第96話 帰還者同盟4、アフロ男


 帰還者同盟は俺を手荒く迎えてくれたことで、かわいそうに俺に敵認定されたわけだ。これまで能力のない一般人相手には痛い目に会わせるくらいで済ませてやって来たが、相手が本職プロならば容赦する必要はない。処理するだけだ。


 プレハブ小屋の床に設置されていた転移陣の隠ぺいを引きはがし、刻み込まれた魔法陣を調べてみると罠はないようだ。しかもまだ稼働している。刻まれた魔法陣を解析しつつ罠を取り外し、正常に転移陣を機能させなければいけないと思っていたが、不用心な連中のおかげで、面倒な作業が省けたようだ。


 そんなに不用心だと、俺みたいなお邪魔虫が文字通りお邪魔しますよ。


 俺は安心して、転移陣の上に立ち、その先に転移した。


 転移した先は、学校の教室くらいの広さのある岩肌がむき出しになった天井の高い部屋で、転移部屋とでもいうのか、俺の使った転移陣の他にも数個の転移陣が設置されていたが、生きている転移陣は、今俺が使った転移陣だけで、何の意味があるのかわからないが他はダミーの転移陣だった。


 さっきまでの外の気温と比べここの室温はかなり低い。暗めの照明器具が天井からぶら下がっている。天井のところどころから水滴が床に落ちていた。天井から滴った水で水たまりが何カ所かできて、あふれた水は、部屋の隅の側溝に流れ出ているようだ。


 部屋の出入り口は一カ所。そこから部屋を出ると岩盤を素掘りでくり抜いたような通路が続いていた。ところどころ照明器具が通路の足元に置いてあり足元はしっかりしている。


 現在位置がどこなのかは皆目見当はつかないが、かなり地下深いところにいるような気がする。


 天井から滴る水を受けながら、ゆっくり通路を歩いて行くと、前方の突き当りに赤茶けたさび止めを塗った金属製の扉が見えて来た。戦闘服は水滴をはじくが、表面はある程度水滴が付着している、そのままにしておくと電撃攻撃に対して不利になる。先ほどのハゲ坊主の実力から考えて、無用な用心だと思うが、念のためいったん立ち止まり、少し温度を上げた『ブリーズ』で戦闘服に付着した水滴を吹き飛ばしておいた。


 数歩、赤茶けた扉の方に進むと、扉が開き、今度は髪をアフロ型にチリチリにした男が現れた。


「おまえが霧谷か? 風間がおまえの相手をしていたんだろう? ヤツはどうした?」


「風間? ああ、あのハゲ頭か。踊りはおもしろかったがそれ以外は下らん男だった。今頃処理済みだと思うぞ」


「処理?」


「分かりにくい言い方がだったか? 処分といえばわかるか?」


「一人で十分だと言って出て行った割にふがいないヤツだ。だが、貴様、俺は風間のようなヤワな男とは違うぞ。もはや容赦しないから覚悟しろ!」


「なんでもいいから早くしてくれ」


 俺がいい加減じれて適当に立っていると、アフロ男がやや腰を落とし握りしめた右手を突き出した。


 バーン!


 バイクの爆音のような轟音が響き、アフロ男が右手の中に隠し持っていた金属玉が高速で撃ちだされた。まるで、どこかの電磁砲だ。辺りに、オゾンか何かの鼻につくような臭いが漂っている。


 ただ残念なのは、金属玉を撃ち出したのが、かわいい女子中学生ではなく、むさいアフロ男だったことと、金属玉の速度が思った以上に低速のだったことだ。これだと簡単によけることができるし、このように手でつかむこともできる。


 俺は飛んできた金属玉を左手の中指と人差し指で作ったピースサインで挟みとってしまった。


 それを見たアフロ男は、今度は左右の手から金属玉を撃ちだし始めた。


 バーン! バーン! バーン! ……


 全部受け取るのも面倒なので、金属玉が俺の戦闘服にあたるに任せることにして、1歩1歩、アフロ頭に近づいていった。俺の戦闘服にあたってひしゃげた金属玉が床に落ちて乾いた音を立てる。


 左右合わせて10個ほどの金属玉を撃ちだしたアフロ頭は肩で息をしている。


「それでおしまいか? それじゃあ、俺のほうからいくぞ」


 そういって、先ほど指先で受けた金属玉を右手に持ち替え、指弾の要領で親指から撃ちだしてやった。少し力を込めて撃ちだしたのだが、金属玉が二つに割れてしまいアフロ頭の両頬をかすめて飛んで行き、その先の岩盤を粉々に破壊してしまった。


 もう一歩前に出ると頬から血を流したアフロ頭が、出て来た扉の中に逃げ込もうとくるりときびすを返した。しかし、動きが遅すぎる。アフロ男が1歩進む間に追いつき、膝の裏側を軽く蹴ってやった。


 膝カックンされたアフロ男は妙な感じに転がり、扉の枠に頭からぶつかって止まった。


 なんだか、俺が弱い者いじめをしてるみたいだ。それがこいつの真の狙いだったのか?


 とはいえ、先ほどの金属玉でも、一般人が1発でも受ければ、受けた部位が爆散する程度の威力は有った。殺しに来ている相手をタダで見逃すことはできない。


「おい、寝たふりをしてるともっと痛い目に会うぞ」


 目をつむってころがっているアフロ頭の腹を軽く蹴飛ばし、岩壁に叩きつけてやったら、目が覚めたようだ。呻きながら、壁にもたれてこっちを恨めしそうに睨んでいる。


「さっきの攻撃、何のためらいもなく俺に仕掛けたろ。おまえ、けっこう人をってるよな。どうだ、手も足も出ない相手に会ってみて?」


 アフロ男の髪を掴んで、頭を引き上げ、顔を覗き込んでやった。


「ゆ、許してくれ」


「おまえ、口の利き方も知らんのか?」


「許してください。お願いします」


 掴んでいたアフロ髪を突き放して、扉を開けて中に入ろうとしたところで、


「バカが、死ね!」


 アフロ男が俺に向かって右腕を突き出して何かしら、魔法を発動させようとしている。


「やめた方がいいぞ」


 振り返って忠告してやったのだが、


 バーン!


 俺の制止を聞かず、何かの魔法を右腕から発動させようとしたようだ。


 アフロ男の右腕が花が咲くように内側から破裂して吹き飛んだ。右腕の付け根から鼓動に合わせて血が噴出し、残った上腕の白かった骨を真っ赤に濡らしている。その状況を目にした当人は目をあけたまま気絶したようだ。


 先ほどアフロ頭を掴み上げた時、男が腕を使って金輪際魔法でわるさができないように体内の魔法回路を左右の腕の付け根あたりで閉じておいたのだが、俺の制止を振り切って大きな魔法を使ったようだ。本音を言えば、俺が後ろでも向けば、魔法回路が閉じたことに気づかず魔法を使うだろうと思ってたんだがな。


 案の定、バカが俺が後ろを向いたことに反応したわけだ。


 放っておけば、こいつはそのうち気絶したまま失血死するだろう。最初の攻撃が無意味だった時実力差がそうとうあることはわかったろうに。そういう意味では謎のままで終わった男だった。




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