第15話 御洒落御免都市
「僕を騙し続けてきたんだな!」
ベベルゥの目から涙が溢れ出してくる。
「止めて下さい宮様! 決して宮様を騙してきた訳では-」と、皆を
「皆知ってたんだろ! 僕が必死になってお爺を探していた時、皆お爺が何処にいるのか知ってて隠してたんだろっ! セーラー服御庭番?! ゲンゾウお爺が法皇様?! 僕が春宮だって?! 何だよそりゃ! 僕は、緑扇ルゥ! ただの高校生だ! 服のデザインだって好きでやってたんじゃない! お爺を探す為、自分で食べていく為に仕方なくやってたんだ! 倒幕がどうとかこうとか、そんな事、僕には関係ないんだ!」
「……言いたい事はそれだけか」
九条がベベルゥの前に歩み出た。
「何だよ、あんたは!」
「『御洒落御免都市』で呑気に暮らす人間の言いそうな事だ。だが、全世界の殆どの女性は、幕府により美的レベルを
九条の言葉をベベルゥが遮る。
「……何が倒幕だ。だったらなんで、あんたらの帝は倒幕の為に挙兵しないんだ! あんたらの帝がぐずぐずしてるから、お爺が死んじまったんだぞぉ!」
「!」
その時、ギャッツビーのレシーバーに、上空待機のJ・Jからの緊急通信が入る。
〃ギャッツビー! まだか?! 斑鳩から通信が入った! 紫京で戦闘が始まったらしい! 早くしろ!〃
「了解した」と言うなり、ギャッツビーの手刀がベベルゥの首筋に叩き込まれた。気を失い倒れるベベルゥを支えたギャッツビーは、「申し訳ござるませぬ」と呟き、頭を垂れる。
「……すまぬ、ギャッツビー……」
九条はそう言う。
「稲節殿。あなたも
確かに今の宮様の精神状態を考えると、稲節が側に居た方が良い。稲節はそれを承諾すると、
「愛蘭、お前はどうする」と、孫娘の顔を見つめた。
「……私は、セーラー服御庭番としての仕事があります」
「本当にいいのじゃな……。わしと、そして宮様とも二度と会えぬかもしれんぞ」
愛蘭は
ふと
壊れた写真立ての中で、確かに二人は笑っていたのだ。
その写真立ての側に千切れたバースディカード。それを繋ぎ合わせた愛蘭の目に涙が浮かぶ。『お誕生日、おめでとう!』
(あたしの誕生日か……。忘れてたな……)
愛蘭は、純白のマリエを胸に抱き、声を上げて泣いた。
ベベルゥを乗せて発進した千早の轟音が、その部屋の窓を震わせる。音の渦が悲しさを呑み込むように、愛蘭の叫びを消し去っていた……。
バイカル湖の南東。ヤブノロイ山脈の山中……。
昨夜、燐光に包まれ青白い尾を引く彗星のような飛行物体が、大音響と共に突如自ら爆発し、山脈の中腹に広がる針葉樹林の中に堕ちていくのが、人々に目撃されていた。麓の村から村人達が半日以上かけてその現場に到着し、その異様さに我が目を疑った。
「おい、何だあれはっ?!」
周囲の樹林はなぎ倒され、幅百m、全長一㎞に亙って露出した山肌の先に、横たわって いるその物体。それは遠目には、龍としか呼べないような形態であった。生物なのか、それとも違うものなのか。
村人達が恐る恐る近づいていったその時。全く動かなかったその青龍の双眸に妖しい赤光が灯るや否や、その首を持ち上げたのだ。そして、断末魔の、怪鳥のような咆哮を辺りに轟かせる。その時、村人達は恐怖に脅えるその目で、青龍の大きく開かれた口腔から薄い
そしてまるで桃源郷に誘うような、甘い、官能の香りが彼らの鼻孔を擽ったかと思うと、村人達の
二三三0Z(グリニッジ標準時)、予定通りの地点で、千早は斑鳩に合流する。 九条は、まだ気を失ったままのベベルゥを稲節に任せると、紫宸殿に上った。
「紫京で戦闘が始まったというのかっ 」
「地球規模で発せられた妨害電波で、法皇様暗殺以後のTV中継が途切れ、情報が錯綜していますが、法皇様暗殺に新撰組が関与していた模様! 法皇様暗殺を切っ掛けに、プレタポルテ共和国軍・在京長州軍と新撰組が交戦状態に入っています!」
「な、何という事だ・・・」
九条は愕然とした。
「それで、幕府の動きは 」
第15話 了
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます