第110話 夏だ、水着だ、海水浴だ!2

[まえがき]

遅ればせながら、

みなさんに楽しんでいただければ、作者として望外の喜びです。

◇◇◇◇◇◇◇



 ホムンクルスのモエがやって来て、女子たちの着替えが終わったと知らせてくれた。


 勉強部屋に戻り扉を開けて中に入ると、みんな色とりどりのかわいらしい水着を着て勢ぞろいしていた。俺の後に続いて部屋に入って来た村田の息をのむ声が聞こえたので振り返って見ると、目を見開いて口を半分あけた村田が突っ立ている。


「どうした、村田?」


 声をかけてもなかなか村田が起動しない。


「霧谷くん、レディーがこうして、水着で出迎えているのに何もないの? 村田くんの反応の方が普通よ」


 かわいい黄色のセパレートの水着を着た吉田が良くわからないことを俺に言った来た。ああ、そういうことか。これは水着姿をほめてもらいたいんだな。


「吉田、かわいらしい水着がよく似合ってるじゃないか。みんなも水着が良く似合ってる」


「霧谷くん、全然気持ちがこもってないじゃない」


「お兄ちゃーん。デリカシーなさすぎー」


 小学生の着るスク水の色だけ赤くしたようなワンピースの水着を着た美登里にまで言われてしまった。俺にどうせよと。


「霧谷くんは、そういった人だとは思ってはいたけれど、思った以上の人だったわ」


 中川までいったいどうしたんだ。中川の着ている水着は、胸元がそれなりに開いた白のワンピースだった。腰のあたりに大きなハイビスカスかなにかの花の模様がプリントされていて、腰のあたりに何とか言う布を巻いている。それって邪魔にならないのか?


 出入り口をふさいだ形の村田の脇を通り抜けてドライが部屋に入って来た。


「マスター、マスターたちが海水浴だというので、いろいろ取りそろえてきましたー」


「なんだ?」


「ビーチチェアーやパラソル。そういったものですー。ついでにバーベキューセットに適当な食材や飲み物も入れておきましたー」


 アイテムバッグをドライから手渡された。いやに今日は気がきくな。


「ドライわざわざありがとう。気が利くじゃないかー。あれ、口癖が移ってしまった。おほん、そういえばドライ、どうしてパラオの無人島なんかの情報を集めてたんだ?」


「ちょうど、あの辺りは緯度的に人工衛星の打ち上げに有利なものでー。ロケットの打ち上げ場で都合のいいところと思って探しましたー」


「それじゃあ、この前のカリブ海の島は?」


「あのあたりに巡航ミサイルの基地があると便利なので1つ作っておき置きましたー」


「ミサイル基地をか?」


「巡航ミサイルの基地はまだ何カ所かありますー」


「そうか。あははは」


「マスター、どうかしましたー?」


「ドライ。そのくらいにしておいた方が良いんじゃないか?」


「マスターが今後つべき時のための準備ですー。準備するに越したことは有りませんー。アインもそういっていましたー」


「アインまでもか? わかった、好きにしてくれ。俺たちはもう海水浴に行くからな。

 それじゃあ、みんな、荷物を持って、着替えはここに置いてていいぞ。また俺の手を持ってくれるか? 荷物は俺がアイテムボックスに入れていこう。

 いくぞ!」


 俺とドライの良くわからないがかなり物騒な会話を聞いていたみんなが、俺の腕に手を置いたのを確認しパラオの無人島に再度『転移』した。


 そして、今度は俺以外のみんなで、


「わー!」といいながら白い砂浜を走って、軽く波が打ち寄せる波打ち際まで走って行った。


 頭上に輝く太陽は眩しいが、暑さのわりにさわやかだ。そよ風も気持ちいい。


 俺は、ヤシの木の木陰になる辺りに、ドライからもらった、アイテムバッグからビーチ用品を取り出して、そこらに並べておいた。


 並べたビーチチェアの上に寝転がり、波打ち際で騒いでいるみんなの姿を見るとはなく眺めていたら、中川がやって来て、隣のビーチチェアに腰かけた。


「きれいなところね」


「いいところだな」


「ずっとこのままでいられたらいいわね」


「一年一年歳をとっていくから人間だ。このままずっと同じじゃ人じゃない。自分も周りも変わっていく中で自分を見失わなければいいんだ」


 アイテムを使って7歳も若返った自分がこう言うのも嘘くさいが、これは俺の本音だ。


「霧谷くんはいろいろな意味で強いからそうよね」


「そうかもな。俺を変えようと周りがちょっかいを出してくるようなら、周りを変えていけばいい。変えられる力があるのならば力を使うことをためらう必要はない。そう思わないか?」


「そうね。それじゃあ、私も少し泳いでくるわ。霧谷くんも来ない?」


「いや、そろそろバーべーキューの支度を始めておくよ。これだけみんながはしゃいでいると、みんなが持ってきたお弁当だけじゃ足りなくなりそうだし、こういったきれいな場所でのバーベキューは最高だろ?」


「手伝いましょうか?」


「いいよ。中川はみんなと遊んでてくれ。そんなに大変なことじゃないから一人で大丈夫。ある程度、準備ができて焼き始めたらみんなを呼ぶから」


「それじゃあ、お願いね」



 まず、アイテムバッグの中に入っていた、折りたたみのテーブルをセットし、人数分の折りたたみ椅子を並べた。テーブルの上には紙の小皿や大皿、紙コップ、割箸、冷たく冷えたジュースやコーラのペットボトルなど並べて置いておく。


 次はバーベキューの準備だ。バーベキューコンロの中に木炭を敷いて、バーナー代わりの『ファイヤー』で簡単に着火。その上に食油をぬった金網を敷いて準備OK。


 火の通りの悪そうな野菜やクーラーボックスの中に入ったサザエなどの大物を先に並べて、みんなを呼んだ。


「バーベキューを始めるぞー」


「わー!」そう言ってみんながこっちに駆けて来た。


 こいつら、「わー!」しか言わないのか?


 わいわいいいながら、銘々好きなものを何カ所かに置いたクーラーボックスの中から取り出して網の上に乗せていく。


 みんなの荷物をテーブルの脇にアイテムボックスから出してやった。各々自慢の料理を大皿の上に置いて並べてくれたのでかなり立派な食卓になった。


 トングで食材を裏返したり、火加減の弱い場所に移したり、結構忙しい。いい具合に火の通った食材に、用意したバターをつけたり醤油しょうゆを垂らして香ばしいいい匂いがあたりに漂う。食材からこぼれた汁が赤く燃える木炭の上にこぼれた落ち煙が上がる。


「焼けたら、テーブルの上に置いてある小皿にとって食べ始めてくれ。あと各自で持参した昼食もテーブルに並べておいてくれ」


 みんなが席について、相変わらずワイワイ言いながら食べ始めた。


「霧谷くん、はい」


「霧谷クンと一緒に食べようと思って、お弁当は用意したのだけれど、温かいバーベキューの方が良いかと思って」


 中川がやって来て小皿の上に、バーベキューで焼いた牛肉と、野菜、食べやすいように殻から取りだしたクルマエビを乗せ割りばしと渡してくれた。


「中川、ありがとう。これを食べ終わったら次は中川の作った弁当を持って来てくれるか」


「うん」


 一緒に渡されたコーラを一飲みして、


「確かに、こんな生活がいつまでも続けばいいな」


「霧谷くんでもそう思ったのね。よかった」


 そういった中川が俺の顔をみてほほ笑んだように見えた。





[あとがき]

次話、「第111話 最終話、世はなべて事も無し」最終回です。よろしくお願いします。



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