オマケ。勇者パーティのとある日常。

 


「勇者ってどんな子がタイプなのかしら」

「急にどうした魔法使い」

「なにかあったんですか?」


 とある勇者一行。神官を加えて旅を始めて数年が経っていた。

 現在、宿の中で集まって話しているのは魔法使い、剣士、神官の女子三人組である。

 話の話題にあがる勇者は戦士を連れて街を散策していた。


「最近、野営している時に勇者のいやらしい視線が減ってきたのよ」

「貴様という奴はまだ勇者を誘惑しようとしていたのか」

「おねえちゃん……」

「ち、違うわよ。私はあんなだらしないおじさんでも勇者なんだから少しはモチベーションを上げてやろうとサービスしているだけよ!」


 それを人は誘惑という。


「まぁ、確かに勇者のそういった視線が減ったのは事実だな」

「なんでアンタがわかるのよ。私より胸無いでしょうが」

「胸の話は関係ない!当てつけか?そのでっぷり着いた動きにくそうな脂肪の塊をこの場で叩き斬って欲しいか淫乱女!」

「だ、誰が淫乱よ!私だって知っているんだからね⁉︎アンタが際どいエロエロの下着買って勇者に見せつけようとしてるの!」

「あ、あれは伝統的なビキニアーマーといってだな、いざという時のための」


 ぎゃーぎゃーと騒ぎ出す年上二人。神官は特に止めるわけでもなくテーブルの上にあった紅茶を啜る。

 そのうちに衝撃波や魔法が飛び交う展開になっても障壁を張るので心配ない。……これが日常になっていることに何の違和感も持たない神官だった。


「アンタなんかに相談しようとしたのが間違いだったわ」

「ふん。くだらない話だ。勇者がタイプの女など気高い騎士道精神を持った女性だろう」

「いいえ。きっと思慮深く魔法知識の高い肉体的に豊満な女性のはずよ」


 そしてまた剣士と魔法使いは睨み合う。


「「神官ちゃんはどう思う⁉︎」」

「わ、わたしですか?」


 急に話を振られて神官は驚いて食べかけのクッキーをテーブルの上に落としてしまった。


「……んー、そうですねお父…勇者様が人格的に優れている方とはいえ男性ですからそういった欲はあると思います。前にお風呂で話していた時は、」

「「お風呂だと(ですって)⁉︎」」


 急に声の音量が大きくなる二人。

 それもそのはず。この二人は中々近づいてこない勇者に痺れを切らして混浴作戦を実行しようとしたが、先に勇者の元へ魔王軍のサキュバスが襲いかかっていたために失敗した経験がある。

