第28話 女形《おやま》



「有紗は出ないのか?」


「出ない」


 安土城下一の美人を決めると言うが。



                 ◎



修道士イルマン殿は出るので?」


「出るわ」


 安土城下一の美人を決めると言うが。


 

                 ◎


 北近江の浅井長政攻めを控えた天正元年の初頭。


 三人の美人を決めると言う、織田信長公旗下の木下藤吉郎秀吉の意図を勘繰るのは容易たやすい。


 浅井長政公とお市の方の三人の娘の身代わり。




「蛍は出ないのか? 安土城下一の美人を決めると言うがな」



「出ないよ……」



 蛍は英瑠の横顔を見る。



「信長公は御山を焼き討ちにしたが、衆道の巣窟だった比叡山を焼いた信長公は仏教では第六天魔王、伴天連ばてれん共にとっては救世の主だろうがな」


「英瑠」


「信長公を衆道の奸計に嵌めようと、女形おやまを送り込んでいると言うがな」


「御山が女形をか?」


 歌舞伎の女形、女装する男役者。


 衆道とは男色、同性愛の事だが。


 信長公の大義名分が失われれば、天下布武は成り立たない。


 


 たった一人の女形によって、天下布武が潰されるのだ。



「次の者! こ、これは?! ウップ!」


 名前はカノン……。


 面妖な目つきと媚びた上目遣いの……。


 妖怪か?


 猫は13年生きると尾が二つに分かれ、妖怪猫又ねこまたになると言うが……。



第28話 了

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