SPEEDY☆LOVERS!~速攻!即愛!即攫いっ!?~

低迷アクション

第1話

「えーっと、そこまでです!“泉の悪堕ち妖精”さん!!貴方の出す瘴気が、この付近の森に住む人達に多大な悪影響を与えています!お覚悟をっ!」


“魔王退治”の途中で立ち寄った村で“困っている事があります”と村人A、Bからの

通報により、人の良い、てか、だから選ばれし者なのか?“女勇者”は話を聞き、


「許せないっ!」


とか、何とか言って宿屋を飛び出していった。仕方なしに追っかける事になった勇者の一行である“戦士(女)”と“魔戦士(元魔族の雌型魔物)”は体を休める暇もなく、

彼女の後に続き、


泉から出てきた全体的に白い薄布纏いの女神と対峙していると言う始末。


「大人しく、悪さを辞めるというのなら、この剣を収めましょう。ですが、そうでないなら…」


剣を向ける女勇者に女神は何も答えず、ジーッとした視線を向け、彼女の全身を舐め回すように観察している。


戦士と魔戦士はと言えば、スパッツ風の短いズボンに包まれた女勇者の形の良い尻に夢中だ。


やがて…


「うんっ!ゴーカクですね!」


「えっ?ちょっ!キャーッ」


と言う妙な言葉で相手が頷き、水を多文に含んだ竜巻と女勇者の悲鳴が同時に起こり、水全てに覆われた視界に2人が正気づく頃には女勇者と泉の女神の姿が消えていた…



 「あっれぇえええ!?ちょっ、ヤバいよ?魔戦士!勇者、攫われちゃった。くっそう、

今日も健康かをチェックするお尻見健康法を試してたら、この様だよ!」


「全くだよ、戦士!アタシも勇者のお尻を見ながら、水游(水遊び)の時にはどんな衣装が

似合うかを考えてた。ほら、あの防具屋に売ってた“マジヤベェ水着”あれなっ!?」


「あーっ?あのお尻と胸の所、ハート型にくり抜いてある奴ね。確かに、勇者に似合うよね!絶対、エロ可愛だよ!」


この会話から察するに、女勇者の冒険の一行は少し、とゆーか、かなり?彼女に対し、

仲間以上の“過剰な親しみ”を持っている様子だ。


そんな二人の後ろに、よろめきながら立つ影がある。


「お、お前等、馬車の馬が疲れたという理由で、俺を見張り番に残し、ようやく村に辿り着いたら、勝手に魔物退治に行くわ、オマケに遠目からにしか、わからなかったが、勇者攫われたよな?どーすんだよ!」


この冒険パーティ唯一まともな夢追い人(遊び人、唯一の男)の“ジョン”が吠えた。

周りが異常すぎて、夢追い人なんて、フワフワした役職なのに、一番言っている事が正しいと言う有り様だ。


「あ、ジョン、生きてたのー?ふーんっ、残念(小声で)…」


「何だよ、魔物だらけの谷で、馬に呪いかけて、置き去りにしたのに、失敗かよ?

ざんねーん」


「おいっ、仲間に対しての第一声がそれかよ!マジか?お前等?信じらんねぇぞっ!‥‥全く、とにかく、それは置いておいて、これから、どうする?」


ジョンの声に魔戦士が指を一本立てる。すると糸のような紫色の光が、ゆっくりと森の中に流れていく。


「これは勇者の体についた、魔の蜘蛛糸、こーゆう事もあるかと思って、肌に忍ばせておいた。追いかけるよ」


走り出す2人の女達に、一応は納得した者の、ハッと気づいた夢追い人ジョンは、

追いかけながら、絶叫する。


「なぁっ、おい、さっすが、魔戦士ぃっ!なんて納得しかけたけど、大丈夫?肌につけたっていうのは、入浴中、もしくは、ちゃんと相手に断って、つけたもんだよな?他の目的とか、


邪悪な意図はないよな!?オイッ?」


彼の言葉に答える声はない…



 凄まじい水音に女勇者は目を覚ます。辺りは森の中…高速で動く景色と拘束された自身の体で事態を把握する。顔を少し動かせば、唇が触れあうばかりの至近距離に女神の整った顔があった。


森の中を竜巻のような塊で自分を運ぶ女神の目的は何だろう?村人達の噂はどんな話だった?…


時を同じくして、紫の光を頼りに勇者を救出に向かう仲間達の間でも、同じ議論が交わされていた。


「で、俺はほとんど詳細を知らねぇが、その湖の女神様は一体、どんな悪さをするんだ?」


「えーっと、確か昔、人間の女性と恋に落ちた女神がいたんだけど、相手が死んじゃって、叶わぬ恋に嘆いて、


何かそれ以来、闇堕ち?した彼女は森を通る女性を追いかけたり、色々、チョメチョメな事しちゃうみたいよ?」


「へーっ、ふーん、うん、うん?そうかって納得出来ない自分がいるんだけど?あれ、可笑しくない?女性と女性の恋?いや、聞いた事あるけどさ!そんなに普通、ごく当たり前に

伝説として組み込まれちゃう感じ?えっ?魔戦士、どーゆうっ?」


「ジョン!お前、この性別自由、ジェンダーフリーな時代に何て事をっ?」


「えっ、ジェンダー?えっ?さっきから色々可笑しくね?頭の回転がついてかねーよ?

えっ、間違ってた?俺の32年の人生が間違ってたの?」


冒険者一向の会話から、勇者に戻す。


ジョンのようなツッコミ役がいない状況では、理解が出来ない女勇者としては、とりあえず、自分を抱えて離さない女神自身に聞くしかない。なるべく丁寧に、立場を低くした感じでだ。


「あのーっ、湖の女神さん、先程は色々失礼しました。で、一応聞きたいんですけど、何処に向かってます?これ?」


「愛の巣です!」


勇者の恐る恐る声にギラつき目線、粘つき舌で、頬を楽しく嘗め回す女神が答える。


「あ、愛?ちょっと待って下さい!恋愛とか始まってもいないじゃないですか?その、後、私達、女同士です…ふぐぅっ」


意義を唱えた女勇者の唇に女神の唇が押し付けられる。甘く、水っぽい滑らかな感触が口内を支配し、息が出来ない。呼吸困難で意識が途切れる前に相手が口を離す。


咳き込む自身の耳元に冷たい声が響く。


「何か言いました?」


「い、いえっ、あの、でもふ、2人出会ったばかりですしね、ここは、まず、お互いの事

知り合ってですね。あっ、そうだ、自己紹介とか!」


「そんなもん、体重ねりゃ、自然にわかる!」


「えっ、言葉ぞんざい?てか、嫌だ、助けてぇええええっ!」


女勇者の声は虚しく森の中へ…



 響かなかった!


「あ、勇者の声、聞こえたね!」


戦士が短く告げ、魔戦士も追跡糸が残り短い事を手で示す。


「よっし、一気に奇襲をかけて、俺達のリーダーを救うぞ!」


ジョンの威勢の良い声に何故か黙り込む女性陣…


「どうした?えっ、そこは“よし、アタシ等の力見せてやる~!”的、勢いがつく所じゃないの?」


「いや、ね~?それなんだけどさ?なぁ、魔戦士?」


「…う、うーん…」


「え、何っ?そんな熟考するほどの事?だって、楽勝だろ?おたく等なら、俺、戦闘スキルないから、駄目だけどさ!こないだだって、魔王差し向けたドラゴンものの数秒で倒してるじゃん?あんな、エロ女神なんて、おちゃのこさいさいやん!」


