第20話 あの子は……
ある休日のこと――。
私は、これから出かける翔太郎くんを見送るために玄関に来た。
「じゃあ、先輩、行ってきます」
「行ってらっしゃい」
――ガチャリ。
翔太郎くんが向かったのは、駅前にあるゲームショップ。
話を聞くと、どうしても欲しい新作のゲームがあるようで、それを買いに行くらしい。
「………………」
一人になった玄関で、私は…………扉をぼーっと見つめていた。
お互いに、相手のプライベートにはあまり干渉し過ぎないように気をつけている。
これは、翔太郎くんと決めたルール。一つ屋根の下で一緒に暮らすのだから、お互いに守るところは……守る。
それは……とても大切なこと。
(でも……なんだか、寂しいですね……っ)
このまま玄関で立っていても、すぐに帰って来るわけもないし。
……とりあえず、洗い物を終わらせますか。
そう決めた私は、パーカーの袖を巻くって気合いを入れると、途中で止まっていた洗い物を終わらせるためにキッチンへと向かった。
それから洗い物を終えると、次に掃除に取りかかる。
「ふふっ……♪」
鼻歌を奏でながら、コードレスの掃除機でリビングのフローリングを掃除していく。
そして、リビングの掃除が終わると、次にキッチンを掃除していく。
(今日の晩ごはんは、なににしましょう……)
夕食のメニューを考えつつ、キッチンの掃除を終えると、二階に向かうためにリビングの扉を開けた。すると、洗面所の方からリズミカルな音楽が流れてきた。
この音楽は、洗い終えたことを知らせてくれる洗濯物からの合図。
(う~ん……二階の掃除は、後ですね)
私は、掃除機を廊下の壁に立てかけ、洗濯物を取りに向かった。
洗濯物と言っても、私と翔太郎くんの二人分だけ。
決して量が多いというわけではない。
「んんっ、しょっと……っ」
洗濯機から出した洗濯物をカゴに移すと、ベランダに移動して物干し竿に干していく。
「れでよしっ! 次は……あっ、二階の掃除!)
カゴを洗面所の棚に戻すと、廊下に置いていた掃除機を持って二階に上がった。
一時間後。
「んん~っ! 終わった~っ!!」
キレイになったリビングの真ん中で腕をグッと伸ばすと、一息つくためにソファーに座った。
「ふぅ……」
壁にかけてある時計の針は、お昼の二時五十五分を指していた。
(もうすぐ、三時か……)
なにかテレビを見ようにも、この時間帯は大体ニュース番組が中心で、あまり見る気にはならなかった。
結局、私はテレビを付けなかった。
「ふあ……っ」
この
「っ……ちょっとだけ……っ」
私は、まるで導かれるようにソファーに横になった。
……。
…………。
………………。
「んんっ……ふあ……っ」
目尻を擦りながら身を起こすと、また口から欠伸が漏れた。
(私……そっか。急に眠たくなって……それでソファーに……)
まだぼんやりとする視界が捉えたのは、窓から見える夕暮れの空。
「……もう夕方なんですね…………えっ、夕方……ッ!?」
今の時間が気になったので見てみると、時計の針は午後の五時をとっくに過ぎていた。
(ま、まさか……二時間も寝ていたの……?)
寝起きの頭では、今の状況を理解するのに時間がかかった。
(……ッ!? 急いで、晩ご飯の準備を……ッ!!)
そう思ってソファーから立ち上がると、急いでキッチンに向かう。
(えっと……)
冷蔵庫の中を見ながら、今日の夕食のメニューを瞬時に考える。
そこで考え付いたのが、手軽に作れる親子丼だった。
(鶏肉はある……玉ねぎもある……あ)
親子丼に使う食材を確かめていくと、最も大事な食材が冷蔵庫に入っていないことに気づいた。
(…………卵がない)
そう。どの家庭の冷蔵庫にも基本的に入っているはずの卵が、入っていなかったのだ。
(どうしよう……)
悩んでいる時間も勿体ないので、スーパーに行くことに決めた。
だが、財布と携帯を持ってリビングを出ようとする矢先、あることを思い出す。
(あっ、洗濯物!)
急いでベランダから洗濯物を取り込むと、急いでスーパーに向かった。
その後。
急いでスーパーにやってきた私は、レジで会計を済ませる。
(まだ、間に合いますよね……っ)
ここまでにかかった時間は、およそ二十分。
これから帰って作れば、なんとか間に合う……かも。
(うぅぅ……っ。ファイトですよ、自分っ!)
自分自身を鼓舞すると、財布をポケットに閉まって出口に向かう。
そして、自動ドアを抜けて歩き出そうとした。そのとき、
(――――…あれ?)
スーパーの前の道を歩く人の中に、見知った顔を見つけた。
遠くでよく見えなかったので近づいてみると、そこには、自分がよく知っている人物がいた。
(――…あっ、翔太郎くん! …………と、誰だろう?)
嬉しさのあまりつい声をかけに行こうとしたが、翔太郎くんの横に見知らぬ女の子がいたことに、思わず絶句した。
二人は、なにやら楽しそうに喋っていた。
「あの子は……」
私は、目の前を通り過ぎていった二人を、立ち尽くしながら見つめることしかできなかったのだった……。
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