抱冥の徒

安良巻祐介

 砕いても、砕いても、欠片かけの全てが、乾坤図にない星や月のかたちになってゆくのです。

 その彫刻は。

 夭折したわたしの父が、死んでしまった後になっても、毎晩毎夜彫っていた、病気のようなものでありました。

 いつの間にか父の自室から寂しい影が去り、其処に残された、深い藍色の、人のような人でないような、恐ろしい形。

 あまりに忌まわしくて、ずっと見ないふりをして、それも出来なくなったから、こうして何度も、何度も、砕いて壊したはずだったのに。

 百年ほど経ってから、ようやく気がついた。

 私もまた、父と同じように、それを彫っていたのだと。

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抱冥の徒 安良巻祐介 @aramaki88

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