12、呪い
晃子も含め、少なくとも僕が付き合った女たちは、時々ひどく残酷になった。その残酷さは、一度深い関係になったからこそ僕に対して表現されたのだろう――そう考えて自分を慰めている。まあネガティヴにとれば、とてつもなく嫌われたわけだが。
だが女の気持ちはコロコロ変わる。殺したいほど相手を憎むときもあれば、女神のように愛情深いときもあり、その時々で本気なのだ。晃子もこの2年間、それを繰り返していた。これはいわゆるツンデレってやつで、女の多くは無意識にそれをやっている。僕も30代前半までは、これにマトモに付き合って疲弊していた。
晃子と付き合う前にだいぶブランクがあったが、そのころにむしろ落ち着いて女性の特性について、自分なりに解釈し理解できたと思う。そのひとつが、『女は男の何倍も気まぐれ』というものだ。〈女心と秋の空〉とはよく言ったもので、本当に女の気分はコロコロ変わる。そして男を惑わす。狂わす。ときに破滅させる。本能的な魔女だ。
基本的な対処法は、気まぐれをいちいち真に受けないことだ。わざわざ台風に近づいては吹き飛ばされる。ツンのときもデレのときも、こちらはあまり喜びすぎたり悲しみすぎたりしてはいけない。女に惚れ込み、気に入られようとするあまり媚びへつらってはいけない。自分の身を守るためにも。
晃子とのあの電話が終わってから、僕は悲痛のあまり体調を崩した。それでも出社はした。日常に流され5日も経つと回復し、帰りの電車に揺られて思考が再開され、これまでの経験をもとに気が付いた――そうだ、女は気まぐれで、ときに非情でひどく残酷になるものだ。
だから今回も、あんまり気にしないほうがいい。そういうやり方で、晃子と2年間やってこれたのだ。2年は長い。強く求めすぎなかったのが良かった。
しかし今となると心に引っかかることもある。2年も付き合っていれば、〈結婚〉を持ち出してもおかしくはなかったのだろう。僕の頭には、一切それがなかった。晃子も特にそれを持ち出さなかった。晃子がどう考えていたかはわからないし、僕がどうすべきだったのかもわからない。
だがもうクヨクヨしているのはイヤだった。よりによって、あの残酷な晃子のことを想って暗い気分になったり病気になるのは、悔しいし
僕は晃子の次を探すことにした。別に急いではいない。そのつもりだけでいい。重要なのは、『もう晃子は過去だ』ということを、自分自身に叩き込むことだった。今や晃子は僕にとり憑いた古い亡霊であり、忌まわしい呪いであり、いち早く取り払うべきものだった。恋人というのはいろいろな経緯があって別れるが、別れたあと相手をひどく呪う場合がしばしばある。残念ながら、僕と晃子もそんな恋人の一組になってしまったようだ。まあ、別れた直後だから、今が一番ひどいんだろう……などと、また晃子のことを考えて悶々としている自分に気付き、頭を抱えた――呪いはそう簡単には解けない。時間が癒してくれるのを待つしかない。
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