異世界交換

新坂つばめ

第1話

 皆は、異世界というものを知っているだろうか。最近では、漫画やアニメなどで知られている。簡単に言うと、自分がいる所とは異なる世界のことだ。たまに、違う世界へ行きたいって思うことってあるよね。…え?ない?あ、そう…。ま、それはいいとして!この物語にも、違う世界へ行きたいと思う少年達がいてね。その子達の思いを、僕が叶えてあげるってとこから始まるんだよねー、この物語。ちなみに、ここに書いてるのは僕の日記だから、これを読んでるってことは成功したってことだから、もういらないんだよね。売るなり、焼くなりしていいよ。…自分の日記に問いかけとか入れてる時点で成功確実なんだけどね。君たちが読むこと前提だから。ま、僕の活躍を見ててよ!きっと、すっごい楽しめると思うからさ!じゃ、早速行ってくるから、じゃあね!

              空間の神 ハルシア





「みーん、みんみんみんみーん…」

セミが鳴く、蒸し暑い日だ。

「ピピピピ、ピピピピ…」

カチッ

目覚まし時計を止める。

「…今日は何日だ……八月の二日か…」

目覚まし時計の針は十一時半を指す。…寝過ぎた。俺はベットから出て、一階へ降りる。母は…居ないようだ。テーブルを見ると、

「起きたら冷蔵庫にチャーハンあるから、チンして食べなさい お母さんは買い物に行ってきます」

と、置き手紙がある。

「こんな真夏にチャーハンかよ…」

正直そばとかそうめんが食いたかった。だけどコンビニとか行くのはめんどくさいし、なにより金がない。諦めてチャーハンを食うしかない。

『ピンポーン』

家のインターホンがなる。

「ん?訪問販売か?…めんどくさいな」

せっかくチャーハン食ってたのに。そう思いながら玄関へ向かい、ドアを開ける。

「郵便でーす、笠西さんのお宅宛てに手紙が届きましたー」

「…あの、郵便受けに入れてもらえます?」

「あ、郵便受けあったんですねー。でもここまで来ちゃったんで、受け取りお願いします」

ぽんこつか、この郵便局員は。わざわざ手紙ごときで玄関まで来るか?荷物ならまだしも手紙って。はんこも押す必要ないのに。

「あ、はい。ありがとうございます」

「ありがとうございましたー」

そう言って配達へ戻る郵便局員。俺は強くドアを閉めた。

「ムカつくな、あいつ。ちょっといたずらしとくか。アスポート」

「あぁーーー!!!!」

外でさっきの郵便局員の大声が聞こえる。今頃、徒歩で郵便局まで帰ってるだろうよ。

「というか手紙か、珍しいな」

宛先には「笠西秋矢様」と書かれている。俺宛に手紙、嫌な予感しかない。俺は恐る恐る手紙を開けた。そこには二つ折りにしてある紙が入っていた。「異世界交換

あなたは、異世界へ行きたいと思ったことがありますか?僕がその思いを叶えてあげましょう」

その時、光が秋矢を包んだ。




同刻、王都オルキス。一件の酒屋。勇者カルセは、仲間と酒を飲んでいた。

「ぷっはぁー!やっぱりここのビールが一番だね!」

「そうだな、生き返るポーションのようだ」

「嬉しいこと言ってくれるじゃないか、あんた達。追加でもう一本、無料で飲ませてあげるわよ!」

「「「あっはっは」」」

楽しそうに酒屋の女将と話しているのは、たった今、魔王を倒してきた勇者のカルセと、その仲間である剣士のタナスだ。その後ろの方では、もう二人の勇者パーティーがいた。女魔法使いのライナと、女回復術師のリコルだ。

「ほんと、あのバカ勇者は魔王を倒した後でもへらへらしてんだから!」

「ははは…ま、まぁ魔王は倒したからいんじゃないかな?」

「はぁ…それはいいけどさ」

『カランカランカラン』

店のチャイムが鳴る。お客さんだろうか、今日はここが賑わうな。だが入ってきた者は、座る動作など見せず、カルセの顔を見るなり近づいてきた。

「ん?なんだ?」

「お前、勇者だよな?」

初対面で馴れ馴れしく話しかけてくる。見た目は十歳ぐらいの少年。だがフードを被っていて顔が見えない。

「まぁ勇者だけど」

「これは手紙だ。受け取れ」

そう言うと、カルセに少年は一枚の紙切れを差し出し、そして店を出て行った。

「なんだ、あいつ。ガキのくせに生意気だな」

タナスがイラついている。多分酒が回ってきたんだろう。

「異世界交換…なんだこれ」

「ん?なんだそれ?」

「あなたは、異世界へ行きたいと思ったことがありますか?僕がその思いを叶えてあげましょう…だって」

その時、カルセを光が包んだ。

「えっ!?ちょっと、何!?」

「お、おい!カルセ!」

「ええ!?何これ!?カルセ、大丈夫!?」

「カ、カルセさん!」

光は、勇者を消した。




秋矢は光から解放された。

「まぶしぃ…」

目を開けると、そこは何もない草原だった。

「え…?家は…?チャーハンは…?」

辺りを見渡しても、家はなかった。当然チャーハンも。




カルセは光から解放された。

「くっ…なんだこれは」

目を開けると、そこは大都会のど真ん中だった。

「は…?酒屋は…?ビールは…?」

辺りを見渡しても、酒屋はなかった。当然ビールも。



そう、二人は互いの「異なる世界へ行きたい」という願望が、具現化したのだ。つまり二人は、

「異世界を交換」したのだ。



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