心に傷を残して

@yuipon

第一話 最高の親友と捨て猫幼馴染

昨日まで雪が降っていたが、少し積もっているのが見えるだけで、今日は雲ひとつない晴れた青空が広がっている。

豊島黒は見慣れた変わりのない通学路を歩いていた。

いや、ひとつだけ変わっていることがある。

同じように登校している生徒のテンションが高いところだ。

それも無理もない。なぜなら今日は12月23日・・・登校最終日で明日からは冬休みなのだから。

「やあ、黒」

後ろを振り向くと、俺と同じ制服を着た男がいた。

スタイルがよく、顔も全体的に引き締まっている。たまに見せる笑顔が多くの女子を魅了してるんだとか。

彼の名前は駒井雄吾。俺の親友だ。

よく女子から告白されるらしいが全て断っているらしい。

彼曰く、今は恋愛には興味がないだとか。

「朝から、お前の爽やかな顔を見てると、平等主義じゃない神様に不満を言いたくなるよ」

そう言い返してやると、雄吾は苦笑いしながら俺の隣にやってきた。

「今日は珍しく狩野さんといっしょじゃないんだね」

「あいつならそろそろ来るんじゃないか?」

後ろを見ると案の定、走ってくる女の子の姿が見える。

「雄吾くんに...黒も...おはよう」

ぜーぜー息を切らしながら挨拶をしてきた彼女の名前は狩野紅葉。

肩まで伸ばした髪は茶色がかっていて、胸は控えめ。

小柄で、一つ一つの動作が小動物みたいで可愛いため、守ってあげたくなるような印象を受ける。

男子が秘密裏に行った女子ランキングでは3位に入っていた。

俺の小学校からの幼馴染みである。

家も隣なため、朝いっしょに登校するし、仲もいいと思ってる。

「遅かったから先に言ってたぞ紅葉」

「狩野さんが朝遅れるなんて珍しいね。何かあったのかい?」

「もう冬休みだと思って、二度寝しちゃってね〜」

学校に登校するときは基本この3人でいることが多い。

学校でやることや最近やってるニュースの話など、他愛のない話をしながら学校に行く。俺はこの時間が好きだ。2人もそう感じてるのではないだろうか。

「にやついてるけど、なんかいいことでもあったの、黒?」

自然に顔に出ていてしまったらしい。

どう言おうか考えていると、

紅葉に頬をつつかれた。

なにそれ恥ずかしい。

幼馴染みだからって距離が近すぎないか。

恥ずかしい思いをさせられたお返しに少しからかってやることにした。

「紅葉が可愛いなあって考えてた」

「な...」

紅葉は顔を赤らめて黙り込んでしまった。

仕掛けた俺まで恥ずかしくなってくる。

雄吾なんて今日1番ニコニコしてるし。








そうこうしてるうちに学校に到着した。

3人は同じクラスで、

教室に入っていくと紅葉と雄吾はすぐにそれぞれのグループに加わっていくが、俺は基本的に1人でいることが多い。

席に座ってぼーっとしてると、

自然と周囲が話してることは耳に入ってくる。ほとんどの人がクリスマスの予定を話しているようだ。

「紅葉はクリスマスどうなったの?」

「どうだろうね〜、あはは...」

紅葉がこちらをチラッと見た気がしたが、気がつかなったことにしよう。



掃除をして、終業式。また元気に全員で会いましょうという恒例のセリフを聞き、冬休み前最後の学校は終わった。荷物を詰めて、帰る支度をしていると、

「黒、午後暇ならカフェに行かないかい?」

バッグを肩にかけて雄吾が声をかけてきた。

「いいよ。ちょい待ち」

特に思い当たる用事もなかったので行くことにする。








学校から徒歩10分のところにある、

コーヒーがおいしいと評判のカフェ

茶福堂

同じ制服の人もちらほら見える。

レトロな内装とかかっているミュージックがベストマッチしていてとてもいい印象だ。

「ご注文は?」

「コーヒーを1つとココアを1つください」

雄吾はコーヒーが飲めないらしい。可愛らしいところもあるものだ。

「ところで黒、なんで僕がカフェに呼んだかわかるね?」

やっぱりか。そんな気はしていた。

「紅葉をクリスマスデートに誘ったか、だろ?誘ってない」

「やっぱりかあ。呼び出して正解だったみたいだね」

雄吾は人が良すぎる。

俺が紅葉のことが好きだということを知っているため、俺たちの関係を気にしてくれている。

俺も鈍感じゃないから紅葉も同じ気持ちなのではないかと気づいてはいる。

ではなぜ付き合わないのか。

告白する勇気がないというのもあるが、今までの関係が壊れてしまうのが怖い。

「お待たせしました。コーヒーとココアです」

そうこうしてるうちに飲み物が来た。一口飲む。

「うまいな」

おもわず声に出してしまった。

初めてこの店に来たが当たりだった。行きつけにしよう、などと考えていると、

「朝のあれはすごかったね。平気であんなこと言えるのに、恋愛ってなると何もできなくなるんだから」

「忘れてくれ」

恥ずかしい出来事をまた思い出してしまった。

「いい?黒は恥ずかしくなるとすぐ誤魔化したりして逃げようとする。

だから、自分に素直になるんだ。そして雰囲気に身を任せるだけでいい。

そうすれば、自然と自分の想いを伝えられるから。」

「素直に...雰囲気に身を任せる...」

「これをわすれないでね」

そう言って、雄吾は自分のリュックをあさり始めた。

「何してるんだ?」

そして、イルカの絵が描かれた2枚の紙切れを見せてきた。

「はい。僕からのクリスマスプレゼント。行く行かないは自由だけど、これがあれば誘いやすいでしょ?」

「おれのためにそこまで...」

雄吾のやさしさに涙が出てきそうになった。

「家となりなんだから、今日中に誘うんだよ。それと、今日のお代は僕のおごりで。それじゃあね」

雄吾は会計を済ますと、笑顔で手を振りながら店を出て行った。

ここまでしてもらって何もなかったじゃ雄吾にあわせる顔がない。

必ず、紅葉をクリスマスデートに誘い、この想いを伝える。

そう、心に誓った。










豊島黒は家に帰る。

「夜に電話でもして誘うか」

などと考えながら歩いていると10分ほどで家に着いた。

ドアに鍵を挿そうとすると、隣の家の前に誰かが捨て猫のように丸まっていることに気づく。

一瞬なんだかわからなかったが、顔をあげたことで正体がわかる・・・狩野紅葉だ。

「あ」

すっかり油断していたため、想定外なエンカウントに驚いてしまった。

この状態で声をかけないのはあまりにも不自然なため、一応声をかけることにした。

「よ、よう紅葉。家の前で何やってんだ?」

紅葉がこちらに気がついて、手を振ってきたが、見られてしまった!、みたいな顔をしている。

寒いせいかそのほっぺは赤く染まっており、長い間座っていたことがわかる。

「ぐ、偶然だね。こんなところで会うなんて」

表向きは平静を装ってるが、紅葉が恥ずかしそうにしてるのがよくわかる。

「偶然だねって、俺の家の隣だぞ」

「うぐっ、たしかに...」

「なんで家の前なんかに座ってるんだ?」

「今日の朝寝坊しちゃって後から合流したの覚えてるでしょ?

