第18話 ミルクに混ぜられた分離体…のスペル
「『薔薇十字のマリア』散布濃度11,400ppm。香電磁フィールド展開します」
それが、彼女の全身を深紅に染め続ける。そして、その赤い涙が次第に揮発して、その香分子が周囲に甘い芳香を漂わせ、香電磁フィールドを形成する。
(この薔薇の香り、それをあなたに捧げよう。九条御息所……)
戦艦斑鳩の格納庫甲板に轟き亙る非常警報。その後、インターコムから流れる菊乃少納言の絶叫。
〃九条様!! 紫京上空幕府艦隊が現れました! 直ちに紫宸殿にお戻りになって下さい!〃
「んな馬鹿なっ! ば、幕府艦隊ぢゃと?! そ、そんな訳がない! 我ら創香寮の者がこの百万種類の匂いを嗅ぎ分ける鼻で四六時中世界中の香電磁反応を監視する中、その監視網をかい潜ってニューヨークから紫京に移動出来る筈がなかろう!」
鼻をピクピクさせながら舌論火を吐く沈香の論理は正論だった。決して沈香は遁辞をもうけている訳ではない。確かに、創香師の鼻に引っ掛からずに、何せ全長数㎞もある空飛ぶ戦艦の大群が移動出来る訳がないのだ。
しかし、九条が冷静な舌尖で、一家言を吐いた。
「『無香空間システム』だ」
一同の顔が一瞬凍りついた。
完璧なステルス装甲に、完璧に視認不能にするカメレオン塗料が塗装され、『
「―幕府軍は正に『透明艦隊』になって、人知れず紫京に侵攻したと 」
「違うな、早紀宗……」
「父上?」
「ニューヨーク上空に展開していた幕府艦隊の数は、ここ数日全く変化はなかった。その数日前には何があった? 参勤交代でニューヨークに滞在していた各藩の艦隊が、国元に戻り始めたじゃろう? 恐らくそれに乗じて艦隊を動かし、あらゆる探知網に引っ掛かる事なく紫京に本陣を置いていた。始めからいたんじゃよ。倒幕派が院上の院宣をもって挙兵しようとしていた時、それを見下ろしていたという事じゃ」
「そ、そんなっ!」
「しかしそれが事実なのだ。そして、我々は此処におびき出されてしまったという事もな」
「おびきだされただと!」と、J・Jが叫ぶ。
「この蘭蛇帝は囮。我々は香電磁監視システムの盲点をつかれたのだ」
「しかし、一体誰が我々をおびき出したんだよ!」
詰め寄るJ・Jに、九条は答える。
「誰かだと? 決まっている。こんな姑息な手練手管を使う奴は-」
九条がその名を言い掛けたその時だ! 突如斑鳩の艦体を激震が襲う!
「な、何だっ! 何が起こったっ?!」
チュチュチュ……。
チュチュチュ……
「う……、うっ……!」
その衝撃が、斑鳩紫宸殿の後部、仮の
「誰だ?! 誰が僕を呼んでるんだ!」
ベベルゥは、真っ白い霧に包まれる中、そう絶叫する。
女の甘い囁きが、香りを伴って、ベベルゥの魂を揺さぶる。夢の中で、目をトロンとさせたベベルゥが、ゆっくりと頷く。と、実際にゆっくりとベベルゥの体が起き上がった。
変様態。
おどろしい変様態は遺伝子変える。
遺伝子を変え、声を変え、非自己と自己を、キマイラ遺伝子=寄生体として侵入するRNAは、元た誰かが生体内で作ったRNA。
DNAとして複製しないRNAは、誰かの体内生成物だった。
それを相手に侵入させるような悪魔が寄生癌として、誰かを同化させようとしていた事が暴かれ、その存在は骨まで焼き尽くされた。
寄生体ヒルコとして万能化細胞化した存在は、試験管から試験管へ移り、牛の牛乳と共に女性へ侵入した後、変異体を増殖させ続けた。
その狂った牛と化した変異体は女性を操る事で、サタンとなっていた。
シルクで出来た下着は静電気を帯電させ、その女性の乳癌を誘発させたとの研究結果は闇で潰された。
クレオパトラは自分の胸に毒蛇を噛ませた後で絶命。
オシリスとセトと言う同性愛者は、オシリスの息子ホルスを襲う為に自分の精子を野菜のレタスに
狂った牝牛の原因を特定。その品質検査で見破った特定遺伝子の種が特定された時、その変異体の主は徹底的に駆逐された筈だった。
万能細胞を医学で研究した存在と、異端の性魔術の惚れ薬のような魔道、外道の実験をした外道の宗教……。
自分の体液を混ぜ、相手を洗脳しようとする外道の存在の性魔術……。
艦体が揺れ、ベベルゥの体が
「六波羅、斑鳩と合体しました! 斑鳩の全管制系統を『探題』モードに移行!」
幕府艦隊本陣、舞鶴-弐の丸-の天守閣最上部にある司令部艦橋で、幕府側用人鷹
宮家伊勢守は、己が専属魔奴宦主美怒を
そう、斑鳩の両舷の虚空から、
「さて、斑鳩は籠に入った。九条、その籠の中でおとなしくしているがいい。今、お前達が必死で探していたお方に再会わせてやろう……」
第18話 了
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