スライム隊長の日々。

紅鶴蒼桜

第1話◇◆帰り道

ある大陸に

一匹のスライムが居ました。


そのスライムは自分が弱い種族だと分かっていて、それでも頑張って生きています。


これはそのスライムの日々の物語。


◇◆◇


「ふぃ〜、今日はこれまでにしよう」

ピョンピョンとはねる水の塊。

スライムです。

「いつも有難うね、ファイ。身体は大丈夫かい?」

「いえいえ、いいですよ、サフィー」

と、スライムはエルフの少女、サフィーに言う。

そう、今スライムの身体の中で、魚が泳いでいた。これはサフィーが、先程釣った物だ。

普通は魚籠を使うのだが、それだと村に帰る迄に鮮度が僅かだが落ちてしまう。だが、スライムの身体は水なので、ファイの身体の中に入れて置くと、鮮度が落ちないのだ。

ただ、水の粘度を下げる必要が有るけれど。

そして、というか、スライムの身体の中では魚はまだ生きている。


道中。

スライムのファイは、サフィーの頭の上に乗っていた。

頭の上にいるので移動しなくていいので楽ちんなのだ。それにこれは、サフィーにもいい事があったりする。

「ふふ、ファイの身体、涼し〜。頭から冷気が降りて来るよ」

サフィーは歩きながら、たまに空いた手のひらで、ファイの身体をペシペシ擦り擦りと触ってくる。

「うーん、冷え冷えだよ〜」

サフィーの屈託ない声が眩しくてこっちも何が笑顔になる。

スライムだから分かりにくいけれど。


そして、村への道を半分位過ぎた時。

「あれ、何かな」

と、サフィーに言う。

「ん?」

とファイもそちらに意識を集中させると、

黒肌のモンスターが数人歩いていた。

「ブラックゴブリンか。どうしてこんな所に?」

彼らは、普段森の奥にいる筈なのに。

更に言えば、ブラックゴブリン達は各々武器を持っていた。

こちらは武器らしい武器は無い。

どうする。

ファイは、茂みの奥に身を潜めて、気付かれない様にゆっくりと歩いて行く。


しかし、ブラックゴブリンの一人が、此方の方に近づいてきた。

とっさに隠れるファイとサフィー。

そのブラックゴブリンが茂みを覗き込んできた。

「こっちに誰かいた様な気がしたんだがな」

と全身が茂みの中に入った時、

今だ!

ファイはブラックゴブリンの頭部を自身の身体全体で包み込んだ。

急に視界が悪くなり、呼吸も出来なくなったブラックゴブリンは、もがいてもがいて顔を覆うスライムを引き離そうとするが、中々上手くいかない。

遂に呼吸困難で、倒れてしまった。

やっと一人。

茂みから外をみる。

残りのブラックゴブリンは少ないが、油断は出来ない。

倒れたブラックゴブリンから武器を取り上げると、

「サフィーは隠れていて。僕が撹乱して来るからその内に村へいって」

「私もファイファイアボールぐらい出来るんだから。ファイが危険になったらここから加勢するよ」

「うん、ありがと。でも、多分大丈夫だよ」

と、サフィーの頭の上に一回乗っかり頭を撫でてから降りる。

ブラックゴブリンから頂いた剣を取り、ファイは茂みの外へ。

「頑張って」と、サフィーの応援を聞きながら。



剣を引きずって歩くスライム。

ブラックゴブリン達から見える位の距離になると、

「フライ」

持っている剣と一緒に空中に浮かびます。

その姿はまるで剣がひとりでに動いているよう。

ブラックゴブリンの一人が、此方に気付いき。

「なんだありゃ。なんで剣が浮かんでいるんだ?幽霊か?いやいや今は昼間だぞ」

「怖がりだな。幽霊諸共やっつけてくれるわ」

ブラックゴブリンの一人がファイにを斬りかかろうとしたが、ファイは剣ごと身体を捻り

躱す。

そして、一太刀。

一撃一撃と、ブラックゴブリンを追い詰めていく。

傷が増えたゴブリンは、

「くっ、退却!退却するぞ」

と、此方を睨みつけながら、仲間と共に去って行きました。



「ふー、なんとか帰って行ったか」

辺りを見渡してもういないことを確認するとファイは、地面に着地すると、大きく息を吐く。


「サフィー、もう出て来ていいぞ」

声を掛けると、

「大丈夫、ファイ?」と心配そうに茂みからでてくるサフィー。

「大丈夫だよ、さあ、帰ろうか」


道中。

「そういえば魚は?」

「魚籠に入れときましたから大丈夫ですよ」

魚は無事だったか。危険が去ったのは嬉しいけれど、魚が何も無いのは寂しいからな。

そして、剣はサフィーに渡し、魚は又ファイの身体に入れて。そして定位置の頭の上へ。

辺りを警戒しながら今度こそ村へ帰るのだった。


◆◆続く◆◆

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