第28話 爆乳狭間で変?!



「ちょ、ちょっと、皆さんなんです! 止めて下さい!」

 

 言いながら手を振る緑扇宮。

 それはそうだ。数日前までベベルゥこと緑扇ルゥは、沖縄石垣島で愛蘭や他の同級生達と共に、国際電脳網絡で服のデザインを発表しながら、普通の高校生活を営む少年だったのだ。自分の歳と倍以上違う大人達に平伏される事に違和感を覚えるのは当然である。

 その宮の前に、さきの右大臣うだいじん天時あまときの悠紀宗ゆきむねが進み出て、自分の名を告げる。そして、


「あなた様は、このメゾンアニエス=VE-DAの東宮とうぐうになられるお方。帝御不在、そして艦白九条御息所様も現在体調を崩しておいでの今、このメゾンアニエス=ヴェーダは、東宮であられる宮様の御意志に従います」


 悠紀宗の言葉に従って、紫宸殿の殿上人全てが、「ははっ」と再び深々と頓首とんしゅした。


「そ、そんな事、と、突然言われたって……」


 戸惑いを見せるその緑扇宮に、綾が縋り付くように哀願する。


「お願いします! どうか賀星様をお救い下さいませ! 賀星様が法皇陛下を暗殺したというのは幕府が仕掛けた陰謀です! 後生ですから、賀星様を!」


「ど、どういう事ですか?」


 綾の両肩を掴んだ緑扇宮の表情が、一転して強ばる。


「左大臣 天時あまときの早紀宗さきむね、恐れながら申し上げます。宮様も御聞きになられた後幻蔵法皇陛下暗殺に関する幕府公式発表による、暗殺の首謀者坂本龍馬守賀星なる者の傀魅が此処におられる綾殿です」


「さ、坂本龍馬守賀星って、海賊メゾンとして世界各地の海に出没して、海上で非合法のファッションショーを開いてる、あの?」


 宮は更に、綾の記憶から引き出した情報を引き合いに出されながら、早紀宗からその暗殺事件の不審点を黙って聞く。それから即座に、


「僕からもお願いします! その人を救出して下さい! 本当の事を確かめるには、それしかないでしょう?! 殺されてしまったらおしまいです!」


 政界において、単独犯の犯行の裏に巨大な陰謀が存在した暗殺事件で、人口に最も広く膾炙されているのは、米国J・F・ケネディー大統領暗殺事件だろう。実際、連邦最高裁判所はCIA(国家中央情報局)が加担していた事を認め、西暦2039年に情報公開された全ての資料から、暗殺犯リー・ハーベィ・オズワルドは、屠られた子羊に過ぎなかった事が明らかになっている。

 国家安全保障上の問題という理由で、大部分は黒く塗り潰され、誰がどのように陰謀に加担していたかは明らかにはならなかった。


「それが宮様の御意志であるなら我々はそれに従いましょう。然るべき手段を講じ、早急に手を打ちます」 


 顎髭あごひげが床に着く程、悠紀宗が再び頓首とんしゅした。


「有り難うございます! 有り難うございます!」


 落涙らくるいし感謝する綾だが、宮の心にそれを素直に受け取れない決意が存在していた。


(もし、本当に、その賀星という人がお爺を殺したのなら、僕が、この手で……)


 悲愴ひそうなる決意で、拳と口元を堅く結んだ緑扇宮の頬に、むにゅっ、とした生暖かい感覚が。


「いやぁ! 流石さすがに将来このメゾンの帝になる坊やじゃないかぁ! この胸に埋めたくなるよぉ!」


 J・Jが、ベベルゥの顔を自分の爆乳ばくにゅうに、むぎゅっ、と押し付ける。


「ば、馬鹿者! み、宮様に何て事を!」


 あたふたと慌てて制止する悠紀宗の声も聞かずに、更に宮を押し付け、恍惚こうこつの表情を浮かべるJ・Jの爆乳の狭間爆乳で、呻きが漏れ、宮様手足バタバタ窒息寸前! 

 

 皆の大爆笑の中、緑扇宮ルゥ、


 J・Jの爆乳狭間に撃沈す……。




第28話 了

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