第11話 紫京動乱
「
「はっ!」
紫京西方のアンガラ湖で、通信用のフロートアンテナを伸ばし、
〃一番隊、二番、三番隊は
真木の命令が、蘭蛇帝格納庫甲板で艙口の開いた蘭蛇帝のコクピットシートに座っている紫乃武、也静、宇堂達の耳朶を打つ。彼らは真剣な表情、無言のまま、額に鉢金を巻く。戦いは聖戦、彼らにとっては誠を掲げる戦い、誠戦なのだ。当然彼らは今回の戦闘に正義があると信じている。
「では?」と、百畳程の大広間で、宇堂が一膝ぐっと繰り出す。
「今回の作戦目的は、十五年前倒幕派浪士らによって拉致された後幻蔵法皇陛下、院上を救出する事にある」
上座に正座し、総勢78名の隊士達を前にした真木から、今まで明かされていなかった作戦概要を聞いて、隊士達がどよめく。だが、実闇だけは腕組みをし、鼻で笑う。
「浪士共は拉致した院上に倒幕の院宣を出す事を強制し、その院宣をもって紫京で倒幕の挙兵を企てている。我々は二番隊を法皇陛下救出部隊として潜入させ、法皇陛下の御身を確保し次第、紫京に突入し、天下に擾乱を起こさんとする倒幕派志士、これを殲滅する!」
だが真木の口から、新撰組が追跡していた青い蘭蛇帝については一言も語られる事はなかった。しかし……。
「なるほど。副長は言わなかったが、これで何故プレタポルテに奴を追い込もうとしていたかわかったな」
蘭蛇帝同士の私用通信回線で、也静が宇堂に話しかけた。
〃どういう事だ?〃
「プレタポルテは、後幻蔵法皇陛下御自身が、譲位する以前に幕府の治外においたまさにファッションの聖地だ。当然その綸旨は今でも有効。つまり幕府は一切の政治・軍事的干渉を行えぬ場所なのだ。しかし-」
「今上帝による
紫乃武がその通信に割って入った。
也静 〃うむ。恐らく全ては伊勢守様の考えた計略だな〃
宇堂 〃せこい真似をする男だ。どうもあのような奸智に長けた男は好きになれん!〃
「しかし、まだ疑問は残りますよ。これ、見て下さい」
紫乃武がコンソールパネルを操作すると、宇堂と也静のコクピット内のモニターにデータが映し出された。
「これは、これまでのカイエンの行動を分析した結果です。こちらの攻撃に対しての、反撃・回避・防御等のカイエンの反応速度の数字ですが、おかしいとは思いませんか?」
「っ! 測ったように、反応速度が同じ」
「そうです宇堂さん。認知・判断・操作という一連のプロセスの完了する速度が、誤差0.032秒なんて、人間が操縦してればこんな事はありませんよ。然もカイエンの反応速度は常人の2.5倍なんです」
「……という事は、あの青い蘭蛇帝に乗っているのは」
也静がそう言い掛けた時だ。蘭蛇帝格納庫甲板に警報が鳴り響く。
司令部艦橋の真木は立ち上がり、前面モニターに映し出された光景に瞠目した。
「何っ? こ、これはっ!」
そこに映し出されたのは紫京でのファッションショーのTV中継。倒幕派は、倒幕の
「実闇からの通信はまだなのかっ!」
-紫京-
「実闇様。間違いありません。後幻蔵法皇陛下です」
市民の殆どがコレクション会場に向かい、もぬけの殻となった高層ビルの屋上で、浪士の風体をした二番隊隊士が高性能スコープを覗いている。実闇を含め、六人の隊士達。
「早くしなければ倒幕の院宣が出されてしまいます!」
「ああ、わかってる」と言って、実闇は懐に手を入れた。そして、
「っ! み、実闇様?!」
隊士の一人が言い終わるが早いか、実闇は懐から取り出した自動拳銃でスコープを覗いていた隊士の頭蓋を撃ち抜いた。
「ヒッ!」
実闇は、逃げ出そうとする隊士一人一人を、次々に射殺する。
「……み、実闇…さ…ま……」
震える手を差し伸べようとするその隊士のもとに片膝をついた深月は、その隊士の頭を撫で撫でしながら、
「心配するなぁ。倒幕の院宣など出させはせんよ。
だから、あ~んしんして眠りな……」
第11話 了
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