第21話 人類美化計画



「い、いかん! J・J! 宮様を止めろっ!」


 だがアマデウスは130隻を数える幕府艦隊の中に一機で突っ込んでいく。アマデウスは、先程優雅さを競い合っていた各藩の蘭蛇帝を、ことごとく撃墜しながら、残虐なまでに幕府艦隊に攻撃を加えていった。艦橋に腕をぶち込み、掌から爆炎を放射。船底の真下に潜り込むと、刀を船底に突き刺し、魚の腹を切り裂くようにして刀を走らせた。その動きは尋常ではなかった。

 合計83隻もの艦船を沈め、迎撃に出た300機以上の蘭蛇帝を撃墜したのだ。

 その光景を見る紫京の志士達や、共和国軍兵士は狂喜乱舞した。

 そして終にアマデウスが、舞鶴-弐の丸-に迫る!

 各藩の藩主や重臣達が逃げ惑う中、一機の蘭蛇帝がカタパルトデッキに姿を現した。

 他の蘭蛇帝より一回り巨大で、華麗な金装飾を施されていっそ荘厳と言うべき漆黒の蘭蛇帝。エアロダイナミクスを全く無視したSFロボットは基本的にステルス機能を持っているが、ゴツゴツした感が一切ないその流線形のフォルムは、まるでスーパーモデル級の女性のそれだった。

 鷹宮家伊勢守専用蘭蛇帝マーダロン。そしてそのマーダロンの一次冷却水で満たされた子宮の中に、全身に管を付けられた全裸状態の主美怒の四人、紫羅、珠輝、瀬那羽、亜慶奈が浮遊している。


「流石はオリジナルのグミの力。傀魅とは比べものにならんという事か。ならば、私自らが試してやろう!」


 伊勢守の蘭蛇帝マーダロンがカタパルトから射出された。マーダロンはそのままアマデウスに体当たりしながら、抜刀して左袈裟に斬り下ろす。アマデウスは弾き飛ばされ、バイカル湖に落下したが、直ぐにバーニアを噴射して宙に躍り上がる。その時既に、マーダロンに受けた傷は癒着していた。自己再生能力があるようにである。


「ほう! では、これならどうだっ!」


 マーダロンは神速の斬撃波を矢継ぎ早に撃ち込む。その洗礼を仁王立ちのようになって受けたアマデウスは、自己再生能力を使って全ての装甲の傷を癒着ゆちゃくさせた。


「素晴らしい! 千五百年前、琉球沖のムー帝国海底神殿で発見されたオリジナルの形状記憶スライム、グミ! これがあれば、『人類美化計画』は成ったも同然だよ!」


 伊勢守の哄笑がコクピット内に響き渡る。と、その刹那! アマデウスのコクピットから刀が突き出た! 背後から突き刺されたのだ! 誰にっ?! 


「ふぇへへへへへっっっ! こ、この俺様を、よ、よくもびびらせやがってよぉぉぉっ!」


 実闇の搭乗する蘭蛇帝デムスである。

 実闇は刀をぐりぐりと回転させ、


下卑げび哄笑こうしょうを轟かせながら、刀を股間まで斬り下げた。


「み、宮様あぁぁぁあぁぁぁぁぁっっっ!」


 斑鳩の全ての者の悲痛なる絶叫の中、完全に動きが停止したアマデウスが、バイカル湖へと真っ逆さまに墜落、沈降していった。  


 深度10m・・・・・15・・・・・20・・・・・25・・・・・30・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。


(ああ・・・・・・。何だか気持ちいい・・・・・・・。此処は何処だろう・・・・・・・)


 アマデウスは、尚もバイカル湖の最深部へと沈降していく・・・・・・・・。 


(僕の体が沈んでいくのが見える・・・・・・)


 アマデウスの透けた装甲の中の自分の体を、臨死体験で自分の体を上から見下ろしている様に、ベベルゥは見ていた。


(僕は、僕は、死んだ、のか・・・・・・?)


(ごめんよ愛蘭・・・・・・。君の為にデザインしたマリエ、破っちゃったよ・・・・・・・・)


 ベベルゥの意識は沈み行く肉体とは反対にまるで天から差し込む光りに誘われるように上に昇ろうとした時である。

  

 チュチュッ・・・・・。チュチュチュッ・・・・・・・・。チュチュチュッ・・・・・・・・・・・。


 あの時、夢の中でベベルゥを呼んだ音だ。まるで、心臓の鼓動のような律動が、母親の子宮マトリスの中で聞いているであろう律動が、ベベルゥの魂の隙間を埋め、安寧あんねいを感じさせた。

 その時深い鉄紺てっこん色の奥底に、光り輝く点が乱舞する。その点が次第に大きくなっていく。踊りながらその光は上昇し、ベベルゥの魂に纏わり付いた。まるで、遊んで、遊んで、とせがんでいる駄々っ子のように・・・・・・。



(でも、Bye-bye・・・・・・)    



 と、その瞬間だった! ベベルゥの体とその光が重なる。そして・・・・・・・・・・・。


 突如バイカル湖から目映いばかりの幾千束もの光の束が夜空に放射された。光の 交響曲シンフォニー。天を突き刺す光の束は、はすつぼみが開花するように外側に開きながら回転をしていく。


「な、何だこの光はっ!?」


 伊勢守の顔が驚愕に歪む。


「ま、まさか・・・・・・、そんな馬鹿なっ!  ひいいぃいぃぃぃぃいぃぃぃぃぃっっっっ!」


 首を振り、錯乱状態となった実闇や、真木、紫乃武、宇堂。J・J達や、愁嘆場しゅうたんばとなった斑鳩紫宸殿の九条達の前で、その光の花弁の中から極彩色の色を纏いながら現れた蘭蛇帝アマデウス。

 だが、明らかにその姿は以前のアマデウスのものではなかった。極光のように光が波形の襞を造り、アマデウスが光の衣装を纏っているように見える。その機体のフォルム

 アマデウスは全ての視線が集中する中、太陽が日の出するように中空に上昇していくと、十六夜の月光を奪って、半径十数㎞周囲を光の支配化に置いた。

 そしてその口腔こうこうから、紡ぐように流れ出たのは、意味不明の言葉であった。


 アー・・・・・・ムー・・・・・・ラー・・・・・・。




第21話 了

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