人情報を知っているのは不公平だろう。もしも仮にここから無事に出られたとして、お前の名前が分かっていれば謝礼くらいはしてやってもいいかと思ってな」
「はは、なんだそんなことか。名前教えてくれって一言言えばいいだけなのに」
「うるさい! いいだろう別に」
「さっきからうるさいうるさいって、声が大きいのは君の方なのになぁ」
こんな状況ではあるが、いつもいっしょにいるオズワルドやダリルとはまた違う賑やかさに桜庭は楽しさを覚える。
思えば、
桜庭は足を止めると、サンディに向けてニコリと笑いかけた。
「俺の名前は
「なんだその自己紹介は……言葉の関連性が全くなさすぎて意味が分からん。……でもサクラバか。うちのキサラギと似て少し呼びにくい名前だが、響きは綺麗だな。気に入った」
そう言うとサンディは少しは気がまぎれたのか、足取り軽やかにいつの間にか目前に迫っていた階段を上りはじめた。
「ドアの隙間から光は漏れていないし……どうやらこの先もまだ建物の中みたいだな」
「なんだと!? これだけ歩いてもまだ続くなんて、どれだけ広いんだこの建物は……。サクラバ、とりあえず開けてみろ」
「俺は君に比べて命の残機は一つしかないんだが……まぁいいか」
「私だって命は一つだけだぞ? その一つがなくならないだけだ」
「はいはい分かったよ」
すっかり打ち解けた様子で桜庭は苦笑混じりに返事をすると、重い鉄の扉に力をこめて押し開いた。
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