第7話 愛蘭とルルド
ベベルゥがぶっきらぼうに、その金髪美少女に答える。
「ああ~んっ? 『何か用かい?』じゃないわよっ! 学校サボタージュして何やってるかと思えば、自分の部屋全然見ないで、人の
愛蘭が
時代錯誤も甚だしい型紙やら布切れ等が散乱していて、足の踏み場もない状態だ。
「家中ひっちゃかめっちゃかで! 何よこの有り様は」
鬼の角と牙を出すかのような
「ま、まさか、俺の部屋に入ったのか?」と、慌てて叫ぶ。
「入らないわよ! どうせ変なものが一杯置いてあるんでしょ!」
そう言って、部屋の中央まで歩を進め、ゴミを片付け始める愛蘭を見ながら、ホッとして
「ねぇ、お
私の御先祖は源平合戦に敗れ、石垣島に流れ着いた平家の落人だったというのが口癖の、
平家の落人伝説は石垣島だけでなく、竹島、
いくら沖縄、特に一番最初に高度情報インフラのモデル地区となったこの石垣島でハイテク化が進もうと、人の温もりが感じられぬサイバネット・ドールなんぞは御免蒙るってもんだ。
ラブドールが人肌を持つかどうか。
「ああ、今休暇取って与那国に帰ってるんだ。だからさ、それより何なんだよ」
「相変わらずノンキーね!」と、電脳の
「御覧遊ばせ! アメリカ・フロリダの社長夫人のドレス、アフリカのブッシュマンの腰巻き、イヌイットの毛皮にetc! 計150件! あんたにデザインして欲しいっていう依頼よ!」
「へぇ、イヌイットからも? 彼らの白に関する色彩感覚は鋭いから、難しそうだなぁ……」
「依頼者から何時迄経っても返事がないっていう
顕示器をペチペチ叩き、耳元でがなる愛蘭。
「っ!」
突然ガタッと立ち上がり、窓に向かったベベルゥが、瞼を閉じ耳を欹てた。
「何? ちょっとどうしたのよ 」
「……時々聞こえるんだ……」
「何が?」
「アー……ムー……ラー……って……。海の底の方から、悲しい声で、聞こえるんだ……」
「どれ……。ふ~ん、私には聞こえないわよ。アムラー……か。何だか千五百年以上前のファッションスタイルみたいな名前ね」
ソファーに座り膝に抱いた虎太郎の頭を撫で撫でしながら愛蘭がそう言うと、ベベルゥは目を開け、プライベートビーチの遥か向こう、石垣島新港に入港している船を眺望した。
灑音流三番艦ヴァンブーである。
「灑音流の軍艦か……。お爺がいなくなった日と同じだ……」
あの時も、同じようにその声を聞いた、とは、ベベルゥは言葉を続けなかった。
漆黒の船体には遠目にも判別出来る程明確と、白抜きで灑音流の徽章が輝いている。
それ以後の事だ。ベベルゥが自分のデザインした服を国際電脳網絡で発表し続けたのは。もし幻蔵が何処かで生存しているなら、必ずモードに携わっているに違いない。必ず自分のデザインした服を見てくれているに違いない! 手掛かりを得る為にファッション・モード関連のあらゆる部屋にネット・サーフィンもする。必ず幻蔵は生きている!
ベベルゥはそれを信じていた。
「……ごめん、ベベルゥ。さっきは少し言い過ぎたね……」
それを知り電脳模特として協力している愛蘭が、そう妄言多謝する。愛蘭は重苦しい空気が流れるのを嫌って、
「そ、そうだ! お爺ちゃんが今日の稽古は休みだって言ってたわ。だから、これから
皆誘って灑音流の船に行かない? 一カ月後には私達のブランドベベルゥ=モードのコレクション開くんでしょ。ショーの最後にあたしが着るマリエ(ウェディングドレス)のデザインの参考になるかもしれないしさ。マリエのデザインまだだったんでしょ?」
「ん? あ、ああ……」
ベベルゥがそう言葉を濁したその時だ。
突然顕示器がレッドアウトし、警告音が鳴り響く。通常これは、地震や台風、津波等の災害を知らせる為に強制的に電脳に介入するシステムのものだが、次の瞬間顕示器に魔法陣のようなものが映し出された。ベベと愛蘭は、一緒に顕示器を覗き込む。
「っ……! 幻蔵の徽章?」
メゾン幻蔵。十五年前、
人々の歓喜! だが、それは
古来日本の武家政治の方式の採用。即ち、デザイナーを帝とするメゾンという国家内で、聖衣大将軍をトップとする軍部が軍事クーデターにより帝から政権を奪取するのではなく、武力を楯に政権の
これにより、全世界を飛び回る幕府艦隊の武力によるファッション・モード支配が始まった。 その元凶ともなったメゾン幻蔵の
第7話 了
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます