第8話 草食爬虫類人(2)

目が覚めるとハンモックの上だった。

起き上がるとバランスを崩して落ちてしまった。

「いたた……」


「未加」

誰か駆け寄って来たと思ったら流太だった。


「りゅ、流太!良かった。無事だったのね。あの、ここは?真子達はどこ?」

頭の中が整理出来ない。

「ここよ」



声がして振り向くと、湯気の中に真子と大貴がいた。


よく見ると温泉に足を浸けている。

岩の裂け目から温泉が湧き出し、その場所を丸く囲ってあった。


「ちょっと!何を呑気のんきに足湯なんか」

「いいじゃない。疲れたもん。それにあちらも私達の事より協議に集中してるみたいだし」

真子の視線の先には三沢弥生がいた。


弥生だけではなく、背の高い白髪の男、白髪の男より大きな四メートルはありそうな大男、頭の長いおじいさんが輪になって話し込んでいる。


その上に二階部分があり、子供が何人か遊んでいて、それを母親らしき人達が数人で見守っていた。


「何これ。遺跡みたいだけど、彼らの住処すみかなの?」

壁はむき出しの岩で、円錐形の広場みたいな形をしている。

ここは筆が岳の山頂内部だった。


頂上に穴が開ていて日没の空色が見える。

陽が傾いているのに、この空洞がオレンジ色に明るいのは照明が設置されているからだ。


照明の色でなんだか落ち着いてきた。キャンプでもしている気分になってくる。


「よく出来たホテルみたいね。みんな爬虫類人なの?何を話しているのかな」


三沢弥生は涙を拭う仕草をしている。


未加はその後ろにヒト型化石がへばり付いているあの石が転がっているのを見つけた。


「あの石!」

「そう。察するに、三沢弥生が手引きして盗ませたのさ。実行犯は体格から見て、白髪の男だろうな」

大貴は落ち着いた声で解説した。


「未加も座りなさいよ。二人とも説明してあげて」

真子に促されて温泉に足を入れるといい湯加減だった。


大貴と流太によれば、

彼らはとても大人しい種族で、人間に居場所を知られないように隠れて生きてきたが、その存在を示す化石が出た事に慌ててしまい、

詳しく調べられる前に持ち去ろうとした計画が流太と遭遇した事で頓挫とんざし、さらに行方を追われない様に大貴の身分証を壊したせいで返って窮地に陥ってしまったらしい。


「僕のシグナルが消えて二十四時間以内に連絡をしなければSSが探しにくる。流太の捜索で休暇を貰っているから、ここまですぐ来るだろうね」

大貴は絆創膏の貼られた右手をさすった。

弥生がえぐった傷はたいした事はなさそうだ。


「僕があの石にこだわって付いて来てしまったからこんな事になっちゃって。あの人達は悪くないのに、ここを出なきゃならないって話している」


流太は監禁、比較的自由だから軟禁と言うのかも知れないが、捕まっていたというのにしょげている。


どこまでもお人好しだ。


「あの人達が盗むのが悪いのよ。それに流太を早く解放すれば良かったのに」


「そう怒らないで。お嬢さん。バレる訳にはいかなかったんだ」

そう言って未加の隣で足湯に参加して来たのは頭の長い坊主のお兄さんだった。


「……」


未加は見上げたその風貌に得体のしれないものを感じて温泉から足を抜いた。


長頭人ちょうとうじんだと流太が囁いた。











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