第5話 盗難事件(2)
上空から関東山地を見下ろすと、広がる緑の中に所々穴ぼこが見える。
コンクリートの国内需要は途切れる事が無いので、採石場が次々と開かれている為だ。
低空飛行に切り替えて博物館の裏山に近づいた。
博物館の向かいにある食事処「満腹亭」。
館長、
盗まれた石の画像を見せてもらったが、
ヒト型の化石が石に抱きつく感じでへばり付いている。
頭蓋骨は横を向いていて外側は割れていた。
骨盤あたりまでの骨が石の表面に浮き出ていて、ちょっと気持ち悪い。
「この辺りの地層は
「まだ人骨と決まった訳じゃありません。他の生物の可能性もあります。それに、出土したのはもっと新しい地層かも知れません」
大貴の意見には冗談も入っていたと思うが、弥生は少々ムキになって否定した。
「ちゅうせいだいって何ですか?」
「地球の過去の歴史を地質や生物の進化で分けて呼んでいる区分名のうちの一つですよ」
館長はざっくりと地球の歴史を教えてくれた。
地球が誕生して生物のいない約四十億年間は先カンブリア時代と呼ばれており、その後、生物が出現した時代は古生代、中生代、新生代に分けられている。
古生代で一番古いカンブリア紀にはカンブリア大爆発と言われる多様な生物の出現があった。
そこから約一億年後、古生代デボン紀に魚類から進化して両生類が誕生し、さらに約一億年後の古生代石炭紀、ペルム紀にて爬虫類が出現、発達。
そして約ニ億年後の中生代ジュラ紀では恐竜が全盛期を迎え、白亜紀末に絶滅する。
その後、新生代になり哺乳類の進化が加速、人類が出現するので、中生代ジュラ紀、白亜紀で人間の骨が見つかれば間違いなく大ニュースになる。
関東山地は古生代、中生代は海だった為、古代魚や貝の化石はよく見つかるらしい。
今回のヒト型化石は状態良く出土していたので、移送先の大学でも新たな発見を期待していた。関係者は盗難を本当に悔しがっているそうだ。
「大発見かも知れないのに。あんまり嬉しそうじゃないですね」
大貴はわざとらしく残念そうに聞く。
「憶測では喜べませんので」
弥生はキッパリ言い切った。
大貴と弥生のやり取りを聞いていると火花が散っていると感じるのは何故だろう……。
昼食後、未加達は大貴の大型フライングカーに乗って捜索を開始した。
三沢弥生も協力を申し出て、未加の隣に座っている。
それにしても。
前席の二人がやけに楽しそうだ。
この二人、大学に入って付き合って、卒業と同時に別れたと聞いていたけど、戻ったのかな。
上昇志向の強い大貴は冷たいところがあって、未加は少々苦手だった。
まあ、真子がいいならいいか。
「三沢さん、
未加は気持ちを切り替えて隣の席に聞いた。
流太が退勤後、わざわざ博物館へ戻った事が気になっていた。
「え?あ、そうねえ。多分、忘れ物ではなかったと思うわ」
三沢弥生は途中までボンヤリと空を眺めていたが我に返って答えた。
三十代と思われる流太の上司は色白でハッキリした顔立ちのなかなかの美人だ。
「忘れ物じゃない?」
「彼はあの石を、もっと調べたかったのよ。翌日には大学の研究室へ行ってしまうから、その前にね。それを忘れ物と表現したんじゃないかしら。私がもう少し、調べる時間を与えていれば、こんな事にはならなかったと思うの」
弥生は心底、後悔している様子で深い溜め息をついた。
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