剣と魔法の最終戦争(ラグナロク)

Nightcore07

第1話 半魔の少年 

かつて、グラシア大陸には、「魔物」と呼ばれる四体の上位魔人とその配下の下位魔人と魔獣によって支配され、人々は魔物の脅威におびえながら細々と暮らしていた。魔人たちは邪知暴虐の限りを尽くし、この世に君臨していた。

しかし、それは決して長く続くことはなかった。

聖暦56年「アルトリウス=アーサー」、通称「聖騎士アーサー」と「聖剣エクスカリバー」、そしてアーサーを含めた七人の仲間達が現れ、次々に魔物を倒し始めのだ。

アーサーらによって、上位魔人以外のほとんどの魔物が殲滅され、人々はアーサーの下へ集い国を作った。それがここ「アルバルト王国」である。

アーサーは「アーサー王」となり、アーサーの仲間だった6人の仲間達は「円卓の騎士」とよばれ民から崇拝されるようになっていた。

建国からおよそ10年、魔人との闘いはいまだ終わっていなかった。

上位魔人には翼もあり、生命力も高いため、毎度逃げられてしまい、とどめを刺すことが出来なかったのだ。

そんな折、一人の女性が彼らの前に現れる。名を「マーリン」。

彼女は魔法という不思議な術を使い、アーサー達と共に次々と魔物を倒していった。そして、ついに魔人を倒すことに成功し、その時アーサー王はエクスカリバーを国の中央にある「ケルト森林」の丘に突き刺し、魔物を近づけない結界を創成した。

そうして、世界は平穏を手に入れた—————はずだった。

聖暦71年(人類が暦を付け始めたのを聖暦1年としている。)、アーサー王が突如、原因不明の病に倒れ、数日後に息を引き取ってしまう。当時アーサーの妻となっていたマーリンを含め、国民全員がその死を嘆いた。魔人を封印してから5年後のことだった。

しかし、その1か月後。戦いが起こる。実はアーサー王を殺したのはマーリンで、それに激怒した円卓の騎士とその部下が、マーリンの住んでいた城へ攻め入ったのだ。当時マーリンは王都からもっと離れた西の都「ロザリス」へ出向いていた。

マーリンは仲間の魔法使いたちとこれを迎撃。双方に多大な被害を出しながらも、

最終的にマーリンが自分を依り代に大結界魔法を展開。

国土は2つに分かれ、同時に国も二つに分かれた。

それが現在の剣の国「アルバルト」と魔法の国「ロザリス」となり、


「約500年にわたる、長い闘いの歴史が幕を開けることとなった——、か。」


———アルバルト王国 ユルバ———

そう言って少年は本を閉じる。「ふわあぁ」大きく伸びをすると、強い風が窓をたたいているのが分かる。

「あ、今日は森に行く約束してたんだ!」立ち上がり、駆け足で部屋から出る。

今日は子供たちと森に行く日だった。集合の時間目であと15分もない。

玄関の扉を勢いよく開き、集合場所まで全速力で走っていく。。

少年の名は「テオ」。金色の短い髪に透き通った青い瞳をしている。

ユルバは王族と貴族以外に苗字はないため、ほとんどの人に苗字はない。

テオは、生まれてすぐに両親に捨てられ、物心ついた時からずっと、ここ「ユルバ」の街の小さな孤児院で暮らしている。

今年で14歳になり、孤児院では最年長だった。

「本当はこの年には剣術学校で頑張っていたはずなのに、今年もそれは無理だったなぁ。」苦笑しながら彼はつぶやく。


ここは剣の国「アルバルト」。正確には「アルバルト王国」。

王宮のある王都「へスティア」を含め、20の街とたくさんの村々で形成されている。隣国の「ロザリス」とは常に戦いと休戦を続けていたが、ここ10年ほどは大きな戦いもなく、休戦状態となっていた。

そもそも、なぜこの国は剣の国とよばれているのか?

この国では6歳になると「初振り《はつふ》」と呼ばれる一年に一度開催される剣の適正を確かめる試験に参加できるようになる。これは「始まりのつるぎ」という特殊な剣を使って行われる。「始まりの剣」は「鐵玉くろがねだま」という特殊な鉄で作られており、この剣は「剣圧」という人が体内に宿すエネルギーに反応し、使っていくうちに使用者の剣圧によって剣が進化する。

「剣圧」の量や波長には個人差があり、一定量の剣圧があるものが振れば「始まりの剣」の刀身が青く光るため、これを振ることによって剣への適正を確かめることができる。

「初振り」で適正ありと判断されると、そのまま王国騎士団になるための士官学校へ推薦され、「剣士」と呼ばれるようになり、国を守る騎士になっていく。

しかし、当然ながらそうでない者たちもいる。というか、大半はそうだ。

剣の適正がなかった人たちは「アフタール」と呼ばれ、騎士以外の仕事をして暮らしていた。が、10年前、アルバルトとロザリスが「休戦協定」を結んだ際に記念として開発された武器「魔法剣」によってその状況は一変した。

魔法剣は一定の波長の剣圧を込めることによって、それぞれ、火のフレイ・ソード、水のアクア・ソード、風のシルフ・ソード、雷のトニト・ソード、土のサート・ソードに進化する。

これによって、アフタールの中からも騎士になるものが現れはじめた。

この魔法剣によって騎士になった者たちは、剣士に対して「属性持ち《レグナー》」と呼称された。「属性持ち《レグナー》」というのも、剣術には火や水といったそういうと呼ばれるものが存在しないため、そう呼ばれている。また、魔法剣は「始まりの剣」を進化させた者には扱うことが出来なかったというのも、特徴的だった。

こうして選抜された者だけがなれる「王国騎士団」の騎士達を人々は尊敬し、子どもたちはみな憧れた。

これらのことが、この国を「剣の国」たらしめている要因であるといえる。


そしてテオもそんな憧れを抱いた一人だった。小さいころから将来は騎士になりたいと思い何度も適性試験を受けた。が、結果は不合格。

魔法剣の適正もなく、先日不合格の通知が届いたところだった。

「はぁ……」自然とため息が漏れる。僕もかっこいい騎士になりたかったなぁ。

「誰かを守りたい」という、思いが彼は人一倍強かった。

しばらく走るとやがて森が見えてくる。入り口には数人の子供たちが待っていた。

「ごめんね、おくれちゃった。」テオに気づくと子供たちは手を振ってくる。

そして、「遅いよー」「待ちくたびれた—」口々に文句が始まる。

「ごめんってば、じゃあ早速出発しようか。」

「やったー!」「はやく! 早くいこー!」子供たちは、待ちきれないのか今にも走り出しそうだ。「あんまり、遠くに行っちゃだめだからね?」

「わかってるってー」「みんなー行くぞー!」「「「「おーー!」」」」。

そう言ってみんな駆け出していく。「あ、ちょ、はぁ…… まぁいいか」

テオも走り出そうとするとギュッと袖口をつかまれる。

「テオ、一緒に歩こう?」今年で10歳になるレイニーだ。

レイニーは今日の子供たちに中では年長で黒い髪を腰まで伸ばしている。

「そうだね、一緒に歩こうか。」「うん!」

そうして、森の中をレイニーと二人で歩いていく。

いつのまにか、空はどんよりとした曇り空になっていた。


        ×      ×      ×

———王国騎士団 ユルバ支部作戦会議室―——

「部隊の配置は!?」「ただ今、行っております。」「住民への避難勧告はすんでいるのか!?」「残り、三割ほどです!」「急がせろ!」「了解しました!」

今、ここ王国騎士団ユルバ支部はかつてない慌ただしさだった。

その理由が結界師による「レルム森林にて、下位魔人クラスのエネルギー反応が確認された。」という報告、結界師とは王国を守る結界に干渉し、結界内の異変を察知することが出来る。結界師は各支部に一人ずつ配置され、結界師には結界内であれば結界師同士で通信を行う能力があるため、今回のような事態にも対応できるはずだった。

が、下位魔人となると話は別である。下位魔人とは上位魔人の下位互換で翼がなく、知能も低いが、攻撃力や凶暴性においては上位魔人にも引けを取らず、十二分に人類の脅威となってきた。だが、最後に確認されたのはもう70年も前である。

いくら、ユルバが国境周辺の街で他より増強がされているとはいえ、下位魔人となると話は別である。

さらに、今日は王国騎士団の最高戦力「円卓騎士団」の定例会議ですべての≪二つ名≫と≪一つ名≫がユルバを含む各支部から王都へ招集されていた。

まさしく状況は「最悪」だった。そんな中、部屋の一角にある4人用テーブルでは

兵を指揮する指揮官たちによる作戦会議が行われていた。

「下位魔人と言えば≪二つ名≫か小隊規模の≪一つ名≫によってしか倒せないといわれていますよ!?」一人の若い指揮官が言う。

「なんだと? 今ここには≪二つ名≫はおろか、≪一つ名≫さえいない……。」

「その通りだ、我々には現状を打破するすべがない…… しかし、なんだってまたこのタイミングで魔人など……?」

「最後に確認されたのは70年も前だろう?」「それにっ、もっと早く伝えてくれれば!」「今、それを言ってても仕方がないだろう。」「しかしっ……」3人とも平静を失いかけていた。当然だろう、予想だにしなかった脅威の出現に対抗できないとなればそうなっても無理はない。

が、そうしていても何も変わらない。と、指揮長官であるダーバリスは口を開いた。

「待て、取り敢えず今できることをするしかない。本部からは≪二つ名≫の

疾風しっぷう≫を向かわせたと連絡が来ている。それまで、耐えるしかあるまい。」

「なるほど、あの≪疾風≫か。……だが待て、いくら≪疾風≫といえど王都からここまで30分はかかるぞ。」

「なっ、30分!? か、下位魔人相手には、盾部隊でも30分は持たないですよ……。」「おそらく、死者も出る……。 それでも、30分は無理かもしれん。

相手は、あのアークデーモンだと聞いたぞ。」

「あ、あの「黒毛の悪鬼」ですか?」「そうだ……。」

アークデーモンとは、黒い体毛に白い角、体長は最大が10メートル。巨大なこん棒を装備し、火も吐く、凶暴性・攻撃力では下位魔人の中でも頭一つ出ている魔人だった。

「……だが、やるしかない。我々は逃げるわけにはいかない。誇りある王国騎士団の騎士として、民を脅威から守るのだ。」

この言葉で他の指揮官もようやく落ち着く。

「諸君らは部隊の配置が終わり次第、騎士たちにこう伝えよ。「耐え忍べ」と」

「「「了解しました!」」」返事をし、指揮官らは部屋から出ていく。

一人机に残ったダーバリスは深く長い息を吐く。

そして、「頼んだぞ……。」そう呟いた。


        ×      ×      ×


———レルム森林北西部―——

「攻撃来るぞ!」「退避! 退避ー!」アークデーモンの口から吐かれた火が接近していた者たちを襲う。それをギリギリのところで避ける兵士たち。

指揮官から時間を稼げとの指令が出て、15分。

第一防衛ラインの騎士たちは今、まさしく魔人と「死闘」を繰り広げていた。

盾部隊による防御と、隙をついて「属性持ち《レグナー》部隊」と大剣使いによる攻撃を行っているが、「何とか耐えている」という状況だった。

基本、王国騎士団は各支部に八人を一部隊として、それぞれ六部隊ずつ配置している。国境付近のユルバは増強されているため、八部隊が配置されていた。今回はそのうちの三部隊が魔人の足止めをする第一防衛ライン、それ以外の五部隊は、三つが第二防衛ライン、二つが住民の避難を行っていた。

しかし、その第一防衛ラインが今、壊滅させかけられていた。

決して、この者達が弱いわけ訳ではない。

全員、鍛え抜かれた「騎士」なのだから。

……ただ、魔人がのだ。

「レベルが、レベルが違いすぎるっ!」盾の一人がぼやく。

「≪二つ名≫は!? ≪二つ名≫はまだなのか!?」もう一人も悲壮な表情で叫んだ。「だめだ……、指揮官からは「あと15分はかかる」と……。」

「15分だと!? ふざけているのか!? ……無理だぞ、あと15分も時間を稼ぐのは……」兵はすでに満身創痍。盾部隊のほとんどが剣圧を使い果たしている上、

攻撃を担当する大剣使いや属性持ち《レグナー》も立っているのがやっとといったところだった。

「くそっ、早く、早く来てくれっ……。」盾部隊の隊長ゴードリッヒは悲痛な表情を浮かべる。

その時、アークデーモンの棍棒がゴードリッヒを襲い、ゴードリッヒは盾ごとフッ飛ばされ地面に叩きつけられる。

「隊長ーー!」兵士たちは叫ぶ。「く、そ……」ゴードリッヒはそのまま気を失ってしまった。


———同刻 レルム森林西部―——

ちょうど、兵士たちがアークデーモンと交戦しているとき、そこから少し西側に離れた場所を高速で移動している一人の男の姿があった。

男の名は「ホムラ」。またの名を「≪疾風≫ホムラ」。

黒い髪に赤い目、全身を黒いコートで包んでおり、腰には白に緑で模様が描かれた太刀を差していた。

「……ちっ、遅かったか……」向こうに上がった砂塵を見て舌打ちをする。

ただ、ホムラは本部の想定ではまだ森に着いてすらいないはずだった。

だが、どういうわけかすでにホムラはここにいた。

ホムラは魔人の場所へ向かおうと方向を変える。

ー——まずいな、間に合うか? そもそも、なぜこんなに魔人の発見が遅いんだ……?

その時、視界の端に無数の火の玉が映る。それを難なく避けると、ふと陽気な声が聞こえてくる。「おおー、今のを避けるかー、やるねぇお前。」

そこには、髪の赤い、15歳ぐらいの少年が立っている。

目の下に本の黒いラインが描かれていて、黄色で縁取られた赤いローブをまとっていた。

「お前はもしや······ロザリスの≪ソロモン72柱≫か?。」「アハハッ、ご明察。」

「もしや」とは言っていたものの、ホムラにとってこの展開は想定済みだった。

―――まさか、ここまで自分の考えが当たるとは。あまり当たっては欲しくない予想だったがまぁ良いか。……さて、ここからどうするかな······。

「はっ、名無しがノコノコやってくるとは。」「名無し? ふざけるなよお前。俺のはアモン。選ばれし魔術師≪ソロモン72柱≫の第七列だ!」アモンと名乗る少年はホムラの発言が癪に触ったのか、少し口調が荒くなる。

「アモンねぇ……、元の名前はどうしたんだ? ああ、そうか。 上書きされちゃうもんな、選ばれし魔法使いさんとやらは。かわいそうに……。」魔法を使う方法には二種類ある。人の体内の生命エネルギーを魔力変換したもの「生命魔力シグナを使う「魔道」と周りにある自然エネルギーを魔力変換したもの「自然魔力ネイト」を使う「魔術」だ。一般的に魔道を使う魔法使いのことを「魔導師」、魔術を使う魔法使いのことを「魔術師」という。≪ソロモン72柱≫とは厳しい選抜を勝ち抜き選抜された、72人の魔術師のことであり、その戦闘力はアルバルトの≪一つ名≫に匹敵する。また、それぞれに≪ソロモン72柱≫の悪魔の名前が与えられ、元の名前を上書きされる。

ちなみに、彼の元の名前は「デルタ」だ。

「てんめぇ…… 殺す!」アモンは、右手を頭上に突き出した。

「火の隕石フレイム・メテオ!」そう叫ぶと、無数の石がアモンの周りに浮かび、次々にそれらが燃え出す。

「燃やし尽くす!」瞬間、「火の隕石フレイム・メテオ」はホムラへと一斉に向かっていく。

「あー、まずいかもな……これは。」ホムラは逃げるが、いくつかの「火の隕石それ」は、依然追ってくるため、木々を上手く使ってそれらを回避していく。

「おいおい、生意気な口きいてた割には、逃げてんじゃん。なになに? もしかして、びびっちゃてんの?」後ろからついてきているアモンが挑発する。

「うるせえなぁ、ちょっと考え事してんだよ。お前ごときその気になりゃいつでも殺せる。」ホムラは淡々と答える。

「おい、てめぇ…… 人をなめんのもたいがいにしろよこの野郎……。

その腰についてる剣を抜く勇気もないくせによぉ。」

アモンは相当頭にきたのか、顔がひくついている。

たしかに、ホムラはまだ一度も剣もとい刀を鞘から抜いていなかった。

「あー別になめてるわけじゃない。あと、これは「太刀」っていうんだ。

それに、領土侵犯してるのはお前だ。何言われても文句は言えないだろ?」

「……んなことはどうでもいいんだよ! もういい、絶対に殺してやる!」

いつのまにか、少し開けた場所まで来ており、二人は立ち止まり向かい合う形となっていた。

「なぁ、あれってお前が出したのか?」ホムラは魔人がいると思われる方向を指さしながら言う。

「はぁ? あれってなんのことだ?」アモンは本当に知らないというように答える。―——あれ? ちがうのか。まぁ馬鹿正直に答えるとは思わないが、嘘をついているようにも見えない。それに、こいつが出したんなら本当にまずいことになる。

「時間稼ぎはお終い? じゃあもう殺しちゃうよ?」  

アモンは両手を振り上げる。「大魔法 業火インフェルノクルズ!」

そう叫ぶと、ホムラの周りに四本の火柱が現れた。

「おいおい……まじかよ……。」「あははっ……死ね!」

四本の火柱がホムラに向かい収束し、ホムラを襲う。

「悪いなぁ、お前じゃ俺は殺せない。」そう呟いてホムラは刀を少し抜くと、

「カチッ」とすぐに刀を納める。

「納刀術 明鏡止水」瞬間、ホムラの周りを強い風が囲い、火柱は消えていく。

「……は? お前、今なにしたんだよ……? 俺の大魔法だぞ?」

アモンは目の前の光景に唖然とする。


ロザリスの神話では「アモン」とは火を司り、「炎の伯爵」の異名をとった、ソロモン72柱の中でも高い戦闘力を持っていたとされる悪魔だ。

それ故、これまで「アモン」の名を与えられるものは、ロザリスきっての戦闘狂であり、高位の火炎魔法を使えるものが選出されるのが習わしとなっていた。

そのため、彼「デルタ」も自他ともに認める火炎魔法の使い手であり、その威力に彼は絶対の自信を持っていた。

はずだが、その火炎魔法が目の前でいともたやすく破られてしまっていた。

「な、何しやがった! 俺の火炎魔法がそんな簡単に破られるはずがっ……。」

「おいおい、別にそんな変なことでもないだろ? 俺がお前より強いだけのことだ。」ホムラは平然という。

「あは、あはは、あはははは! 調子に乗るなよ! 俺の魔法はこんなもんじゃねぇ! 次で仕留めてやる! 行くぞ大魔法——」 

「悪いなぁ、もうお前の火遊びに付き合う暇はない。」

「あ?」ホムラは腰を少し落とし、刀の柄を握ると「抜刀術 弧月!」そう叫び、アモンにめがけて水平に刀を振りぬく。

瞬間、アモンへ三日月形の斬撃が放たれる。

「がはっ、」ホムラが放った斬撃はアモンの首と胴体を切り離し、アモンだったそれらは赤いローブを残し、無数の粒子になり消えていく。

ロザリスではアルバルトに侵入する際、情報の漏洩や手掛かりを残さないため、

「ロスト・ダイ」という呪文がかけられ、アルバルトで死んだときには、死体を残さず消えるようになっていた。

「ふぅ、なんかうるさいやつだったな。」ホムラは一息つくも、

「はっ、魔人!」本来の目的を思い出し走り出す。が、

———魔人を発生させたのは魔術師じゃないのか……。 ならなぜこんなに報告が遅れた? 魔術師が魔法で隠ぺいしていたのなら納得だが……。どこか、いやな予感がするな。

頭の中には依然、疑問が残ったままだった。


———ユルバ森林 北西部―——

「ハァ ハァ ハァ 急がないと……」ホムラがアモンと戦っているとき、

テオは一人、全速力で森を走っていた。

それはなぜか? ……話はほんの数分前にさかのぼる。

———「ねぇテオ、大きくなったら何になりたい?」「うーん、僕は騎士になりたかったけど、もう無理かもしれないな……。」「諦めちゃだめだよ! 私はね、お嫁さんになりたい! きれいなウエディングドレスが着たいの!」