「いや、問題はそこなんだよね?」


「う、うん?どのあたり?魔戦士?んんっ?」


夢追い人ジョンの頭を嫌な予感が占めていく。彼の疑問顔に戦士がしっかり答える。


「何って?そりゃ、簡単だよ。この冒険が終わる頃?もしくは、その最中に、女勇者とウチ等は、そーゆう関係になる訳じゃん?(ジョンが目を剥く)


だから、その前にさ。その予行演習的な場面が繰り広げられるこの瞬間を逃していいモン

かね?と疑問に思う訳さ!」


「えっ?助けないの?わりかし、信じらんないんだけど?」


「いや、助けるよ!助けるけどさ。ちょっと“見”に徹してもいいのかなと?」


「駄目だねっ!?お前等の邪悪な願望も含めてさ、えっ、てか一応聞くけど、俺、追加メンバーだから知らないけど、仮にも戦士は初期からいた人でしょ?何か、選ばれしとか、導かれし者だよね?正直、選考基準を疑うよ?」


「勿論、選ばれし者だね?他にも何人かいたけどさ。うるさいのは、全部、途中で謎の事故死とか、一生お呼びがかからないくらいに堕落させる、酒&阿片窟の酒場に押し込んであるよ?」


「うん、よし、わかった!だが、自由気ままな職業、色々、遊んできた経験から言うわ!

それは愛じゃないな!うん!よくわかった。もう、任せてられんわ!」


サラッと喋る戦士に寒気を感じるが、それ所ではない。2人の邪悪な旅の一行には、もう付き合ってられない。踵を返して走り出す。


「おい、ジョン!生意気に抜け駆けか?適当な名前の癖に、ぜってぇっ、

どっかの飼い犬ばりに呼びやすい名前の貴様がぁっ?」


「うっさい、もう、めんどくせぇわ!お前等、明日から魔王の配下に加われ!」


「こちらとら、元魔族だわ!よーし、戦士!あれだな?とりあえず、ジョンの足に風化、もしくは腐食の呪法を!」


「オッケー、ハンドアックスで足折るわ」


「いや、折るどころか、千切れるからねっ!?ハンドアックス?要は手斧だからね?

てか、止めろっ!それどころじゃねぇって!」


「・・・・・・・」


“無言怖っ!?”と恐ろしい表情で追い縋る女戦士達に、ジョンは回避系スキル“俊足(逃げ足)”を最高レベルまで高めておいて良かったと切に思った…



 「ちょっと、湿ってるけど、絡み合うには良い感じのしっとり具合だと思いません?」


「えっ?(女神の抱擁が正に水増しでキツくなる)あっ、ハイッ、そうですね!」


嬉しそうに頷く女神が勇者を連れてきたのは、真っ黒な水が溜まる何処かの城跡…

肌に伝わってくる寒気は女神が放つ魔力、ここは彼女に最も適したフィールドという事だろう。


(せめて“魔封じの剣”があれば…)


しかし、その武器は何故か今日に限って、柄に収まっていなかった…何故?疑問に思う間もなく、女神が自身の肩に手をかけるのと暗闇の中、怒声、悲鳴?どっちにしろ大きな声を

上げた旅の仲間達が飛び込んできたのは、ほぼ同時だった…



 「ま、魔封じの剣を予め抜き取っていたぁっ?それも、おたく等の言う、お、大いなる観察のためだとっ!?」


戦士にガッチリ首を絞められ、そろそろ棺桶に入るまでの秒読み状態のジョンは時間稼ぎにした会話が恐るべき事実を引き出した次第…


肉付きの良い戦士の体上部が背中に当たる感触は非常に心地よいが、それ所ではない。


「つまり、あれか?そいつを勇者に渡せば、敵の女神も一撃という事か?」


自分の前で剣を弄ぶ魔戦士が頷く。しっかり握れないのは元魔族の血だからか?しかし、今は…


「よし、お二人さん、今すぐそれ持って女神と勇者の元へGOだ!そんで、救出、

万事解決!」


「でも‥‥」


「可愛く小首を傾げてる場合じゃねぇっ!魔戦士!!考えろ!GO意泣き愛、あっ、間違えた合意無き愛など、最終的にはお互い虚しいだけだ!アブノーマルでも、ノーマルラァーブでも、大事なのは、ハイッ!〇〇いの〇〇ち!〇の中に入る言葉は何?」


