二人の秘密、見つめる影、そして始まり

 ――1920年4月20日。ドルージュ町、夕方。


「ふぅ……何とか戻って来れたけど、あの空間はやっぱり苦手だな……」


 僕とマリーは何とか元の時代に戻ることが出来た。驚いたことに、タイムトラベルした時からそんなに時間は進んでいなかった。ただそれは、裏を返せばあの老紳士がまだ近くにいるかもしれないということだ。僕はマリーと行動を共にして家まで帰っていった。


 ――そしてマリーの家の玄関口。


「今日は大変だったね、マリー。ゆっくり休んでね。それじゃ……」


「待って下さい」


 マリーは駆け足で僕の服の袖を引っ張りに来た。僕はドキッとして、必死に顔が赤くなるのを抑えながらマリーの方へと振り返る。


「ど、どうしたの?」


「今日の事は、誰にも言わないで下さい。何だか、胸の辺りがゾワゾワするのです」


「胸騒ぎ?」


「そう言う感情なのでしょうか。何というか、あの老紳士に会った時、私の中で何かが外れた気がしたのです。何か引っかかっていた物が取れた様な。しかし、それは決して喜ばしい様な事では無くて、何かが、また、始まってしまうような」


「……わかった。じゃあ、今日の事は二人だけの秘密にしよう。誰にも言わない。何か嫌なことが起きたとしても、僕たちだけで解決するんだ。協力して、ね。それなら大丈夫?」


「はい。ありがとうございます、ウォルダ」


 この時、僕とマリーの間には秘密が出来た。そして、これがやがて大きな事件、大きな運命の始まりになったんだ。





「身元は?」


「分かりません。犯人の証拠もありません。まるで……」


「最初から犯行なんて起きていないように……か」


 マリー達がそれまで居た路地裏には多くの警察で埋め尽くされていた。


「最近頻発している殺人事件。被害者の服装や見た目は似通っている。恐らく、犯人は人を選んで殺している」


「ただ、証拠が何も残っていないので犯人の特定のしようが……」


 悩む警察たちを陰から見つめる者がいた。彼女は――。


「見つけたよ。少年とお嬢ちゃん」






 ――1900年5月27日。コラレイカ町。


「博士! 機械人形の技術は一体どこから!」「博士! 機械人形の運用方法を!」「博士! 量産化の計画などは!」


 多くの記者から質問攻めに合う一人の学者がいた。学者は戸惑うことなくニコニコと微笑みながら口を開いた。


「まぁまぁ落ち着きなされ。お前さんたちは今しか見ていないのかね。この機械人形は大きな目的の為の通過点に過ぎない」


 学者は記者たちに指を指し堂々と宣言をする。


「私の目指す目的はずばり、“時間旅行の実現”であ~る!」

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Time Doll ―タイム・ドール― 柄針 @tukahari

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