第3話 向日葵が望むベクトルへ……
甲賀の里を出たサスケと英瑠、蛍、泣き虫ウドの4人は、河原を眼下に望む土手で遅い朝飯を取っていた。昔は朝夕の二食だけ。
サスケも英瑠も蛍も甲賀忍。ウドだけが大食らい。サスケと蛍の分まで食べつくす。英瑠は旅の途中でついてきた犬コロに自分の糒を与えていた。
織田信長が、農民を戦時に兵とする従来の戦法から、軍隊として通常から訓練させる兵隊を育成する軍隊を備えてから、日本の合戦の方式は変化した。
サスケは、毬をリフティングする。
英瑠の傍で糒を食べる犬コロがその毬を見上げる。
空には未の刻の太陽。12支を24時間に当てる時、2時間置きの12の刻を4つの半時で分ける。半時は30分で、火縄に火種をつけた時に、その燃える速度でも時間は測定出来る。
蛍は自分の上着の裾を破って紐として、その紐を火縄として時間を計る。
その上着の下には鎖帷子を着ているが、その鎖帷子の下に隠れる傷痕が、蛍の過去に何があったかを英瑠に忘れさせる……。
彼女が甲賀の里の川上から流れついた10年も前の事……。
川上から流れてくる嬰児を、天空から狙う猛禽類の鷹の爪が蛍の右脇腹を抉った時、英瑠の身体は自然と川面へ飛翔し、その鷹を真上から蹴り落とした左足でその鷹を蹴り殺した。
しかしその鷹はこの辺りの領主が鷹狩で放った鷹だったのだ。
領主が鷹狩に遣う鷹を殺してしまった英瑠は領主に差し出され、蛍より数歳しか離れていなかったにも関わらず英瑠の身体に無数の傷を作った。
蛍の右脇腹の傷と、英瑠の無数の身体の傷は、二人を繋げる絆となった。
その英瑠への領主の拷問を、あの高賀茂一族でまだ青年だった時の
彼を救ったのもまた
彼は自分の左目と引き換えに、英瑠の命を救った。
雨が降りしきる白州の場で、領主が打ち据える茨の棒を黙って彼は受けた。彼の両手は下がったまま、英瑠よりも身の丈が3倍は優にある
茨の棒は
彼の失った左目は、右目を彼の利き目にした時、彼の右目と左脳を繋がり、彼の目は言葉を語るようになった。
彼の目が鬼眼となって、彼の右目が言葉を周囲の存在に植え付ける鬼の眼となった。
右目が言葉を司る左の脳と繋がった時、彼が昼間見たモノは陽の光で言葉を纏い、夜、その存在を彼に知らしめることになる。
その鬼眼の能力は彼を高賀茂一族の長に選んだ先々代の長が、代々一族に生誕させたかった鬼仁=王仁としての「を・に」に備わるとされたもの。
先天的でなかった能力と、生誕するかもしれない右目が利き目の存在を、左目が代々利き目としての旧人の血筋が求めた秦人だったのか?
王仁は漢の末裔……。
秦仁は西に沈む太陽が夜帰る舟に乗る月神。
エジプト・アレクサンドリアから北東、丑寅の方向へカナンの地を目指すシリウスの流れは、青く白く、その狼の牙と月の都アマルナの象徴である鷹の目を持つ者に現れる二つの証として、その一族への生誕が待たれる存在だった。
高久が因縁として獲得した能力と、丑寅の能力を持つ者が一体化する事でした時。
比叡山の鬼と安土の城で丑寅を抑える城の頂点で、丑寅の方向をその異能なる二つの眼で見据える上総介信長……。
織田信長
義弟であった浅井長政の黄金の頭蓋骨に酒を注ぎ、飲み干す信長の目に宿ったモノは、
信長の、
頭蓋の、
後ろ、
もう一つの鬼面を作った……。
信長が右を見る時、後ろの面は左を見る。
信長が左を見る時、後ろの面が右を見る。
太陽が西に沈む時、太陽は東に沈む。
太陽が東から昇り、鬼面は西から太陽が昇ると言葉で言う。
彼の本音が、誰かの偽りなのか?
彼の隠す事を、鬼面は後ろの存在へ語る。
そして信長を倒すモノは、彼の後ろで彼に話すのだ……。
安土の対岸の坂本へ……。
丑寅を向く時、彼の敵は未申の方向で、信長の本心を隠し、そして話す事になる……。
坂本から、京都のお方へと、だ……。
ステージ3 タイムアップ
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます