第11話 三途の川
甲賀は現在の滋賀県に存在する。
信長が、岐阜城から近江安土に天下布武の為の拠点を移し、京都を中心とする畿内地方を基盤に派兵し出した当時。
楽市楽座で、商人が自由に街道を往来出来るようにした功績は後世の教科書に残る程だ。
織田信長。
徳川家康はまだ内府とは呼ばれていない。
織田家重臣滝川一益の縁戚である前田慶次郎利益は傾奇者で知られていた。
戦国のバサラ者。
天下の権威に従わず、周囲とかけ離れた
前田慶次郎は傾奇者として分かるような身形を、
此処ではしていなかった。
「ウドは全部また食べちゃったの! お握り10個朝全部?!」
賀茂陽明から預かった金の金庫番だった蛍。
水茶屋で買ったお握りを腰に巻き、それぞれ自分で一日分に割り当てる。
日本では古来、朝、晩の二食だった。昼は食べない通例だった。
「差助! お前がまたウドに食べさせてやれよ」
「いいよ!」
「あ? 嫌だって言わないのか?」
「お握り一つ
「さよか」
地獄の渡し賃は六文銭。
三途の川の渡し守も、地獄の沙汰は金次第なのか?
甲賀の里を目前に、川が昨日の大雨で氾濫しているが、橋はない。渡し守に我慢して向こう岸迄渡してくれと頼む金が要る。
「蛍?
袖の中を振ってみるが、誇りが落ちるだけ。
英瑠も利き手の右手で振っている。
一回舟を出すのに六文銭。向こうに渡った時、渡し守は此岸に返ってこようとするだろうか?
農民でさえ名字がない時代。
渡し守も苗字が無い。
渡し守が何人かいたが、
「
一番年が若い千兵衛。
蛍、差助、英瑠、ウドの四人。
氾濫した川を渡る時、舟が揺れないように、転覆しないように、船頭含めて3人。
蛍が持ってる金子。
英瑠の金は六文。
蛍の金は十文。
差助は二文。
ウドは十五文。
川を往復しなければならないが、彼岸に渡った時、彼岸から此岸へ客を見つける迄が彼岸にいる渡し守だが、彼岸からまた戻って残りの二人を運ばなければならない。
四人の有り金は合計三十三文。
一回の渡し賃は六文。
二人運んで六文で、通常向こう岸で客待ち。
客を待てない往復で、戻る時に六文。
最初に乗る人間二人が九文は持っていなければならない。
一人当たり六文で、二人ずつ運ぶ時、船頭の懐に十八文が入ってくる。
往復した後、二人で乗る時、船頭が戻らない事で彼岸で客待ちする時は、此岸に戻る六文はいらない計算になる。
二人ずつ運び、最初の往復の時の十八文と、最後の渡し賃が二人で十二文。
千兵衛には合計三十文の利益になる。
百文で購入出来る米は一升三合程(江戸時代)。
三十文は、渡し守にとって、一週間の生活を賄う程の利益になる筈だ。
六文+六文+六文。
彼岸で待機の客待ち。
無罪で死んだ人間を此岸へ運ぶのは無銭。
零銭。
「ウドが全部払えよ!」
差助の言葉に、
「オラ、やんだ!」
「ウド!!」
「オラ、やんだ!」
蛍が差助に耳打ちする。
「ウド、お握り一個半分の金で売るからよ!」
英瑠と蛍が晩の握り飯を差助へ差し出す。
それぞれの渡し賃をそれぞれ払える英瑠、ウド、蛍だが、二文の差助は一人だけで支払えない。
差助の渡し賃で足りない分が四文。
お結びが一つ二文で、二文の半額一文で四個をウドに渡す差助。
夕方のお結び4個がウドへ。
ウドの四文が差助へ。
それぞれの金はそれぞれで。
それぞれの食事もそれぞれで。
一度彼岸に渡った後、此岸へ戻る金を誰が払うのか。
自分の渡し賃六文。此岸へ戻る六文を折半だから、一人当たり九文必要になる。
一回二人運び、それぞれで支払う。
戻る金が六文必要だから、二人で三文ずつ。
四人全部渡した後、戻る金が必要になる。
彼岸へ客を渡した後、彼岸で客を待ち此岸へ返る。
無実の罪で死罪になった人間を戻す為、千兵衛は待つのだ。
本当の罪人が裁かれる時、その真の罪人を自分の手で川の底に沈めたくなるからだ。
千兵衛が地獄に落としたい男。
武田信玄の家臣望月千代女が信濃で作ったくノ一養成所に攫われた妹。
商人が背負う大きな
信長の寝首を掻く為に、送り込まれるくノ一がまだ信濃で修練をしていた。
葛籠に隠れた美少女は、敵国の大将を討ち取る為に潜入する為の小柄な美少女が選ばれた。
くノ一を訓練する信濃国小県郡祢津村にあった巫女道修練所。
「差助!」
蛍が差助の名前を呼ぶ。
渡し守に無事彼岸まで渡して貰った差助一行。
ウドは買ったお握りを昼で食い果たす!
明日のジョー状態だった差助を救ったお握り。
「英瑠は、神様、仏様だ!」
「先を急ぐぞ」
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