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じっと首をひねるおじいさんを見かねたおばあさんは、分かりやすく発破をかけました。
「それじゃあ、もっと近付いてみたらええじゃろ」
「そうするかのう、ほれ、おばあさんも一緒じゃ」
「はいはい、分かりましたよ」
と、こう言う流れで、2人は赤い何かに近付き、様々な角度で観察し始めます。よく見ると、それは赤い布のようでした。おばあさんが更に近付いてじいっと眺めていると――。
「そんなに見つめないでくれんか、照れくさいぞ……」
「おお、お前さんも妖怪じゃったか」
伊達に妖怪村で生活していた訳ではありません。おばあさんもおじいさんもすっかり妖怪と言う存在に慣れていました。なので、この布が妖怪だと言う事が分かってもそれをあっさりと受け入れます。
とは言え、村の外れで土に埋まっているのは普通ではないと、おばあさんは首をひねりました。
「お前さんはどうしてこんなところに?」
「俺は性格が怒りっぽいからこうして反省しているんだ」
「あら、大変ねぇ」
「それで、お前さんは赤いアレなのか?」
おばあさんと妖怪が話していたところに、おじいさんが突然乱入してきます。おじいさんにとっては妖怪の事情より、赤いアレかどうかの確認が重要なようでした。
妖怪はこの不躾な質問に気を悪くします。
「何だいつまでも俺をお前お前って! 俺はな、一反もめんて名前があるんだよ! しかも赤い一反もめんだぞ! レアなんだよ! 人によっては俺を見ただけで幸せになれるって喜ぶのもいるってのに……。それにな、赤いアレって言われてるのも多分俺だよ! 失礼な話で嫌いなんだその呼ばれ方は!」
「わ、分かった、落ち着いてくれんか。無礼だったのはほれこの通り、謝るから」
「ふん、分かればいいんだよ……」
流石に怒りっぽい性格だと自覚しているだけあって、赤い一反もめんは沸点が低く、怒りまくります。けれど、意外と律儀に質問には答えてくれるので、そこまで悪い妖怪でもないなとおばあさんは思ったのでした。
赤い一反もめんの話によると、人間界に遊びにいっていた時にたまたま発見されたのが、あの噂の発端との事。
「なるほどのう、それは大変じゃったのう……」
「ここまで話したんだから、今度はお前らが話す番だ。お前らは人間だろう。いつからここにいる?」
どうやら、赤い一反もめんはこの村に戻るのが久しぶりだったようです。そこで、おばあさんは今までのいきさつを詳しく話しました。一反もめんはその話をたまに相槌を入れながら、最後まで大人しく聞き入れます。
最後におばあさんが故郷の家に戻りたいと言うところまで話すと、そこで突然目の色が変わりました。
「……なら、俺がお前らを元の家まで帰してやるよ」
「本当かい! それは大助かりじゃ、なあおじいさん」
「ああ、一反もめんさんよろしくお願いしますじゃ」
こうしておばあさん達は一反もめんの背に乗って無事に妖怪村を脱出、故郷に戻れたのでした。
https://kakuyomu.jp/works/1177354054894124932/episodes/1177354054894390358
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