第24話 東宮坊



-斑鳩 東宮坊とうぐうぼう


 日本の大和朝廷とも比類される邪馬台国の女王、卑弥呼の苗字は東海姫とうかい とされる。

 古代の中国の周王朝の王の姓名。

 殷に倒された周王朝が、台湾から琉球を経て、米文化と共に日本へ渡ったとされる可能性を筆者は示唆する。東海林と書いて「しょうじ」と読む難読漢字がある。

 女王である天照大神を襲ったとされるのは、弟の素戔嗚尊だ。

 同居している姉を襲った弟の一族は、その後女装し、女に化ける手口で、酌をするようになったとも言う。

 日本武尊も、川上梟帥かわかみのたける熊襲くまそ(熊本県)へ女装して近づき、酌をする時に殺したとされる。

 オウム真理教の教祖 麻原彰晃(松本智津夫)の長男は、女装していたと云うが、目が悪い振りをしていた麻原は、妻の連れ子の悪口を言わない為、態と目が悪い振りをしていたのだろうか?

 麻原彰晃が生まれた場所は熊本県だった。

 その長男とされる人間は、まだ女装し、日本武尊が名付けたという下総(茨城県南西部、千葉県北東部)の守谷に居る……。

 姉を弟が襲う神話。

 その子孫が、先祖=天の罪を晴らす為の神話。歴史を神話で隠す。

 シーザーの愛人だったクレオパトラ 七世ななせいの旦那は、弟のプトレマイオス十三世だった。





 暖かい……。それにいい香りだ……。母さんの香り……?


 だけど、一体此処は何処なんだろう……?


 うっ! な、何だかい、息が苦しくなってきた! 


 く、苦しいっ!



「っ! ぷはッ!」


「あはっ! 宮様が起きたでわんにょほほほほっ!」御法みのりが部屋を駆けずり回り、 


 ベベルゥの上で馬乗り状態の戯の豊満ほうまんな乳がベベルゥの顔の前に垂れ下がり、


「よかったですわわわわわわわわぁぁぁぁぁぁぁ!」


 と歌い出すれんれん。 


「はぁ! はぁ! はぁ! はぁ! く、苦しかった!」


 と、ガバチョと起きたベベルゥ君は、目の前に垂れ下がっている大きな果実に気づき、茵辱いんじょく=布団から這い出したベベルゥは部屋の隅で、


「なななななな、な、なんですか! あなた達は一体!」と、大絶叫!


 沖縄石垣島から此処に連れて来られ、四日よっか前の紫京しきょうでの戦闘の時は、自分でも気づかぬ内にアマデウスに搭乗し、戦っている時も常に気を失っていたベベルゥ君、当然彼にとってはあじゃら達五更衣は初対面である。


「何ですか、は、ねぇだろう? 折角看病してやってたってのによぉ! つれないぜ?」


「よっく言うわにょ! あんたすぐ隣の部屋でグースカスカプラチンキと寝てたくせに!」


 看病……? じゃあ、この人達が? ベベルゥは彼女達の姿を観察して、思わず身を引く。彼女達の格好が尋常じんじょうではないのだ。あじゃらは原色調の単の胸をはだけ、90㎝Eカップの乳房を金色の水着の四分の三開きのトップで包み込んだ姿。御法は御法で、頭に兎の耳が付いたヘッドバンドを被り、ピョコタンガエル模様の十二 ひとえ。簾=歌と簾=能は、十二単のイケイケボディコンバージョン。驚かない方がおかしいというものだ。だが、


「気づかれたようですね」と、障子を女房に開けさせて入室してきた藤壺の美しさには、ベベルゥも思わず見とれた。高価そうな研出とぎだし 蒔絵まきえの盆にミルク がゆの入った溜塗椀を乗せて現れた傾城けいせいの美女。ベベルゥの紅潮する顔を見た戯達が、


「けっ!」


「ぷんぷんにょ!」


 と、嫉妬する。


 藤壺が女房を下がらせ、盆をベベルゥの枕元に置く。ほのかな色香がベベルゥの鼻孔《びこう」を擽る。


(いい香りだなぁ……。もしかして、この人が看病を……)


 芳香療法を受けたかのように、その香りで少し気が落ち着いたベベルゥは、部屋を見回してみる。天井の全面から降り注ぐ、太陽光と同じ連続スペクトルを持つ照明が、この三十畳程の和室を照らし出している。蛍光灯ではない。この太陽光に近い、旧世紀で言えば白熱電球という代物しろものの光は、暖色系であり、消化作用と自律神経を刺激、空腹感を催させる。が、不連続スペクトル特性を持つ蛍光灯の光にはその反対作用がある。因にダイエットしたい女性は、蛍光灯の下で生活すればいいという。

 蛍光灯は二十一世紀初頭にはその製造が中止されていたのだが、現在幕府は再製造し、あるメゾンの管轄地区には全て蛍光灯を使用させている。何故なら、蛍光灯使用の寝室で性的交渉が行われて産まれた子供の70%が女子、白熱電球光では70%が男子という統計結果が出ているからだ。(これ事実。)

 服飾や装飾で人口管理を図ろうとする幕府のやりそうな事だった。

 部屋の7割を占める壁の色は黄聚楽で、障子しょうじふすまの白と畳の若竹色、和室特有の色彩と用材の針葉樹材が、ストレス解消に効果を発揮。五更衣達の後宮は、部屋の基調色をオフ・ホワイトにすると内分泌を促して美人になるというので白漆喰の壁にしてあるが、大体斑鳩の居住空間の殆どが、こうした和室で構成されている。

