第16話 バイカル湖に沈底するモノ……
二三三0Z(グリニッジ標準時)、予定通りの地点で千早は斑鳩に合流する。
九条は、まだ気を失ったままのベベルゥを稲節に任せると、
「紫京で戦闘が始まったというのかっ 」
「地球規模で発せられた妨害電波で、法皇様暗殺以後のTV中継が途切れ、情報が錯綜していますが、法皇様暗殺に新撰組が関与していた模様! 法皇様暗殺を切っ掛けに、プレタポルテ共和国軍・在京長州軍と新撰組が交戦状態に入っています!
「な、何という事だ……」
九条は愕然とした。
「それで、幕府の動きは 」
「はっ! 幕府超弩級戦艦
そう。通信衛星回線、電脳網絡回線全てが寸断された上、妨害電波の発射で、法皇暗殺 以後の紫京からの中継は世界に届いていなかった。当然、各藩に決起を促した、幕府への宣戦布告会見もである。諸藩が動かぬのは当然だった。
だが、その報告を受けた九条は疑念を覚える。プレタポルテ自治共和国に倒幕派の志士達が集結し、後幻蔵法皇の倒幕の大号令をもって挙兵しようとしていた事は、TV中継が途切れる前で既に明白。直ちに征伐軍を派遣する為の勅許を得る為の
(ま、まさか……! 帝がこの艦におられないという事を知っているのかっ )
そしてその時、紫宸殿上部『星見庭園』に更紗と共に索敵していた創香頭沈香が、
〃九条様! 帝専用蘭蛇帝ヴァロアの香電磁反応、北緯54度・東経110度の地点に現れた!〃
「何?! 帝の蘭蛇帝ヴァロアの香電磁反応を、バイカル湖付近に捕捉した?!」
〃ですぢゃ!〃
「九条様! 帝は法皇様をお探しに行かれたのです! その法皇様が紫京で倒幕の号令を発しようとされた! 帝がそれを知り、ヴァロアを何処かに隠し、紫京に向かったのは確実! 帝は紫京におられるに違いありますまい! 一刻も早く帝をお救いしなければなりませぬ!」
その前右大臣天時悠紀宗の言葉に、九条は頷くと、
「『内裏』区画以下の国民居住区画閉鎖! 右近衛・左近衛、各蘭蛇帝は搭乗したままで待機! 斑鳩最大戦速! 進路1-2-1!」
紫京でのプレタポルテ自治共和国軍・在京長州軍の連合軍対新撰組の戦闘は、連合軍の圧倒的な数的有利にも関わらず、戦況は新撰組有利に傾いていた。紫乃武の一番隊と也静の二番隊、宇堂の三番隊、の活躍によるものだ。彼らは歴戦の
皇城ラ・
壬生は紫京の防備の手薄な南側から回り込み、現在バイカル湖上空にいる。新撰組五番隊と六番隊はその壬生の防衛に当たり、四番隊は当然戦闘に参加していなかった。帰還した実闇は、潜入した四番隊の部下は銃撃戦で死亡した、と真木に報告すると、 一人娯楽室で撞球に興じていた。備え付けのモニターには戦闘の様子が克明に映し出されている。既に戦闘開始から四時間が経過し、現地時刻は18時を回っている。真っ赤な夕日が、西の空を血の色に染め上げていた。
「精々張り切るんだな。
だが、これで新撰組は、ジ・エンド、だっ!」
実闇の打った自球が
「落ちろ」
三番が落ちた。
「落ちろ」
二番が落ちた。
「落ちろ」
最後に、ゆっくりと一番が落ちていく。そして……。
「時間だ」
実闇のキモチワルイ、ほくそ笑みが……。
闇夜に
白いモノ……。
ブキミと言えるその哄笑が、
静かにワラウ……。
異様に曲がるオブジェのような……。
実闇の顔が清くもなく、
悪魔の形相を隠し、
彼が男の姿をしていたのを見た最後のモノは、その後で
昔の実闇を知る者を消している事を。
知る者がいない。
彼は自分の姉が死んだと聞かされた時のほくそ笑みと同じような、
そのうすら笑いを浮かべ……。
ゲスをオペしたモノサエ
キエタ……。
第16話 了
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