その時ものすごい急いで家飛び出してきたから、お母さんとお父さんも仕事で帰ってくるのが遅いって言ってたのに家の鍵を持っていくのを忘れちゃってね〜」

自分の失態を苦笑いしながら話す。

「そうしてると捨て猫みたいだな」

おれは、率直に思ったことを口にする。

「黒は自分の家の前にかわいい捨て猫がいたらどうする?」

そう言って紅葉は、いじわるそうな顔をしておれの家の前に座った。

「そうだなー。かわいい幼馴染が捨てられてたら保護してやらないとな」

「そんなこと聞いてない...」

紅葉は顔を隠してしまった。

このまま、外に座りっぱなしにさせるわけにもいかないし、おれは家の鍵を開けた。

「何時間も外にいると寒くて風邪をひくぞ。親が帰ってくるまで、俺の家の中で待ってるか?」

「いいの?」

「いいのって、おまえよくうちに遊びにくるだろ」

「...ありがと」

こうして、おれは捨てられたかわいい幼馴染を保護することになった。











風邪をひくと悪いと考え、俺の部屋に迎え入れたわけだが、デートに誘うならいいタイミングかもしれない。

そう思うと、紅葉が俺の部屋にいるってことにとても緊張してきた。


「飲み物持ってくるけど、ミルクティーでいいか?」

「・・・うん、ありがと」

「あと、部屋の中にある漫画とか適当に読んでていいからな」

そういって、俺はリビングに向かった。

すごい心臓がばくばくしている。

紅葉はミルクティーが好きなので、リビングに常備してある。

ミルクティーと自分用のコーヒーを作り、部屋に戻ると、紅葉はベットの上に座り、ある漫画を読んでいた。

「紅葉ってその漫画よく読んでるよな」

おれは、その隣に座った。

紅葉の髪からふわっといい香りがする。

「うん、『メモリーデイズ』は私の一番好きな漫画だから」


『メモリーデイズ』の大まかなストーリーはこうだ。主人公とヒロインは相思相愛だが、2人には夢があった。夢を叶えるために2人は夢が叶うまで会わないようにしようと約束をする。そして数年後、夢を叶えた2人は再会し、結婚するという物語。


「こんなに長い期間会えずにお互いを想い続けるってすごいよね。

わたしにはそんなの耐えられないから、大切な人と一緒にいる時間を大事にしようって、そう思うんだ。

ってなに言ってるんだろうね、私。恥ずかしいから今言ったことは忘れて。」

そう言って紅葉は手をパタパタと仰いだ。





「紅葉。クリスマスにおれとデートしてくれ」


気がついたときには、言い終わっていた。

言うなら今だと、自然と口から出てきたのだ。

もう後戻りはできない。おれはこの場の雰囲気に身を任せた。


「おれは今の関係で満足したくない。もっと先に進みたい、そう思ってる」


紅葉は何が起きたかわからないような顔をしていたが、理解しきったのか、顔がカーッと火照っていく。

「.....く、黒ってわたしのこと、その、す、好きだったの?」

「デートに誘うってことはそういうことだろ.....」

さすがに”好き”とは恥ずかしくて言えなかった。

紅葉が目をそらして距離をとろうとしたので、少し強引に腕をつかみ、目を合わせた。

おれは、紅葉の返事を待つ。

その時間が永遠のように感じられた。

紅葉は深呼吸すると、ついに口を開いた。


「...いいよ。デート」

紅葉の口からOKが出てきておれはホッとした。

だけど、まだ終わりじゃない。

聞かなきゃいけないことがある。

「紅葉はおれのことどう思ってる?」

「え?そ、それは嫌いじゃないかな。じゃなくてその....」

そのときだった。


「ただいまー!」

妹が帰ってきたようだ。

まずい。この状況を見られたらなんて言われるか...

紅葉もその発想に至ったらしく、おれから離れていった。

がちゃ。部屋の扉が開かれた。

「ただいま、お兄ちゃん。紅葉さんも遊び来てたんだね」

「おかえり、梨恵ちゃん。それじゃあ、わたしそろそろ帰るね」

「お、おう」

「えー、もっとゆっくりしていけばいいのに」

さっきまでの雰囲気はどこへやら。

結局、紅葉の想いを聞き出すことはできなかった。

「家まで送っていくよ」

「うん」

梨恵は違和感を感じたのか首を横に振っていたが、「またね、紅葉さん」とだけ言ってリビングのほうに行ってしまった。









外に出るとさっきまで降っていなかった雪が降っていた。

この調子でいくと明日の朝にはかなり積もってそうだ。

紅葉は自分の家の前につくとこちらに背をむけながら話してきた。

「まだ心の準備ができてないけど、わたしの想いはデートのときには必ず伝えるから。

あとね...」

そう言ってこちらを振り向くと上目遣いで言った。


「デート、楽しみにしてるね!」

そう言って紅葉は自分の家の中に帰っていった。


100%の笑顔だった。それは眩しすぎて、ああ好きだなって思った。

さっきは"好き"って言えなかったけど、デートのときには伝えよう。そして、言うんだ、付き合ってくださいと。

「さむっ、早く家の中戻ろ」

辺りは少し暗くなっており、からすの鳴き声が響いていた。



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