第95話 帰還者同盟3
結界空間という特異能力に目を付けた組織は、その能力者、金田光を護送車から連れ出し組織に迎えた。ほとんど役に立たない男だが、その結界空間を作り出す能力は確かに重宝する。金田から得た情報から、霧谷という男が能力を使い、いま話題の武山薬品を乗っ取ったということだ。どういった能力で会社が乗っ取れるのかはわからないが危険な臭いがする。いずれ、霧谷にまみえることもあるだろうと思っていたのだが、案外早い時期に霧谷と思しき男が向こうからやって来た。金田が言っていた通り全身黒ずくめの男だ。霧谷に間違いない。
霧谷が現れた場合、上からは、できれば殺すなと言われていたが、俺の勘が殺せという。これまでこの勘のおかげで生き残ることができたんだ。今回もこの勘に従うまでだ。
「けっこうできるようだが、これはどうだ? ファイヤー・レイン」
超高速で降り注ぐドッジボール大の高温の火球、その数なんと40。その全てが、霧谷の周辺に降り注ぐ。
ドドドドドッー
超高速の火球は地面にあたると瞬時に爆発し、土石をえぐり取る。えぐり取られた土石は爆風で辺りに高速で石の焼けるすえたにおいとともに飛び散っていく。生身の体なら、火球が直撃しなくとも、砕石となった土石の破片でずたずたに切り裂かれる。この攻撃に耐えられたのは、ここ日本支部の今の支部長しかいない。
一連の爆発が収まり辺りが静かになった。爆炎が晴れた後には、ボコボコに抉られた地面、そして黒ずくめの男が何事もなかったようにたたずんでいた。こいつは只者ではないと金田が言っていたのは誇張ではなかった。
まずい! あと、10秒は次の魔法が撃てない。
ブワーン!
昆虫の羽音を何百倍も大きくしたような轟音が顔の近くでしたかと思うと、鋭い痛みを頬に感じた。手をやると、みぎ頬の肉がざっくりとそぎ落とされている。べっちょべちょに血が流れ出て、首筋を伝わった血が迷彩服の襟元から流れ込んできた。
痛みはひどい。今の大魔法でかなりのマナを消費したので、回復魔法をここで使いたくはないが早目に回復した方がよさそうだ。やっと大魔法発動後の10秒間の硬直がとけた。
『ヒール・ウーンド』
痛みが治まり、出血も止まったようだ。俺が動けないあいだ追撃が来なかったところを見ると、ヤツも先ほど俺の頬をえぐった何らかの魔法、おそらく音波系の攻撃魔法を使って硬直していたのだろう。
目の前の霧谷は黒いヘルメットの中から俺を見つめているのが分かる。ヤツの右腕が上がった。何か来る!
ブワーン!
ヤツの攻撃がまた来た。今度は腰に鋭い痛みを感じた。下半身の感覚がなくなった。ゆっくりと俺の体が前のめりに倒れていく。自由になる両手で受け身を取ろうとしたが、岩の上に立っていたことが災いして、そのまま、3メートルほど下の固い地面に頭から落ちてしまった。落ちる途中でなんとか岩にしがみつこうとしたができず、手のひらが傷だらけになった上、右肩を脱臼してしまった。落っこちた時と同じ姿勢のまま、痛みをこらえ、右肩に左手をかけ、体を曲げて一気に体重を右肩に乗せた。
グキッ
変な音と一緒に激痛が走ったが何とか右肩の脱臼を治すことができた。しかし、依然下半身の
岩の上から転げ落ちるとき、ヤツから目を放してしまったが、いまヤツはどこにいる?
先ほどまでヤツが立っていた場所を目で追ったが、どこにもいない。
ブワーン! ブワーン!
あの音が2回続き、右肘、左肘、それぞれから激痛が走った。見ると両腕が肘から先がなくなっている。血が鼓動に合わせて吹き出ている。すぐにでも止血しなければ危ない。
『ヒール・ウーンド』『ヒール・ウーンド』……
マナのある限り『ヒール・ウーンド』を唱えた。
なんとか失血で気を失う前に止血できたようだが、目の前が妙に暗く感じられる。シャツに浸みこんだ血が生臭く鼻につく。視野も狭くなった。これはまずい。依然霧谷に対して有効なダメージを与えていないまま、こちらは既にマナ切れ。両手も失っている。強敵だというならいい暇つぶしだと他の連中を押さえて俺一人で相手をしたが、無謀に過ぎたようだ。無様だが死にたくはない。いまは助けを呼ぶしかないようだ。
「金田、聞こえるか? 結界空間を解除してヒーラーと四天王のうちの誰かを寄こしてくれ」
霧谷がどこに潜んでいるのか分からない今、結界空間をすぐに解除してもらいたいのだが、いつまでたっても結界空間は解除されなかった。
ブワーン! ブワーン!
ブワーン! ブワーン!
[あとがき]
盛大な勘違い回でした
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