第9話 草食爬虫類人(3)
エジプトでは古代王朝のファラオ、日本では七福神の
「ここは、君達の言う伝説の生き物の巣だよ。あの大男はダイダラボッチの子孫になる。弥生さんと
高校時代、よく流太に聞かされていた伝説のヒト型生物。
これまでに発掘された「長頭人」の化石の多くは人間が風習のために板で頭を挟み、人為的に長くしたものだが、中にはそれでは説明のつかない自然な状態で頭の長い化石もあったという。
それに、昔から日本全国に伝わる伝説の巨人、ダイダラボッチ。
本当にいたんだ……。
未加は靴を履き直した。
他の三人もいつの間にか足湯から上がっていた。
「そんなに警戒することないよ。人間の方がよっぽど怖いのに。おかしなものだね」
ほほ笑みをたたえ、長頭人は穏やかに言ったが、未知なる生物にはどうしても本能的に警戒してしまう。
「……私達は、帰してもらえるんですか?」
未加はこの「長頭人」と話してみたくなった。
「火山ガスをくぐり抜けて迷い込んだ人間はそこのメガネ君が初めてなんでね。どうするか迷いに迷っていたのさ。私達は直接害を与えない生き物を殺す事は出来ない。口封じなんてもっての外だ。しかし、ここをバラされたら困るから返してあげる事も出来なかった」
頼めば流太は黙っていたと思うけど。
「そろそろ潮時だ。我々はここを去る。君達も戻ってもらって構わない」
簡単に言うが、どうやってこの山を下りろと言うのだろう。あのゴンドラに乗るのは未加はもう嫌だった。
それに下りてからも火山ガスの窪地がある。
「あの、爬虫類人は火山ガスが効かないって本当ですか?あなた方はどうなんです?」
「ああ。本当だ。我々も多少、耐性がある。遠い昔から火山噴火を経験してきたからね」
「僕は、運が良かったんですね」
流太は未加の影から会話に加わる。
「そうだね。気絶してたけどね。でも、ガスに切れ目ができる様になったのかも知れない。三日前には人間の子供が迷い込んだから」
「子供?」
未加は二階を見上げた。
あの中に人間の子供が?
「そうなんだ。三歳くらいの男の子が迷い込んで来たんだよ。白露さんが何回かこの辺りに保護者がいないか探したけど、誰もいないみたいでさ。あの子、何を聞いても『ひゅうが』しか言わないんだよね。苗字なのか下の名前なのか。大貴に任せればわかるかな」
流太が大貴に話を振ると大貴は頷いた。
「捜索願が出されていればすぐわかるよ。出されていなくても台地の養護院で保護出来る」
大貴と真子は岩で出来たテーブルセットみたいな物に座っていた。
「あの石についてた化石は、あなた達の仲間なんですか?」
未加は質問を続けた。
「あれは、肉食爬虫類人だ」
長頭人の顔が曇る。
「肉食?」
「あの骨は草食だろうと肉食だろうと爬虫類人の存在を示すものだ。DNAを調べるまでもなく、
「肉食の……女王ですか?」
その時、細身のジーンズをはいた頭の長いお姉さんが果物と茹でた野菜盛りを大皿でドンと岩のテーブルに置き、「お夕飯だよ」と言って去って行った。
「僕はここへ来てから毎日野菜ばっかり食べてる。ここの人達は完全に草食なんだ。爬虫類人には草食と肉食がいるみたいだよ」
流太が小声で未加に話す。
「肉食爬虫類人の女王を復活させてはならない。再び災いが起きる。……古い言い伝えでね」
長頭人は手拭いを湯に浸すと顔と頭を拭いた。
「そうだ!私、唐揚げサンド持ってきたんだった!」
真子が勢いよく立ち上がり、自分の荷物から唐揚げサンドを出してきた。
「すごい匂いだな……。鼻がもげる」
長頭人のお兄さんは顔をしかめて足湯から上がった。
「あなた達も草食なの?」
「肉は食べられると思うが、私は生まれて五百年、食べた事はない。いつの時代も草食爬虫類人と生活しているからだ」
「他にも伝説の生き物は、今の世界に生きているんですか?」
「さあ、いるかも知れない。我々の間でも伝説の生き物がいるよ。
両生類人?……カエルとかイモリのヒト型って事?
それに、三沢さんの他にも爬虫類人が人間社会にいるって言うの?
色んな質問が頭の中を駆け巡ったが、長頭人のお兄さんは立ち去ってしまった。
「未加、ゴハン食べよ」
「うん……」
ふかし芋に手を伸ばしかけた時、テーブルの上に小さなもみじの手が現れた。
見ると三歳くらいの男の子が、岩のテーブルに手を掛けてよじ登ろうと頑張っている。
「この子……?流太が言ってたひゅうが君」
「あ、そうだよ。いつの間に」
未加は男の子を抱き上げて自分の膝に乗せた。
「わっ、意外と重い」
男の子は無言で唐揚げサンドに手を伸ばそうとする。
「食べたいの?」
聞いてみると顔を上げて未加を見て頷いた。
言葉はわかるらしい。
「これはね、唐揚げって言うのよ。カ、ラ
ア、ゲ」
未加は自分の唐揚げサンドをあげる事にした。
昨日も実家で食べたし、この子はまだ数回しか食べていないのかも知れなかった。
「カ、ラ、ア、ゲ」
ひゅうがはつぶやくと一心不乱にサンドにかじりついた。
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