「ふーん、お嫁さんかぁ いい「ドオオオオン」うわっ!?」「キャー!」

激しい地鳴りが起こったかと思うと次の瞬間「グワァァァ」耳をつんざくような雄たけびが聞こえる。テオとレイニーは思わず耳をふさいだ。

「な、なに?今の……。」「わからない。ただ、ここにいちゃまずい気がする。」

テオは言い知れぬ恐怖と危機感を感じていた。

子ども達が危ない……「レイニー、僕は他の子を助けに行かなくちゃならない。

レイニーはここから一人で森から出てほしいんだ。酷な判断だということは分かってる。でも、「大丈夫だよ、私、怖くないから!」レイニーの声におびえた様子はなかった。「そうか、えらいなレイニーは。森を出たら近くの駐屯所へいって助けを呼んでほしいんだ。」テオはレイニーの頭をなでながらやさしく言う。

「わかった! すぐに呼んでくるから!」そうして、二人は反対の方向へと走り出し、今に至る。既に奥の方からは、何度かさっきの轟音が響いていた。

……急がないと、まずい……。

しばらくすると、「あ! あれか?」森の中の道のようなところに人の姿がある。

突然の爆音に気絶でもしたのか、倒れているように見えた。

「おーい! ユーリー! ピーター! マイト! リセイル!」人影に向かって一人一人の名前を呼ぶが反応はない。「気絶しちゃったのか? だとしたら、早く起こさないと逃げられないな」。テオは急いで駆け寄る。

が、それは子ども達ではない。「き、騎士?? なぜここに……?」

鎧を身にまとい、盾と片手剣を持った騎士がそこに横たわり気絶していた。

その瞬間―——複数の人影が視界に映る。ただそれは、空中にあった。

「え?」どさどさと人影は次々に地面に落ちてくる。

「がはっ」小さく呻きすぐに気を失ってしまう。

「だ、大丈夫ですか!?」落ちてきた、いや飛ばされたというべきであろうか。

飛んできた人影は全て、先程の騎士と同じ格好をしていた。

テオは何度も肩を揺らすが、反応はない。

「気絶している……。」―——いったいこの森で何が起こっているんだ?

テオは騎士が飛ばされてきた方向を見ようと道を進む。

そこにあったのは目を疑いたくなる光景だった。

視界に映るのは、二本の角を生やし棍棒を担いだ巨大な生物と、20人以上の騎士達。魔人は巨大な崖を背に立ち、騎士らはそれに立ちふさがるように陣取っていた。その空間だけ木々に囲まれた円形の広場のようになっている。

「あれは……、ま、魔人……?」恐怖で体が硬くなる。

いつしか、本で読んだあの「魔人」である。

口から出る声は上ずってしまい、なぜこんなところに魔人が? という困惑で頭がいっぱいになる。……この距離まで盾の騎士たちを吹っ飛ばした?

「逃げないと……」 だが、体は金縛りにあったように動かない。

ただ、魔人が居ただけでもかなりの恐怖だが、テオはそれで動けなくなるほど脆弱ではない。しかし、今はそれだけではなかった。

先ほど言った20人以上の騎士たち、そのが魔人の周りに横たわっていたのだ。残った数人の騎士に対して、魔人がけたたましい雄たけびを上げる。

「グオワァァァァァ」思わず耳をふさぐ。

幸い、それで固まっていた体と思考が動き出した。

だが、真っ先にテオの頭に浮かんだのは「逃げよう」ではなく、「子どもたちを助けなければ」という思いだった。よく見ると、兵士たちのさらに奥側の木の陰に数人の子供たちが居た。

「良かった、無事だった……。」テオは見つからないようにそーっと裏から駆け寄る。「おーい、大丈夫だったかー?」安心させるために軽い感じで言ったが、これが逆効果だった。

「うわぁぁん、テオぉぉ、ごわかったぁぁ」子供たちは泣きじゃくりながら

森から出てきてしまう。

「なっ、ちょ隠れて!」遅かった、魔人が子供たちの存在に気づき、視線が向けられた。―——しまった、でも、守らなきゃ、絶対に!

