第97話 帰還者同盟5、七三男1
アフロ男を蹴散らして、赤茶けたさび止めの塗られた扉をくぐると、その先にエレベーターの扉のような物があった。普段
上の階で、エレベーターが止まったので、ガシャガシャと大きな音を立てて、扉を開けて外に出ると、そこは本格的にコンクリートで巻かれたかなり太いトンネルにつながるわき道だった。5メートルほど先の本トンネルに出てみると、床もコンクリート製で、しっかりしている。ただ、コンクリートの表面は見た感じ、かなり古いものに見える。
どうも人の気配がしない。左右に続くトンネルがどこまで続くかわからないしどうしようかと思案していると、いきなり目の前が揺らいだ。『転移』で誰か、ないしは何かが現れるようだ。相手が『転移』を使えるとなると少し用心した方が良いかもしれない。
『転移』はかなり応用の利く魔法ないしスキルで、自分自身を転移するのみならず、手に持ったものを目の届く範囲なら自由に転移させることができる。障害さえなければ敵の頭の中に石の塊みたいな物体から、魔法で作った火の玉なんかを『転移』でねじ込むことも可能だ。
そんなクリティカル攻撃を許さないため俺のバトルスーツは転移阻害術式が組み込まれており、通常バトルスーツ内で『転移』が発動しないようになっている。ただ、俺が『転移』を明示的に行うと、自動で転移阻害機能は停止するようになっているため自身の『転移』の発動は阻害されない。逆にいうと、俺が『転移』を発動させた瞬間が最も危険な状態、転移の使える敵から見れば最も俺を仕留めるチャンスの瞬間になる。そういった弱点を突いてくる強敵がいないとも限らないため、俺は敵をたおす前に自分に対して転移を発動することはまずない。
さて、揺らぎから何がでてくるか?
10メートルほど先で始まった揺らぎが収まり、そこに立っていたのは、グレーのスーツ姿、若干後退した黒髪を七三に分けた40歳ほどの太り気味の男だった。両手に季節外れの黒い革手袋をしている。それ以外何も特徴のない男で、ロボットかと思わせるほど表情もない。いや、何か化学薬品、それもホルマリンの臭いがする。なんだ?
「キサマガ霧谷カ?」
七三男の発したのは
「ヘンジハナイカ。マアイイ」
喋ってる暇があるなら攻撃しろよ。待っててやってるのに。
悠長さに付き合ってやる義理もないので、こっちからいこうと両
バックハンドブローとでもいうのか、体を右旋回しながら、拳を固めた右腕を伸ばし内側から外側に向かって振り切った。
俺の拳がちょうど転移から現れた男の右頬にクリーンヒットし、そのまま抵抗らしい抵抗を受けることなく振り切られた。
今の一撃で、男の頭が吹き飛べばそれまでだったが、あまりに高速に拳を振り切ったため頭が吹き飛ぶ代わりに上半分がちぎれて、トンネルの天井にあたってそこで頭蓋骨が砕けて、髪の毛やら脳漿やらがべっちょりと張り付いてしまった。
頭のなくなった男は自分の身に起こった出来事を認識していないのか、俺に向かってパンチを繰り出してきた。頭がなくなっても攻撃してくるあたり、やはり
かるくパンチをかわし、構えをとると、右手のグラブに脂肪だか肉だかわからない立体的な汚れがこびり付いている。キショイのでその汚れを振り払った。
接近戦はダメだ。着ているものが汚れてしまう。少し距離を取ろう。
1、2歩後ろにさがり距離をとったところ、こんどは周囲に複数の転移反応が感じられた。
実体化したのは、椎の実型をした砲弾だった。それが複数個俺にめがけて撃ち込まれた。俺の五感が高速移動体を感知したため、自動的に知覚と思考が加速した。同時に、身体強化もおこなわれ、感覚に体が同期できるようになった。
近づいて来る砲弾が良く見える。砲弾の周囲の空気が揺らいでいるのは、砲弾の速度が音速を超えて衝撃波を発生させているからだろう。俺は、じりじりと近づいて来る砲弾を一つずつアイテムボックスに収納していった。
今回の俺に対する攻撃は連携が取れていてなかなか良い。俺じゃなければ詰んでいる可能性が高い。
加速状態の俺から見て静止している七三男のフレッシュゴーレムが目障りなので、『フリーズ』で凍結させ、『インプロージョン・バースト』で内側に向けてつぶしてしてやった。
粉々に砕けた破片で男のいた足元の床に赤いシャーベットの小山ができた。シャーベットが融けると気味悪い汚物になるが、もし片付けの担当者がいるならばご苦労なことだ。
フレッシュゴーレムを汚物に変えたのだが、次は何かな? ここで待っていた方が良いのか、トンネルの先へ歩いて行った方が良いのか? 敵がここで俺を待ち受けていたのだから、もう少しここで待ってればなにがしかの反応が期待できる。
思わく通り、目の前で、転移反応だ。今度は1つ。俺の目の前5メートルも離れていない。
今度現れた男は先ほどの男と顔がそっくりだが、こいつはあの男と違い顔に表情がある。フレッシュゴーレムの元種みたいなヤツか。どういったわけか知らないが、俺に向かって拍手しながら、
「ヴラヴォー! たいしたものです。こちらの差し向けた能力者やゴーレムを蹴散らし、あの砲弾を一瞬で処理してしまう能力。素晴らしい」
何が言いたいのかわからないので、黙ってこの男の上から目線の言い草を聴くことにした。
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