 自分達を差し置いて先に神官とお風呂に入ったことに深い怒りを感じた。


「まさか勇者がロリコンだったなんて」

「神官よ。神に使える身であるお前は清い体でなくてはならない。もし勇者が迫りくるようなことがあれば私に知らせろ。叩き斬ってやる」


 万が一に勇者が死ぬようなことがあれば聖剣の担い手がいなくなり魔王軍に勝てなくなるのだが、神官を妹のように可愛がっている剣士ならばやりかねない。


「ゆうしゃさまはロリコンじゃありません。だってわたしがゆうわくしてもなにもされませんでしたから」


 神官が勇者を全面的に信頼するきっかけとなった夜の話だ。

 あの日以降、勇者はよりいっそう神官に優しく接してくれるようになった。


「神官が勇者を誘惑?誰に指示されて……」

「あー、お貴族出身のアンタにはわからないでしょうけど、教会の孤児にそういうことをさせる文化ってあるのよね。神官ちゃんもそれだとは思わなかったけど」

「でも、わたしはまだきれいなからだです」

「まぁ、勇者が神官ちゃんに手を出す可能性は低いか」


 一回り年上の勇者は長らく冒険者として活動をしてきた。

 その中で特に新人への教育は徹底していたらしい。何でも自分が新人時代の失敗で大変な目にあったからだとか。

 そのため比較的に年下や子どもには甘く優しい態度をとる。父親になったら親バカになるタイプだと魔法使いは思った。


「私や魔法使い、神官でもないとするなら勇者の好みはどういうものだ?」

「たぶん、としがちかいかうえのかたではないでしょうか?」

「でも、勇者と同い年や年上ってもうオバさんよ?男って若い娘が好きなんでしょ?」


 自分の容姿に自信がある魔法使いだから言えるが、世間一般でその話をすれば非難の的になるのは間違いなし。

 オバさんではなくお姉さんと呼ぶべきである。


「もしそうだとしたら私達では対象外なのでは⁉︎」

「くっ。こうなれば老化を進める薬でも作らないといけないわけ?若さを保つ薬なら予算も集まりそうだけど逆の作用だと資金が……借金はこりごりよ」

「しんぱいしなくてもだいじょうぶだとはおもいますけど……」


 頭を抱えて悩む二人を見ながら、神官は暢気にティータイムを再開する。

 口に出さないだけできっと勇者も二人からのアピールに気づいているからと予想して。












「はくしょん!」

「大丈夫かおっちゃん?」


 場所は変わって街中。

 俺と戦士は冒険で使う物の買い出しをしていた。


「誰かが俺の噂でもしているんだろうな」

「姉ちゃん達だな」


 宿に残った仲間を思い浮かべる。

 きっと俺への不満や悪口を言っているんだろうな。

 いつも文句言われたりキレたりされるからなぁ。


「それでおっちゃん、後は何を買うんだ?」

「聖書でも買おうかと思ってる」

「神様なんて信じないんじゃなかったのかよ」

「俺はその神様のおかげで勇者やってんだから信じないわけじゃないぞ。ただ、最後に頼りになるのは自分の力だから神頼みはしないって話だ」


 神様は見守ってくれているし、導いてもくれる。だが、最終的な決定をするのは自分自身だ。

 それを俺は失敗から嫌というほど学んだ。


「ならなんで?」

「写本みたいに書き写すためだ。何かに集中すれば余計なことを考えなくて済むからな。ハプニングがあった際も自分の精神を揺らがせないためにだ」

「流石おっちゃん。鍛える為に難しいことでも頑張るんだな!」


 キラキラした純粋な瞳で俺を尊敬してくる戦士。

 言えないよなぁ。最近になって成長してきた剣士や魔法使いにドキドキするようになったなんて。

 旅を始めた頃はただの子供にしか思えなかったのに成長して逞しくなった二人は大人の女性へと近づいた。

 年上好きだと公言してきたが、俺が年上好きだったのは子供の頃に妖艶な魔女に惚れたからだ。

 その魔女の年齢にあいつらは近づいてきている。これは改めなきゃいけないな。年下も侮れないと。

 特に最近は遠慮がなくなってきたのか無防備な姿が多い。わざとか?って思うが、相手がこんなおっさんだからないだろ。

 間違っても襲いかかるようなことをしない為に鋼の精神力を鍛えないとな。

 ついでに戦士にも写本をさせよう。まだまだガキンチョと思っていても男だ。思春期の男子なんて性欲を持て余した獣だからな。……戦士は物理的にも野獣になるから特にな。


 冒険者パーティが男女の関係で喧嘩して解散することは珍しくない。

 普通の奴らならそれでいいかもしれないが俺達は魔王討伐の使命があるんだ。戦力がダウンするようなことがあっては困る。


 そうならないためにもケアが必要だ。


「では、聖書も購入したので戦士は先に宿に戻って神官ちゃんと遊んでこい」

「わかった。おっちゃんはどうするんだ?」

「俺は情報収集のために酒場に行く」

「……また化粧が濃ゆい姉ちゃん達と遊ぶのか」

「お小遣いを渡すから内緒だぞ?」

「へいへい。オレもいつか連れて行ってくれよな」


 不貞腐れた顔で帰っていく戦士。

 そうだよな。いずれお前も連れて行ってやるよ。可能性は無いとは思うが、俺みたいに年下にドキドキして神官ちゃんに恋したりしないように。


 さて、久々のお店を楽しみますかね。













 この後、問い詰められて全てをゲロった戦士のせいで勇者は魔王軍より恐ろしい二人と対峙することになるのだった。




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年の差勇者パーティの恋愛模様。 天笠すいとん @re_kapi-bara

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