第13話 宣戦布告……
-紫京ー
斑鳩が沖縄石垣島に向かっているその頃、紫京では大統領命でステージに医師団が駆けつけたが、法皇は即死状態で手の施しようがなく、
大統領は直ちに暗殺犯の捜索を警察及び機動隊に命令した。そしてその大統領の下に、大郷と葵を始とする薩長の志士達が集まってきた、その時だ。
皇城ラ・紫苑の拡声器から非常警報が鳴り響く。
「何事だっ?!」
「はっ、閣下! 第3PUSUS(香電磁監視システム)ラインから戦艦が侵入しました!」
大統領主席補佐官が、統合参謀本部からの報告を大統領に伝える。
「戦艦だとっ?! 何処の戦艦だと言うのだ!」
大統領補佐官が大統領の耳元に口を寄せる。
新撰組っ!
大統領の顔が一瞬にして蒼白になった。
「新撰組! や、奴らが来た!」
葵の震えるような口調には明かに脅えがあった。皆の顔にも同様に驚愕の表情が浮かぶ。
と、その時だ。戦艦壬生からは外部音声で副長真木の声が辺り一帯に響き渡った。
〃我らは新撰組! 御用改めである! これより一切の軍事行動を禁止する! 我らに抵抗する者は、倒幕の志士と見做し、征伐の対象となる!
「お迎え御苦労、副長さんよぉ」
スコープで、紫京の西10㎞の山上に壬生を確認した深月は、用意していた飛行用バックパックを一人、徐に背中に背負った。
彼の側には、自分が射殺した隊士達の骸。その側にはレーザーライフル……。
「悪く思うなよ。これが伊勢守様のシナリオなのでな。な~に、いずれ副長殿やその他大勢のお仲間がそっちに行くだろうから、それまでの辛抱だぜ」
実闇はそう言い残すと、背負った飛行用バックパックのバーニアを噴射させ、宙に飛翔する。
暗殺犯捜索隊の銃撃をかい潜り、実闇は捜索隊をあざ笑うかのように彼らの頭上を飛び回ると、高らかな
「副長! 実闇様です! 方位3-2-4拡大望遠します!」
壬生の司令部艦橋のモニターに拡大された実闇の姿を確認した真木は、一機の蘭蛇帝を発進させ、深月を回収させる。
「何だと?! では
暗殺犯らしき不審人物が壬生に収容されたという情報及び、迅速な捜査で特定された暗殺犯の狙撃場所において、数体の遺体と狙撃に使用したと思われる銃器を発見、回収したという情報が、直ちに大統領へと伝令された。
後幻蔵法皇暗殺に新撰組が関与している! それは倒幕の大義名分としては十分過ぎる事実である。法皇暗殺への怒りが、ステージ下に集まった志士達の心に火を付ける!
「おのれ、新撰組ぃ!」
「幕府の犬め! 法皇様を暗殺するとは愚劣な奴ら!」
それを受けた葵が、
「今まで奴らに殺された、無念の魂が嘆き叫ぶ! 奴らの首を差し出せと! 閣下! 倒幕の院宣は戴けなくとも、幕府が新撰組に法皇陛下を暗殺させた事はこれで明白! 今こそ新撰組を叩き潰す時! TV中継を通して、幕府が新撰組を使って院上を暗殺した事を発表し、手筈通り挙兵致しましょう! 我らが挙兵すれば、必ず各藩は倒幕に動きます! 大義名分は我らにあるのです! 閣下!」
「うむ!」
そう言ったが、大郷は慌てて大統領に葵と違う意見を進言する。
「待っちゃんせ! そいはまずかど! そいは逆でごあんど! 今此処で新撰組と正面切って事を構えれば、幕府軍に出兵する大義名分を与える事になりもんす!」
「薩摩の腰抜けが! 臆病風に吹かれたか!」と、葵の背後の長州藩士が慢罵すると、
「何ば言うかぁッ!」と、薩摩藩士が顔を紅潮させ
「曾て日本で徳川幕府を倒す為に締結された薩長同盟に習おうとして、同盟を締結しようとした事が間違いだった! 側用人鷹宮家伊勢守の懐には薩摩芋が入っていて、その匂いがプンプンしているという噂は嘘ではなかったようだな! 漸く薩摩の真意読めたぞ!
現在帝位についておられる帝の事を今上と書いて今上天皇と申し上げる。決して金城と書くきんじょうと言う読み方ではない、今上の字を書くのだ。
藩士を引き連れ駆け出す、その葵達長州藩士の背中に叫ぶ大郷。大統領以下、軍将校達も、大統領府たる皇城ラ・紫苑地下の統合参謀本部へと向かった。
「待っちゃんせ! 閣下! 葵殿!」
逃げ惑う観客達は、軍人達により地下シェルターへと誘導されていく中、ステージ上に一人残った大郷は、これから自分が取る行動への決意を固めるように、拳を強く握り、仁王立ちで、空を見上げていた。
大統領は大統領権限を発動させ、蘭蛇帝部隊を中核とする空軍に緊急発進を命じると同時に、大統領は事の全てを全世界に向けて発信する為に会見を開いていた。その内容とは、
幕府に対する宣戦布告!
第13話 了
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