楽団解散

安良巻祐介

 螺頭鳥ラズチョウ眩楽団ゲンガクダンが解散してから、今年でちょうど十周年。

 公演をやるたびに、その辺りの人間や物品を物理的かつ不可避に彩り、捩れさせてゆく彼らの演奏はいつも歓迎されてはいなかったけれど、それほどの歪みと痛痒をともなうからには、身も骨も精も魂も擲った音楽活動であったに違いない。

 除疫所に捕捉され、長い追跡劇の果てに、ノデラの山あいにある天然の奈落へと追い詰められて、サア投降せよと迫られた楽団は、蚊柱のようなそれぞれの演奏者の曖昧模糊とした人型を、この時とばかりワッと飛び散らせ、まさしく文字通りに解散してしまった。

 それから十年。

 螺頭鳥眩楽団の演奏によって捩れる被害者のいなくなった代わり、世間全体に何かしらの歪みと捩れとが生じ、蔓延してしまったようである。

 もしかしたらあの忌まわしい楽団は、この世全てに広がろうとしていた歪曲を、せめて一所に、見えるように集約して留めおこうと努力していたのではないか。

 そんな風に、痙攣症状の止まぬ顔で、今さらになって考えたりもしている私なのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

楽団解散 安良巻祐介 @aramaki88

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