第18話 奈津子ママのお・ね・が・い♡

 夕食後――。


「彩音ちゃ~ん♪ お待たせぇえええ~っ♪」


 場所は、浴室。

 私が体を洗おうとしていると、生まれたままの姿の奈津子なつこさんが入ってきた。


「………………」


 どうして私が驚かないのかというと、ロールキャベツの作り方を教えてもらう代わりに、一緒にお風呂に入ることをお願いされたのだった。


 それにしても……


 ――ボインっ♡ キュッ♡ ボインっ♡


(これが……ダイナマイトボディ……ですか)


 メロン以上と思われるバスト……細いウエスト……はち切れんばかりのヒップ……。


 ボンキュッボンとは、この事なのかもしれません。


「もぉ~そんな怖い顔しなくていいのに~っ♪」


 どうやら、私が奈津子さんのダイナマイトボディを見る目が怖かったようだ。


「今から体を洗うんでしょー? だったら、私が背中を流してあげるっ♪」

「え。いえ、これくらい一人で大丈夫です」

「そんなに遠慮しなくてもいいよっ♪」


 と言って奈津子さんは、泡立てたボディスポンジを手に取ると、私の後ろにしゃがんだ。


「――あ、手が滑った」

 

 奈津子さんの手は、背中をなぞるようにしながら、私の胸を思いっ切り…――


「…………ッ!!?」


 奈津子さんから慌てて距離を取ったが、浴室という狭い空間の中では、大した距離でもなかった。


「ふふふっ♡」


 振り返って見ると、奈津子さんは、満悦まんえつの表情で手を“ワシワシ”としている。


「ごめんね~っ。つい、手が滑っちゃった♪」

「今の絶対にわざとですよねぇ!?」


 と、少し強めな口調で言うと、奈津子さんは急に悲しそうな顔になる。


「彩音ちゃんは……私が、そんなことをするような人に見えるの?」

「見えますっ、ハッキリと見えます!」

「まぁ~まぁ~っ。それにしても、今の弾力は……」

「へっ?」

「彩音ちゃんはいいものを持っているわねぇ~♡」

「あ、ありがとうございま……ではなくてっ!」


 ……なぜかはわからないけど。奈津子さんだけには言われたくないと思った。


「女同士仲良く洗い合いっこしましょう♪」

「どうして今の流れから、そうなるのですか!?」


 その後も、しばらく“ワシワシ”が続いたのだった――。


 ……。

 …………。

 ………………。


 なんとか体を洗い終えると、二人で湯船に浸かった。


「はぁ~……いいお湯~っ♪」


 じーーーーーっ。


「? どうしたの?」


 ……浮いている……。

 目の前で、大きな二つのボールが……プカプカと……。

 メロン以上のものが……。


「うぅぅぅ~……完敗です……っ」


 ブクブクブク……。


 不思議な顔で見つめられながら、私はゆっくりと顔を湯船に埋めた……。




 無事にお風呂から上がってから、数時間後。

 そろそろ寝る時間に近づいてきたので、布団を敷き始めた。すると、


「え」

「ふふっ♪」


 隣で奈津子さんが布団を敷いていた。

 奈津子さん曰く、今日は私の部屋で一緒に寝たいらしい。

 私としては、別に構わないのだけど。


(奈津子さん……ネグリジェは、さすがにエッチ過ぎます……っ!!)


 と心の中で叫んでいると、


「――…この家での生活はどう? もう慣れた?」

「え?」


 ……急に聞いてきましたね。


「……来た頃は、色々なことを覚えるのに必死でしたけど。最近は、少し慣れてきました」

「そっか。ねえ、彩音ちゃん」

「はい?」


 奈津子さんの真っすぐな瞳が、私をじっと見つめている。


「翔太郎には……いつ、“あのこと”を話すの?」

「…………っ!!」

「ずっと黙っているつもりはないんでしょ?」

「そ、それは……はい……」

「…………話すのが、怖い?」

「っ……もし、翔太郎くんに“あのこと”を話して、嫌われるようなことになったら、立ち直れる自信がありません……っ」


 いつか話さなければいけないことは、わかっている。


 ……でも。


「彩音ちゃん。もし、翔太郎が“あのこと”を知ってしまったとしても、彩音ちゃんのことを嫌いになったりなんてしないよ?」

「………………」

「あの子は、たまになにを考えているのか、わからないときもあるけど。誰かを悲しませるようなことはしないように、今まで育ててきたつもりだから」

「奈津子さん……」

「だから安心して、彩音ちゃんっ」

「…………っ」


 奈津子さんの声には……人を安心させる力があるのかもしれない。


 それから部屋の電気を消すと、布団に横になった。


 ………………。


 真っ暗な天井を見つめながら、私は……。




「っ……実は昨日、本屋で“あの人”が表紙の雑誌を見つけたんです……」


 気づいたときには、口が勝手に言葉を紡いでいた。


「せっかく、あの人から離れたつもりだったのに……近くにはいるんですよね……」

「離れたつもりだけど、近くにいる……」

 

 と呟いてからは、奈津子さんはなにも言わなかった。

 それを習うかのように、私も、自ずと口を閉じる。


(奈津子さんは……きっと、気を使ってくれたのかもしれない)


 迷惑をかけてばかりだな…………私。


「……もう時間も遅いし、そろそろ寝よっか。明日も朝、早いから」

「そう……ですね」


 ………………。


「……おやすみっ。彩音ちゃん」

「お休みなさい、奈津子さん……」


 私は毛布を被り直すと、ゆっくりと目を閉じた――。

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