第7話 草食爬虫類人(1)

未加を先頭に、大貴、真子、三沢弥生の順で

筆が岳へ続く立ち入り禁止の山道を歩いていた。


「ひっ」

未加の目の前に大きなガマガエルが跳ねて、思わず尻もちをついてしまった。後ろの大貴が木の枝を拾って追い払う。


『大丈夫か?』

大貴が小声で聞く。

『大丈夫だけど、あの人が爬虫類人はちゅうるいじんだって知ってたの?』

『予想はしていたけど、確信は無かったんだ』

『あんたが挑発するから怒ったんじゃないの?謝って来なさいよ』

『謝って済む相手じゃないって』


「先へ進みなさい」

最後尾にいた弥生がいつの間にか未加と大貴の間に顔を挟んできた。

血走った目が未加を睨む。

「……はい」


未加は立ち上がったが、左足に痛みを感じてまたしゃがんでしまった。

見ると、靴と足の甲に、赤い石が挟まっていた。


「どうしたの?」

弥生が再び近付こうとする。

「何でもありません!」

未加は飛び上がって歩き出した。


この赤い石……。


白和邇しろわに神社の祠にいたワニがしてたネックレスじゃないの?

何でこんなところに。


不思議でならなかったが、今はそれどころではない。ポケットに石をしまうと、それっきり忘れてしまった。


世間では数年に一度、未知の物体や生物が話題になる。


未加の記憶では爬虫類人レプティリアンは冷酷で残忍だという印象だった。


逆らったら何をされるか……。怖い。


未加と真子のマルチウォッチも破壊され、通信手段が無く、助けを求める事は出来ない。



嫌な臭気が鼻をついて前へ進めなくなった。

「ガスマスクを、つけなさい」

口が変形しているせいか何とも喋りにくそうに弥生が命令する。


マスクをつけて良いとなると、どうやら殺す気は無いようだ。


大貴は四つ用意していたが、弥生が差し出したのは三つ。

「弥生さんは……?」

「ガスは、効かない。気にしないで」


筆が岳の周囲を、昔、川だった溝が囲っている。


その窪地から火山ガスが出ており、生き物には有害な硫化水素や二酸化硫黄が溜まっているという。


マスクを装着して窪地を歩くとまた森へ入った。


しばらくすると洞窟が見えた。

ロープウェイのゴンドラみたいな乗り物とレールがある。


「乗って」

「これに乗るの?どこへ連れて行く気なのよ!?こんなのに乗れるわけないでしょ!」

弥生の指示に、怖いもの知らずな真子はキレた。

お嬢様育ちの真子には確かに許せない乗り物だろう。

すると、トカゲっぽい物に変形していた三沢弥生が元の人間の姿に戻った。


「安心して。堺流太くんに会わせてあげるから。さっきは申し訳なかったけど、あなた達を傷つける気は無いわ。後の事はみんなと相談させて」


みんな……?

みんなってどのくらい仲間がいるのよ?


未加は身震いしながらゴンドラに乗った。


ゴンドラはゆっくり、上昇したかと思うと、

どんどんスピードを上げていく。

未加達は声にならない悲鳴をあげ続けたが、間もなく気を失った。


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