「あっ、即攫いの即堕ち!」


「ハイッ!戦士不正解!てか、馬鹿!どーして、そーゆう危険&不穏なワードばかり持ってくんの?お前ーっ!?そうじゃないだろ?そもそも、ふぐぅぅうっ」


「てめっ、誰が、馬鹿だとっ?」


戦士の締め付けが強くなったのと足元がグラつくのは同時多発…見れば、魔戦士の指元がから出ている紫が自分達の足元…ああ、察し…


そのまま気持ちいい位の浮遊感を味わったジョンと冒険者一行は水色の女神にガッチリ拘束されている勇者に対峙したという次第…


「皆、助けに来てくれたの?良かっ…ふぐぐぐぐ」


「私の愛を邪魔にするとは許すまじ!全員、ここから生きて帰れると思うな!こうなったら、この子と添い遂げる!」


喜ぶ勇者の口をガッチリ塞いだ水の女神が高らかに宣言!不味い!このままでは、勇者が窒息死!考えろ!力と魔法はないが、世渡り経験豊富な自身を活かして…!!…ジョンは即興の思いつきを口にする。


「OK!女神様、ここは1つ賭けをしないか?この魔戦士の持つ剣が一本ある。これをお互い刺し合って、立っていた方の勝ち、勇者は好きにする!どうだ?」


しばらく、こちらを見渡した女神が頷く。自分はともかく、2人の女戦士達に容易ざらなるモノを感じたのだろう。


魔戦士から魔封じの剣を受け取ったジョンは、しばしの躊躇いの後、一気に胸を刺し、そのまま倒れる。それを見た女神が嬉しそうに笑い、戦士が抜き取った剣を自身の手元へ引き寄せた。


「全く、笑わせますね。貴方のお仲間は?一度、魔に染まった者が剣ごときで倒せるなど…」


言葉が途切れ、ゆっくり、その体が崩れ落ちる。魔族を辞めた魔戦士でさえ、嫌がる魔封じの効力は、女神にとって、劇薬に匹敵する得物だった…



 次に目を開けたのは教会でも、天使とか神様のいる天界でもなかった…


「良かった!…」


と心配そうに覗き込む勇者と、後ろで舌打ち一つ顔を歪ませる女戦士達の姿がある。

魔封じの剣は人間には効かないと聞いていたが、刺した時の感触は本物…二度とこんな

賭けはしねぇっ。


(まぁ、それでも…)


目の前で喜びのあまり、若干涙ぐむ勇者を見ると、やって良かったと言う感慨に包まれるのも事実…


そう、“達”と自身の思考が表したのは、魔戦士と女戦士に加えて、何だか水色っぽいカラーの髪が見えたのはきっと妄想…勇者が


「何だか不幸な身の上らしいですし、心の傷を癒す意味でも、水の女神さんも一緒に冒険する事になりましたー!」


と明るく喋るのは空耳!


「よろしくお願いしますー…(小声で)テメッ、よくもイカサマ仕掛けやがったな?覚えとけよ」


「まぁまぁ、ジョンも女の子ばっかりのパーティで胸がいっぱい、あっ、これはアタシ等かな?感無量って所でしょー?ねっ、魔戦士!」


「そうだね。まぁ、とにかく楽しくやろう!…(小声で)この森を少し抜けた所に、底なし沼あるから、野郎はそこで…(と女戦士、女神と目配せ…)」


と女共の狂言を聞くに及び、紛れもない事実とジョンは知覚し、1人無邪気に笑う女勇者と自身の身を守ると固く心に誓った…(終)

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