 ベベルゥの後ろには、斑鳩の乗員から届けられた多くの見舞いの品が並んでいた。


「お花も届けられのだけれど、色々な香りが混ざると逆効果だから、隣のお部屋に生けてあります」


 と、藤壺はミルク粥を、ふー、ふー、と覚まし、ベベルゥの唇に運ぶ。気恥ずかしさからか、更に顔が紅潮、視線が彷徨い、藤壺の顔を正視出来ないベベルゥ。


「い、今、食欲ありませんか・・・

グゥゥゥゥルルゥゥゥキュキュゥゥゥ

   ・・・ら・・・・・・」


 照明効果もあろうが、丸四日間も眠り続けたベベルゥの腹は正直だった。藤壺を押しのけ、戯と御法、簾=能と簾=歌が、ベベルゥの回りでニコニコしながら、一口ずつ交代で、


「ほら! あ~んするんだよっ! あ~んって!」

「御法は口移しで食べさせてあげますにょぉっ!」

「次は私達の番ですわぁわぁわぁわぁぁぁぁっ!」


 などとやっていたのだが、仕舞いにゃ四つの匙がベベルゥの口の中に突っ込まれる始末。

 そんな光景を背後にして、藤壺が壁に埋め込まれた電脳の大型顕示器で、紫宸殿の前右大臣天時早紀宗と通信回線を開く。


〃宮様の具合はもう大丈夫のようですね〃


「はい。それで、九条様の方は如何でありましょうか」


〃宮様をお助けする為、アマデウスの強力な香電磁波に晒された揚げ句、丸四日間、寝ずに宮様に付き添われていたのですからね……。典薬頭 写楽斎の話では、香電磁波の影響はもうないという事ですから、後暫くもすれば回復されるでしょう〃


「それは良かった。で、斑鳩はこれから何処に向かわれるのです?」


〃現在下着メゾン麗奈暈レナウンとのランデヴー地点、薩摩に向かっています。斑鳩や六波羅の艤装の改修、それに蘭蛇帝の修理も行わねばならないですからね〃

 

 下着メゾンとは、勿論下着を取り扱うメゾンであるが、艦船や蘭蛇帝の内部構造の部品類をも扱っている所でもある。斑鳩は幕府から強奪ごうだつした六波羅の、『無香空間』を発生させる消臭イオン散布装置及び、カメレオン・ペイントの分析、また《斑鳩》の装甲をステルス装甲に改修しようとしていた。幕府の軍事衛星の監視網から脱する為にである。


「下着メゾンだってぇっ?」


 流石に、お洒落に敏感な女性というのは、聴覚も敏感なのか?

 戯達は、匙を突っ込まれ目ん玉クルクル状態のベベルゥの回りをスキップし始めた。


「よっしゃっ! 帝がお戻りになった時の為にとびきりセクシーな下着めっけてやるぜ!」

「あたしも! あたしもにゃん!」

「バッカ言え! てめえのペタンコナスの胸なんかブラつけなくてもいいんじゃねえか?」 


 戯は勝ち誇ったように胸を手で持ち上げて揺さぶると、


「ユッサユッサ、ミモリ~ィ、ユッサミモリ~ィ!」と簾=歌と簾=能が意味不明に歌い出す。


「いいもんにゃ! アタシこれ買うもん!」と、御法は懐からカタログを取り出した。


 開かれたカタログから飛び出す絵本よろしく、立体映像が虚空に像を結んだ。


「じゃじゃ~んにゃ! これぞ悩めるナイナイシックスティ~ンにとっての究ぅぅぅぅぅぅ極っのアイテム! 『スライムブラジャー』にゃん!」


 と、カタログを突き出す御法の片足がベベルゥの腹に乗せられる。

 説明しよう! 『スライムブラジャー』とは、カップに入った形状記憶スライムで出来たパットの部分が一肌で温められると肥大化し、「Aカップのあなたも、ほらEカップ!」という優れ物で、然も乳房全体を包み込むそのパットがまるで生き物のように蠢き、常に揉みしだく事で乳房を刺激。本当に巨乳にしちまおうぜぃ! というとてつもないブラジャーだった。

 因にこのブラジャーのCMに出演しているのは、『グミっ娘戦隊パイパジャマー』の主人公役の傀魅声優である。


「けっ! 何でこんな幼児体型の奴が、帝の前世の記憶に入ってたか全く不思議だぜ!」


 戯の片足がベベルゥの頭に乗せられる。

「言ったにゃぁ~ん!」


 出たぁ! 御法十八番の両手ブン回し攻撃ぃ! が、戯の胸から水着を掴み取ったぁ!

 藤壺は顔面痙攣、こめかみに癇癪筋をうねらせている。顕示器の中の早紀宗はこれから藤壺が戯達にどんなお仕置きをするのかと考えただけで恐怖を覚え、冷や汗を流している。だが、藤壺は、奄忽シリアス調な声色こわいろで、


「……宮様にどう説明すれば宜しいのでしょうか。紫京で起きた事、宮様自身の事を……」


〃今、稲節いなぶし殿を向かわせる。宮様が師事しておられたあの方に話して戴く方がいいだろう〃


「はい……。それが一番ですわね……」


 藤壺が目元に悲しみを漂わせ、ゆっくりと後ろのベベルゥの方に振り返ると……。

 戯は上半身裸で御法《みの兎耳を引っ張り、目ん玉クルクル気絶状態のベベルゥの回りを簾=能と簾=歌が歌いながら踊っているぅぅぅぅぅ!



 藤壺、ブッチィ~ン!



 この後戯と御法、簾=歌と簾=能達がこっぴどく叱られたのは言うまでもない・……。




第24話 了

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