第2話◇◆囚われの少女
今日は、村の近くの採掘場に来ていた。
「で、僕は何をすれば?」
ファイが聞くと、
「そこ。削ってくれればいい」
と、エルフの少年のグライが言った。
「ツルハシ、持てるだろ?」
「まあ、持てるけれど…」
「手伝ってくれよ。此処までついて来たんならいいだろ?あとで何か奢るからさ。な?」
「ふ〜ん、分け前はしっかり貰うぞ」
「ありがとう、ありがとうファイ」
まぁ、ついて来た自分も悪いんだし、と思い、ツルハシをスライムの身体全体で包んで持つ。
隣ではグライが、一生懸命ツルハシを振り落としていた。
ファイも、それに続いてツルハシを振る。
カツーン、カツーンと、岩石を打って掘り起こす。
掘り出す途中で、たまに爆発虫など色々な虫が出て来ることも。
ただ、色々使えそうなので其れを一匹ずつ身体に取り込んでいく。
例えば、爆発虫は、身体が潰れると爆発する。
斬蓮ダンゴムシは、刃物に体液を塗り込むと切れ味が良くなる。
そう云う物達を取り込みながら、ツルハシを振り落として岩石を彫り起こしていく。
現れた岩石は、色や大きさが様々。
ファイはこの分野は少ししか分からないので取り敢えず全部台車に乗せる。
………。
しばらく其れを続けて。
台車が7割位溜まった所で、少し休憩。
「ふ〜、僕は少し休むけど、グライはどうする?」
「僕はまだやってるよ。ファイは休憩してて」
採掘場なんて最近はあまり来てなかったので、観察がてら少し動くか。
少し気になり奥の方へと移動する。
ここの採掘場は村から近いのもあって、入口近くは、かなり掘り尽くされていた。
しかし中は穴が迷路状になっていてモンスターもたまに出くわす事から、中々奥へはベテラン達以外は入ろうとする者は少ない。
だからこそなのか、小遣い稼ぎの無謀な者も
あまり立ち寄らないのだ。
「おや?」
少し進むと、誰かがいる。
よく見ると、
男達が少女の口に手を当てて抱き抱えていた。
男達は、何かを広げて凝視している。
地図を見ている?
物陰に隠れてもう少し観察。
男達の一人が、キョロキョロと辺りを見回している。
何かを警戒している?
少女は、布の様な物で包まれていて、目を閉じてぐったりとしていた。
もしかして人攫いなのか?
だとしたら助けなければ。
周囲を見渡す。
コツン。
コツン。
「?、誰かがいるのか」
男達の一人が呟く。
「只の落石じゃないか?」
「分からん、少し見て来る。子供を離すんじゃないぞ」
「ああ」
男が一人、離れる。
少し距離を離した所まで。
そして、
物陰まで誘い出したた男の頭部に身体を包んだ。
男はもがいて抵抗したが、やがて気を失って倒れてしまう。
「よし、まずは一人」
男から武器を奪って、また物陰から様子を見る。
残りの男達は、ファイが倒した男がまだ戻って来ないのを気にして落ち着かない様子だ。
「まだ戻って来ないぞ。どうするよ?」
「よし、お前はそこでじっとしてろ。俺たちで何があったか見て来る。ガキを離すんじゃないぞ」
と言って、少女を抱えている男を一人残して残りの男達がこちらへやってくる。
「おい、こっちへ来てみろ」
男の一人が言う。
倒した奴が見つかってたか。こっちも早くしなけれはば。
残された男は少女を抱えてじっとしていた。
たまに辺りを見回して警戒している。
ファイは天井に飛び付いて上からジリジリと少しずつ近づいていた。
平べったい状態になっているので、見た目は天井の壁と同化してかなり見つけづらいと思う。
しかも男は上方向は警戒していない。
少しずつ進んで、とうとう男の上まで来た。
男はまだ気付いていない様だ。
よし。
ファイはざっと落ちると、男の頭に飛び付いた。
すぐさま頭を覆うファイ。
「!」
男は驚いて引き離そうとするが中々上手くいってない。
しかし、時間もそんなに無い。
男達が戻って来る前になんとかしないと。
ガヤガヤと、男達の足音が近づいてくる。
戻ってくる!
仕方ない。
ファイは、男の腕の部分にも身体を伸ばす。
そこに体内のの爆発虫を移動させ、すり潰す。
バンっ。
鈍い音がして男が少女から手を離した。
今だ。
ファイは少女を包み素早く移動する。
顔だけ出した少女は目が覚めたのか驚いていた様だが、
「大丈夫?」と声を掛けると、目を潤ませて、じっとしてこちらの自由にしてくれた。
だが、少し移動した所で、男達が戻って来た。
「あ、何逃げようとしてる、早く捕まえろ」
男達がタガーをてに襲いかかってきた。
くっ、それなら。
スライムの身体から、モンスター対策に持ってきた煙玉を投げる。
しゅわわわわ。
煙が辺り一帯に充満した。
今のうちに行こう。
記憶を頼りに元来た道に戻る。
でも、何もしないと追い付かれてしまう。
なら。
ファイは身体に取り込んだ爆発虫全部、天井に放り投げた。
そして最初の男から奪い取ったダガーをその爆発虫達に向けて投擲する。
ズバババババ、ズドドドドドドーン。
虫で天井を爆発させて道を塞いだ。
「よし」
これで追っては来れないだろう。
戻ると、グライはまだ、掘っていた。
「ファイ、どうしたの?その子は?」
「良いから行くぞ」
「ああ、待って、鉱石を持って行かなきゃ」
グライは台車をヒイヒイと押していく。
「ファイも手伝ってよ」
「はぁ、分かった」
少女を台車に下ろす。
しかしファイの身体から離れると、咄嗟に少女はファイの身体を抱きしめた。
「うーん、どうしよう」
少し考えて、
「一緒に押すか?」
と聞くと、少女はそのまま台車から降りてファイに片手を乗せた。
もう片方の手は台車に。
手に絡み着いた蔦と共に。
そう、少女は植物族だったのだ。
少女は絡み付いた蔦と手で力強く台車を押す。
ファイとグライと共に。
そのまま、ファイと少女とグライは、一緒に台車を押して出口へ。
その後は、念のため辺りを警戒しながら進んだ。
しかし結局追っても無くて。
そして、そのまま村へ帰っていったのだった。
◆◆続く◆◆
スライム隊長の日々。 紅鶴蒼桜 @MariRube
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