テオは剣を抜き子供たちをかばおうと魔人の前に立つ。瞬間、棍棒が振り下ろされてくる。

「あ、危ない!」「少年、避けろぉぉ!」すでに満身創痍な騎士たちが叫ぶ。

―――くそ、こんなことしても何も変わらないか……。

だけど、「うおぉぉぉぉ」―——諦めはしない。

大きな木の塊が視界を覆う。

―――死ぬときは時間がゆっくり流れると聞いたことがあるけど、全然そんな気がしないや。「ドゴオォォン」轟音と砂塵が舞い、それが森の中をさざ波のように駆け巡っていく。

―――目の前が一瞬、真っ暗になるも、すぐにまた光り出した。ああ、僕は死んじゃったのか。……みんな、守れなくてごめん。

テオが周りを見ると、なぜか子供たちは気絶していた。

「おーい、起きろー、って、え?」そこにはさっきまでと同じ景色が広がっており、

子ども達だけでなく騎士達もみな倒れていた。

「僕はまだ、生きてる? いやまさかな……。 この人たちもみんな魔人にやられちゃったんだ。」

そう思ってふと顔を上げると、目の前にはアークデーモンが立っている。

「……は? え、なんで? 僕は死んだんじゃ……?」テオは困惑する。

「グオオオオオ」アークデーモンがもう一度テオに向かって棍棒を振り下ろしてくる。「うわぁぁぁ」テオは思わず手を顔の前に出すが、「ガキンッ」甲高い金属音のような音が響く。

「へ?」―――全く痛くない? どころか、なんだこの全身に感じるエネルギーは……?

「え!? な、なんで魔人が倒れてんの!?」

たしかに、アークデーモンの攻撃はテオに直撃していた。

にもかかわらず、倒れているのはテオではなくアークデーモンの方だった。

テオは棍棒で殴られたはずの自分の手を見る。

「な、なんだこれ……?」赤と黒の模様に鋭利な爪を生やし、隆々とした筋肉を持つそれは、およそテオの手とは思えない。      

不審に思ったテオは手以外の体中を見るが、それら全てが変貌している。

足にも鋭利な爪が生え、服を着ておらず、全身を赤と黒の模様で覆われていた。

さらには、「え、なんだこの背中に感じる違和感は……?」テオは背中を触ってみる。「こ、これはもしや……。 つ、翼?」そう、翼が生えていた。

「嘘だろ……。これじゃどっちが魔人かわからないじゃないか……。」

そして、テオは全身にあふれんばかりのエネルギーも感じていた。

「グオ、グオオオ……。」アークデーモンはようやく起き上がる。

「ウガァァァァ」今度は火を吐いてくるが、「熱っ……くない?」テオには全くのノーダメージだ。「なんだか、よく分からないけど……。倒させてもらうよ魔人!」テオはそう叫ぶと思い切りジャンプして魔人に近づき、渾身のグーパンを放つ。

拳が魔人に当たった際、なにか雷のようなものが出ていた。

―――なんだ? 今の。まぁいっか、ちょっと疲れちゃったな僕。

テオはそのまま気を失ってしまう。

「おいおい……なんだあれは?」救援に駆け付けるべく訪れたホムラは目の前で起こった出来事に理解が追い付かなかった。

―――あいつはなんだ? 魔人? いや、半魔人、「半魔」とでもいうべきか。

つーか、なんで他のやつまで倒れてるんだ? まぁいいか。

「ははっ、面白くなってきた。とりあえず敵意はなさそうだ。保護しておくか。」

そう言ってホムラは、にやりと笑った。

      

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