第14話 先輩のレシピノート

 謎のゲーム少女に睨まれた昼休みも終わり、気づけば夕食の時間。

 リビングに入ると、


「はぁ……」


 先輩がため息をこぼしながら、鍋の中をじっと見ていた。


「? あの……先輩……」


 僕の声に気づくと、先輩はこっちに顔を向けてきたのだけど。

 その顔を見るだけで、落ち込んでいるのは間違いなかった。


「どうしたんですか?」

「……失敗……してしまいました……」


 鍋の中を覗き込むと、剝がれたキャベツと挽き肉がバラバラになっていて、よくわからない料理が出来上がっていた。


 ……ん? コンソメのいい香りがする……。


「これって、ロールキャベツですよね?」

「はい……。きれいに巻いたつもりだったのですけど。時間が経って見てみたら……この有様でして……」


 どうりで落ち込んでいたわけだ。


「これから作り直すにも……材料が……」

「先輩、もう落ち込まないでくださいっ。また、リベンジすればいいんですっ!」

「翔太郎くん……っ」

「ファイトですっ、先輩!」

「……そうですよね! また、作ればいいんですよね!」

「はいっ。先輩なら、次こそ絶対に成功しますっ!」


 さっきまでの落ち込んだ様子が嘘のように、その表情は元気に満ち溢れていた。




「「いただきます」」


 早速さっそく、皿に盛り付けられたロールキャベツ(仮)を口へと運ぶ。

 コンソメの香りと出汁だしの風味が効いていて、予想通りと言うべきか、白いご飯が進む味付けだった。


(……美味うまいっ!)


 先輩は、僕が食べている姿にホッとしたのか、ロールキャベツを一口食べてキッチンに向かった。

 そして、キッチンから戻ってきた先輩の手には、一冊のノートがあった。


「それ、なんですか?」


 と尋ねると、ニッコリとした笑顔で答えてくれた。


「これはですね……っ。私が作ったレシピノートです」

「レシピノート?」

「この家に来てから作った料理のことを書いたものです」

「へぇ~」


 特別に見せてもらうと、そこには、今までに食べた料理のレシピが、可愛い絵とともに書かれていた。


「そんなに……見られると、その……照れますね……っ」


 自分が作ったノートを見られて恥ずかしかったのか、頬が少し赤くなっていた。


「恥ずかしがらなくてもいいじゃないですか。すごいですよ、このノートっ」

「っ……ほ、本当は、全てのページが埋まるまで見せないつもりでした……っ」


 先輩の言う通り、ノートの後ろの方には、真っ白なページがまだたくさんある。


「いつ完成するのか……」

「これから毎日ちょっとずつ埋まっていきますから、そう遠くではないはずですよ」

「えっ、それって……」

「…………あっ」


 今の言葉を直訳すると、ずっとこの家にいてほしいという意味になるのでは……。


 そう思った瞬間――。


「えっと……あはははは……」


 ――――…顔が熱い……っ。


 僕がわかりやすい誤魔化し笑いをしていると、


「その気持ちが知れただけで、とっても嬉しいですっ」

「…………っ!!」




 それからというもの、この日はずっと、先輩と目を合わせることはできなかったのだった……。

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