第6話 盗難事件(3)
フライングカーは山の中腹の小さな空き地に降りた。
白ワニを祀った神社の跡地だ。
百年前の地震で建物は倒壊し、今では小さな
その祠の内側に「金沢」と札が貼ってある。管理している人の名前だろうか。
さらに、ワニっぽい形をした
ヘビなら神聖な爬虫類として聞いた事はあるが、ワニが祀られているのを見るのは初めてだった。
立て札の記述を要約すると、
大昔、この地には獰猛な白い
白和邇は、元は水を
しかし、巨大地震により
村も壊滅状態になり、一部の
「ここから逃亡するなら、左の上空を使ったんじゃないかしら。警察も確か、この先の山地民に聞き込みをしていたと思うわ。右に行けば石が出土した採掘場だから、夜は人気もないし、目撃情報は期待出来ないわね」
弥生が説明すると、大貴がまた挑戦的な物言いで「真っ直ぐはどうです?」と聞いた。
真っ直ぐって、鬱そうと茂った森と、断崖絶壁の山ですけど……。
未加と真子は同時に山を見上げた。
山頂は筆の先みたいに細っている。その名も
「SSの調査部さんなら、おわかりでしょうけど、文鎮山は巨大地震の後から火山性ガスを出しているの。隣の筆が岳の敷地にも及んでいるわ。別名、不出が岳と言われるほど死者が多いのよ。フライングカーの高度でもガスが入ってくる場合があるの。オートナビはルートを外すでしょうね。右か左に飛ぶはずだわ」
「なるほど。確かにそうですね」
大貴はそれでも余裕の姿勢を崩さなかった。
持論が正しいと確信している顔だ。
こういう、遠回しに相手を追い詰めようとするところが未加は苦手だが、隣の真子は目をキラキラさせている。
格好いい?
「山地の住民の証言では飛行音は聞かなかったそうです。九十年前の年季の入った機体なら音は今よりしますから、普通なら気づきますよ。それにナビにも当時はあまり情報を入れられなかったでしょうから、回避モードにならなかったと思います。つまり、ガスマスクを着用すれば、あの山へ飛べた」
大貴は用意していたガスマスクを取り出して言った。
人が近寄らない山こそ、格好の隠れ場所だと言いたいのだろう。
未加もそれには同意した。
業務用ハンディスキャンを取り出す。
「山へ飛んだとしても、降りる場所は無いわね。向こうの埼玉側へ飛んで行ったのかしら」
弥生は表情一つ変えずに大貴の説に同調した。
「いえ、もしかしたら、筆が岳へ降りたのかもしれませんよ。先端に大きな空洞があります。山頂は……、細いですけど、フライングカーを停める広さはありそうですね。ガスマスクもありますし、一応、行ってみませんか?」
未加がハンディスキャンの結果を話すと大貴が覗きに来た。
「藤川メンテナンスのスキャンか。やっぱり性能いいな。ウチもこれが欲しいよ」
「有名なの?」
真子もつられてやって来る。
「そりゃそうさ。性能もいいし、藤川の開発部は面白い物を作るんだ。台風の雲吸い取り機とか」
ああ、あれね……。
社長の旦那さんが部長を務める開発部はメンテナンス用の機械だけではなく、部長が作りたい物を作るので、独特の感性があって評判だ。
台風の雲吸い取り機は小さな嵐なら何とか対応したが、スーパー台風には歯が立たなかった。目下、改善中だと聞いている。
「うわっ」
突然、大貴が輪から離れた。いや引き剥がされた。
未加と真子も驚いて体を引くと、三沢弥生が大貴の腹部を後ろから抱え、素早い動きでマルチウオッチを握り潰し、右手の甲に埋め込まれた豆粒みたいな身分証カプセルをえぐり出して爪の先で潰した。
あっという間の出来事だった。
「み、三沢さん?」
三沢弥生は変形していた。
光沢のある鱗、吊り上がった目、裂けた口、
鋭く、長い爪の大きな手。
体の大きさは変わっていない。ただ、見た目が、ヘビかトカゲだった。
「こいつは
その場に崩れ落ちた大貴は右手の甲から血を流しながら、
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます